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ランは目がピクリとした。穏やかな声に際立つ真剣さは、まるでアップルサイダーに仕込まれた生姜そのものだ。
館長の言葉を腹の前に握りしめると、その問いかけをしばし噛み砕いていく。その間はとても不思議だった。自分の答えが思いつくまで考え続けてもいい。そう感じさせられる、まったりとした心地よい時の流れだ。
やがて、じっとその時間を味わううちに、意外にもハッキリした答えが浮かんできた。
「私は子ども達に……もっと言うと、人に本の楽しさを体験してもらいたいと考えています」
近頃、読書離れの話を聞いたことがあった。しかし、そんな中でも本を改めて手に取るようになる人もいた。キッカケは誰かと読むことや、絵や写真が備わる短い詩や歌を読んで慣れることなど様々だ。
その出来事に共通しているのは、独りで読むこととは別の力が加わっていることではないか。そう勘づいた時、ならば自分はどんな貢献ができるだろうと考えるようになった。執筆をはじめた時分は、まだそれを追求できていたように思う。けれども
「夢に近づこうとする手前、急に真新しいことを勉強し続ける自信が持てなくなって……」
新しいことに興味があるわりに、そこに向かう道すがら、意識したり考えたことがないトピックに遭遇すると、後ずさってしまう。本当はもっと簡単な方法があるのではないか、自分の経験を中心にしてでは本当に上手くいかないのかと、横道に逸れる理由を探そうとしてしまう。
前よりも時間ができた今、ようやく今日までを振り返ってみたものの、まだ変われていない自分がフラフラと歩いていた。ランは、辺りにしんと潜む本棚から館長に向き直ると、スッと口元を上げる。
「まぁ、いいんですよ。今の自分がしていることは、息子やその家族に何かしら遺せるでしょうから」
遠くの夢を眺めながら、甘いりんごの味を口いっぱいに広げていく。いつまでも温かいままの飲み物に、とっぷりと漬かった。
ふんわりと少しずつのぼせていくような、それでいてやや寂しそうにするランを前に、館長は左手をふらりと肘掛けの外に出した。
それに気づいたカラスは、肩をほぐすように首をカクカクさせると、キッと鋭利な目をランに向ける。そして、タタンッと潔く舞い上がると、皆の視線を引きつけた。
頭上の四つの異なる光を優雅に旋回していく。翼の先がそれぞれの光に順に触れた、次の瞬間――真っ白な光が一面に広がった。たまらず目を覆ったランは、何かがビリリと鳴るのを聞きつけ、指の隙間から辛うじてのぞく。と、稲妻が迸った。稲光が描く魔方陣が頭上いっぱいに弾けた時、雷鳴が地響きを起こす。
「ひゃあっ!」
ランとヴェーラの声が掻き消されるところ、カラスはストンと館長の左手に降り立ち、細長く光るものをよこした。
「あ、あの……それは……?」
ランは沸騰する好奇心に押されて首を突き出すと、カラスが止まり木に戻るかたわら、館長が静かにそれを差し出した。
「新しいもの好きなピーターサイト」
ランは背筋をすっくと伸ばし、それを眺める。美しいゴールドの輝きが這うブックマーカーには、青と茶色と金色が入り混じる小さな石が付いていた。
「どんなパワーストーンかご存知ですか?」




