↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
*新作 完結* 本棚の向こう側  作者: Terra
◆ ふらりふらりと…… ◆
PR
61/66

9




 ランはヴェーラに誘われて本棚を廻った。丁寧な紹介がなされていくところ、ここに集まるのが“本の卵”だと聞き、手渡された文庫本をそっと開いてみる。


「この本は、行と行に余白がたくさん入ってるのね?」


 詩か短歌かと錯覚してしまったが、読み進めると一文一文の内容が続いていた。


「ウェブ小説によく見られる形式ですね。デジタルの環境なので、間隔が開いていると視界の圧迫感が無く、スッキリするという考えがあります。他にも、物語そのものの場面切り替えや、間や静寂を演出するためといった案もありますよ」


 ランは新鮮な執筆スタイルに、うなずきが止まらない。


「今はウェブで公開される方が多いですから、次のページにも引き続き読者の方に興味を持ってもらうにはどうすればいいかを念頭に、場面の区切りを試行錯誤されています」


 ランは、以前に息子から持ち掛けられたことを思い出し、腕を組んだ。ウェブに物語を公開することを、ずっとためらってきた。ネット空間で上手くやれるかどうかという壁が先に立ってしまったのだ。また、外よりも公な場に思えるそこで起こりうることを想像すればするほど、踏み出せなかった。

 出版社の公募に原稿を出し、それに終わる。誰からも意見が入らない一方通行の中で過ごしてきた。それが自然になったのは、一時期、現役の小説家の話を聞いてからだった。読み合って意見交換ができる環境を無理に設けなくていいのだと思うようになった。


 けれども腕を解いた。新しい風を感じている今、やるかやらないかはさて置き、検討し直すのはいいかもしれない。自分が抱いている夢――その横にもう一枚、新しいアクションを書いたカードを置いてみる。そうして他人の目を持ち、自分が手掛けようとするものを眺める。


 光があふれる隙間に本を戻した拍子に、ぽつりと呟いた。


「“誰かへの優しくて熱い想い”が詰まったここで、“私と貴方の贈り物”を受け取る……」


「ん? 今、何か?」


 小首をかしげるヴェーラに、ランはきゅっと目尻にしわを寄せる。そして、カウンターで立ち尽くしたままの館長にくるりと向いた。


「長く生きていると、色々なことがあるわね。たくさん苦労をしましたが、下手なりに足を引きずってでも歩いてきてよかった。ここに来ることができたもの」


 立ち尽くす館長に、ランはセーターのポケットに仕舞っていたブックマーカーをピンッと立てた。

 館長はしばしその石を見つめては、じりじりと、その奥で細まるランの眼差しをうかがう。


「私がもし館長さんなら、その瞳によく似た石を用意して差し上げたいわ。そんなものがあるのかは分からないけれど、とても美しくて、守ってくれそうな気がするの。でもそうはいきませんから、よろしければ貴方も、私と一緒にこの石の意味や力に身を任せてみませんか?」


 ランの柔らかに揺れる瞳(め)は、ロウソクをじっとみつめるような心地にしてくれる。その温かい間に浸っていると、館長は胸のどこか奥底で、固く結んで封じていたものが緩んだような気がした。


 ランのことは、瞳や体温を通じて常に伝わってくる。果てしなく長い背後に連なる過去には、周りの人を閉ざしてしまいたくなる感情や、その反対に、自分は正しいのだと強引に心を貫こうと躍起になる感情が渦巻く時期もあった。まるで嵐を眺めているようであり、どこか、自分と重なった。

 館長は、差し出されたピーターサイトにちょろんと触れる。


「それは心強いです。私はここから、これをランタンに、共に進むことにいたしましょう。そうすればきっと、貴方がお望みの石にも辿り着けます」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。