アブナイ少女と残念な男子高校生
時間の感覚が痺れてなくなった頃、稀子がおもむろに動き出した。
『七海。その物干し竿の端を持ってくれないか』
「え? うん」
僕は何のことか分からないままに竹を持ち上げる。稀子の細い腕とほぼ同じくらいの直径をしたその竹は、僕と稀子の約百七十センチメートル間で、自重によりほんの少しだけたわんでいた。
「結構柔らかいんだね」
見た目だけで、からからに乾いた堅いものと思い込んでいた。
『よぉぉぉぉぉぉく支えていてくれよ』
一体、何をするつもりなんだ!
なにやらもう一度画面を覗き込む稀子。
『それから、七海、心から申し訳ないと思っている』
稀子はそう書かれた画面を突き出し、ぺこりと頭を下げた。どうして事前に謝ったんだろう。・・・・・・なんだか、ものすごく嫌な予感がする。
稀子はスマートフォンを離れたところに置くと、しっかりと竹を握りなおした。大きく息を吸って――。
ぐぐぐぐぐっ
「わ! 何してるんだよ、稀子!」
稀子はそのかわいい頬を真っ赤に染め、ぐうううううっと竹をこちらに曲げだしたのだ。小鹿のような足を頑張って踏ん張り、一歩一歩僕のほうへ歩み寄ってくる。
こちらも押し返さないと、どんどん押されてしまう。僕も両手で竹を持ち、強く押した。
不思議な感覚だ。竹自身も押し返してくるのに、全く折れる気配が無い。弾力を持ち、今にも弾け飛びそうに力を溜めている。
――まさか・・・・・・。
竹がほぼ半分に折られるのと、稀子がぱっと手を離したのが同時だった。
「うわあああ!」
僕はこの上なく情けない悲鳴を上げた。びっくりして手を離してしまう。
僕らの手を離れた竹は勢いよく力を爆発させ、天井まで跳ね上がってぶち当たり、僕に向かって真っ直ぐに落ちてきた。
「稀子ぉ!」
またまた、非常に情けない絶叫。高校二年生の男子生徒が、中学そこそこに見える女の子に涙目で文句を言う。
「危ないよ!」
その後は言葉にならなかった。涙目でガタガタ震える僕に、稀子は薄い笑いを浮かべた。いつの間にか手元に引き寄せていたスマートフォンに文字が躍っている。
『すまない。だが、成功だ』
うっとうしそうに髪を払い、稀子は竹を握ったままベランダに出ていった。僕も続く。
『若竹の弾力性は素晴らしい。壊れにくく、美しいから、竿として人気があるんだ』
口元にうっすらと笑みを貼り付けたまま、稀子は竹をベランダの柵の真下にあてた。無理矢理狭いベランダに押し込めてみると、竹の方が少しだけ長く、三十センチメートル分ほど湾曲している。




