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踊る報道者と狙われる詐欺な道化師

 何となく力が抜けてしまって、のろのろと自転車をこぎながらマンションへ戻った。

 僕なんかよりもずっと辛いはずの佐々木さんは、少なくとも僕がいる間は泣かなかった。一時は本当に危なかったらしく、奇跡的に命を繋ぎ止めた夏奈は今も危険な状態なのだという。

 なぜ夏奈の意識が戻らないのか、その原因が分からない。佐々木さんは、夏奈を見守ってきた人たちの声が、彼女を死の花畑から呼び戻してくれることに賭けているのだ。

 僕は暗い気持ちで、昨夜の稀子の言葉を思い出していた。

 ――『この事件は、傍から見れば犯人が分かりやすい殺人未遂なのだろうな。なにせ、夏奈は自力で落ちることがほぼ不可能。転落の瞬間には母親がいた』

 ――犯人は佐々木さんだって言いたいの?

 稀子は悲しげに首を振った。

 ――『傍から見れば、と言っただろう? 世間はきっと、佐々木春佳を犯人としてセンセーショナルに追い立てるのだろうな』

 それまでむっつりと黙っていた金本さんが、口を挟んだ。

 ――「大衆ほど躍らせやすいものはない。本当のことを明かして、目の前に突きつけてやらない限り、奴らは暴走するんだよ」

 それを煽るのは報道者オレたちだけどな、と吐き捨てて、金本さんは冷めてしまったブラックコーヒーを一気に飲み干した。

 結局、金本さんと稀子の読みは当たってしまったようだ。

 マンションの前では、悲痛な面持ちの女性レポーターがなにやらカメラに向かって話している。彼女が立っているのは、夏奈が転落した植え込みだった。

 一瞬、レポーターの足元に真っ赤な血溜まりが見えた気がして、僕はまた胃が捻りあげられるような感覚に襲われた。

 駐輪場からここまでは遠くて、言葉は聞き取れなかったけれど、大方想像はついた。今からでも取材陣の中に割り込んで、佐々木さんはそんなことをする人じゃないと怒鳴ってやりたい。だけど、そんなことをすればマスコミはますます事件を大きく取り上げ、毎日毎日佐々木さんを追い回すだろう。僕はむかむかする胃を抱えて、駐輪場に背を向けた。

「おう、七海」

「長谷川さん」

 僕の肩をがっしり掴んで笑顔を浮かべていたのは、スーツを着た凸凹コンビの小さい方だった。


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