道化師少年と葛藤格闘
『七海、発泡スチロールの匂いを嗅いでみるといい』
僕は言われるままに箱へ鼻を近づけ、
「うっ・・・・・・げほっ! ごほごほっ」
盛大にむせた。
『多分、釣りに行ったときに魚と氷を入れて持って帰ってきたのだろう』
涙が浮かぶ。肺が悪くなるほど生臭い。まだ僕はむせている。
『大丈夫か?』
いや、稀子、分かっていたなら先に言ってよ・・・・・・。
『昨日の夜、柵は冷たかったんだな?』
やっと新鮮な空気を味わえるようになった僕は、深呼吸をしながら頷く。
「凍りそうになっていて、手が痛かった」
『昨日の気温では、金属の柵が凍りそうになるほど冷えるというのはありえない。この発砲スチロールに入っていた氷が冷やした、と考えるのが一番妥当だろう。
君が駆けつけたとき、発泡スチロールの箱は空だった。柵は凍りそうなほど冷えていた。足元には伸びきった状態の竹が転がっていた――』
「うん」
僕が駆けつけたときには、竹は柵の隙間から外に飛び出していて、伸びきっていた。
『七海』
稀子が、疼く痛みを堪えているような顔で僕を見た。
締め付けるような緊張で喉が渇き、僕も知らず知らず息を詰めていた。
「なに?」
『私はこの事件の概要を理解した。後は最後のピースを探し、嵌めるだけなんだ』
僕は息を呑む。だが、それで終わりではなかった。
『君は、夏奈のためにその仮面を外してくれるかい?』
『道化師』の仮面のことだ。『一般の常識』から外れ、『気味が悪い』本当の僕を世間から隠し、護るために作り出した仮面。それを剥ぐことは、そのまま社会から追われることを示している。
「どういうこと?」
乾いた舌が痺れてあごに張り付いて、上手く話せない。
『君の力を借りたいが、強制は出来ない』
真摯な眼差し。
僕は真っ直ぐに見つめてくる稀子から目をそらした。――最低だ。
僕が黙っている間、稀子は真っ直ぐな視線を僕に注ぎ続けていた。




