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死者からの手紙と黒白少女

 ――夏奈へ。

 長い間、寂しい思いをさせてゴメンな。

 今日、夏奈がどれくらい大きくなったのか、どれほどかわいくなったのか、天国から見に行きます。

 いつも仕事から帰って来ていた時間に、ベランダで待っていてください。

 P.S. お母さんには絶対に内緒だぞ?

                                     雅喜


「佐々木雅喜は、交通事故で死んでいるんじゃなかったのか・・・・・・?」

 長谷川さんが呻く。高梨さんも眉根を寄せ、腕組みをして手紙を睨んでいる。

『それは間違いない。夏奈は、その手紙に書いてあったとおりに昨夜ベランダに出たのだろう。その手紙には、佐々木家の住所はおろか、差出人の名前すら書かれていない』

 じゃあ、本当に、雅喜さんが天国から夏奈に宛てて書いた手紙だというのだろうか。

 稀子はゆっくりと首を振った。

『死者は語ることなど出来はしない。その手紙を書いたのは生きた人間だ。さらに言うなら、この近所に住む、夏奈と親しい子ども好きの男だろうね』

 僕らはびっくりして稀子を見た。どうしてそんなことが言えるんだろう? どきどきしながら、稀子が文字を打ち終わるのを待つ。

『送り先の住所と差出人の名前を書かず、切手も貼らずに手紙を出すためには、自分の手でポストに投函するしかない。遠方に住んでいる者ならそんなことはしないだろう。

加えて雅喜氏の帰宅時間を知っているようだから、このマンションが見える位置に住んでいるんだろうね。

夏奈が父親を亡くしていることを知っていたり、夏奈と雅喜氏の名前を漢字で表記できることから、一家と親しい人物。そこまではいいかい?』

 稀子は僕らが感心して頷くのを見ると、また画面を覗き込んで操作を再開した。

『この送り主は自分を雅喜氏に見立てようとしたんじゃないかと、私は思う。

 雅喜氏は、かなりの長身だったんだろう? 七海』

「うん。百八十センチメートルくらいあったかな」

『送り主が自分を雅喜氏に見立てようとしたと仮定する。その場合、女性ではその身長に扮することは難しい。上から見れば多少の身長差は誤魔化せるだろうが、いくらなんでも三十センチメートル近くは無理だろう。

 その封筒のシールは、最近小学生に人気のキャラクターのものだ。子どもが嫌いな者や無関心な者なら、そういう風に気を使うことはないだろうからね』

 そこまで打ち込むと、稀子は沈黙してしまった。

 長い沈黙の後、ふるふると首を振る。

『ご協力ありがとうございました。今分かるのはここまでです。少しだけ、私に時間をください』

 凸凹コンビは口々に御礼を言い、何かあったら連絡するようにと言い残して佐々木さんの部屋を出て行った。

 稀子は彼らが出て行った後もぼんやりと座ったまま、何かを考えるように斜め上を見つめていた。黒白のコントラストがくっきりとした瞳が、水族館の魚を目で追う子どもみたいに時折すい、すいと動く。それは稀子が深い思索にどっぷりと沈みこんでいるときの癖だ。僕は出来るだけ邪魔をしないように隣に腰を下ろして、稀子が己の思索の旅から帰ってくるのを待った。

 ワンピースのリボンと稀子の黒髪が、じっとりと湿った雨上がりの風に舞い上がる。その風に乗って、どこか生臭いような嫌な匂いが一瞬鼻を掠めて消えていった。


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