だから俺は彼等に賭けた1
少年たちが廃工場で死を繰り返していた傍ら、とある事務所で男はタバコを片手に死を決意していた。それでも尚、男はナニかを諦めていない。これは終着点ではなく通過点なのだから。
タバコの煙が口から肺に流れ込み、また肺から口を経由して外界へと吐き出される。
椅子に座った男はライターを雑に後ろに放り投げ、それはカレンダーの17の所に当たり、少しだけ部屋を駆け回った後に停止する。
男が苦笑すると含まれていた主流煙が口から漏れ出し、明かりの付いていない事務所の中を行き場のない煙は非日常に迷い込んだ少年少女のように迷い迷ってやがて消え去る。
2月17日、天使の囁き記念日。なぜその日がそう呼ばれているのかなんて男の知ったことではないが、男の中にはその記念日が天使の囁きの日として深く根付いていた。
吸い込む度にジリジリとタバコの火種は男に近づいていく。それはまるで火が付いた爆弾の導火線のようで、一秒一秒が彼の命を着々と蝕んでいく。
この日が天使の囁きの日というのはあながち間違いではないかもしれない。彼の元に確かにナニか、現実では説明の出来ないようなナニかが入り込み、彼は椎名遊大の死を確信した。
そのことにはもう驚かない。現実では説明の付かないことを彼はこれまで幾度も繰り返し体験してきた
のだから。
「――今回も、ダメだったか」
命の灯を灰皿に押し付け、引き出しから拳銃を取り出す。
彼は何度、死を決意しただろうか。本人すら把握しきれないほどに、彼は何度も何度も生きることを諦めてきた。
今回の決意も、過去に幾度とした決意と何ら変わらない。
拳銃を口に咥えると、ニコチンで落ち着いていた震えが再び男を襲う。引き金に指を掛けると彼の目前に走馬灯がよぎる。
「遥……もう少しだけ待っててくれ。これは、負けじゃない――戦略的逃走だ」
引き金を絞る。
男は糸の切れた操り人形のように体の力を無くし、そのまま椅子から滑るように落ちる。
いつか再び少年たちが立ち上がるその時まで、そうやって彼は息を潜めた。
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