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道化師少年の記憶

残酷な描写かもしれません。

僅かですが、気をつけてください。

 「釣竿が五本。それぞれ右から赤、赤、黒、深緑、シルバー。からからに乾いた何か――沖あみパンって書いてあったな。それと、『男の浪漫』って書かれたポスター。壁に大きめのしみが二つと、埃をかぶった鍵が隅に落ちてたよ」


気味が悪い、と。


 北川さんの目が、そう語っていた。ずきん、と胸が痛む。息が上手く吸えなくなって、頭の芯がすうっと冷たくなった。


 当時小学生だった僕が横断歩道を渡っているとき、信号無視のトラックが突っ込んできた。そこに偶然居合わせた雅喜さんが飛び込んで、僕を突き飛ばし――自分はトラックに跳ね飛ばされた。

 その瞬間を、連続写真のようにはっきりと記憶している。ありえてはいけない方向に体が捩れ、その裂けた背中から真っ赤な血が溢れて、僕の顔にも飛沫がべったりとかかって。走り去るトラック、そのナンバープレート。コンクリートに埋まる顔、三羽のカラス。

 前後のことは全く覚えていないのに、それだけは記憶していた。呆然とした状態の僕がうわ言のように呟いていたナンバーが決め手となり、運転手は逮捕された。まだ二十歳の、若い男だった。

 雅喜さんは即死だった。もう二度と動かない雅喜さんの隣で、春佳さんが泣いていた。その背中に幼い夏奈を背負っていた。

 それ以来僕は、風景の全てを無意識に記憶するようになった。そして、それら全てを絶対に忘れなくなった。

 まさに呪いだった。永久の拷問。どんな悪夢のような光景も、目をそらし忘れることは叶わない。

 そして、周りの親しい人々が『それ』を知った瞬間の表情を忘れることも、決して叶わなかった。

 ――『気味が悪い』と。

 彼らの瞳はそう語っていた。

 母が、父が、祖父が、祖母が、親戚が、友人が。皆の眼差しが、『気味が悪い』と叫んでいた。


 そして今、北川さんも。


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