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*新作 完結* 本棚の向こう側  作者: Terra
◆ ふらりふらりと…… ◆
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55/66

3




 扉が閉まる音が響き、辺りがしんと静まり返っていく。かと思えば誰かの話し声が聞こえ、耳をそばだてた。


「ポストマン、今年はアメリカのいつものリンゴ農園の方から、たくさん分けて頂けたのよ。近いうちにもう一箱もらえるんですって。アップルサイダー作り、私も手伝った方がいいんじゃない?」


 カウンターの向こうからの声に、ランはそろそろと近づいていく。カーブを描く艶めいたそこに辿り着くにつれ、水色のゴツゴツとした灯に目を奪われた。


「何かの原石かしら……」


 そこへ、また声が聞こえてきた。


「そう、一人でやれるの。まぁ、あなたはその道のプロだものね。ところで最近、どうしてハロウィンにアップルサイダーを飲むのか、この本で知ったのよ。“BAR”のメニューボードの一番上に絶対あったのはそういうことだったんだ、って。でも、あまり頼んでる人を見たことないわ」


 ランは、声の方にうんと近づきながら身を屈めていく。カウンターの端から顔をのぞかせると、そこにはチェック柄のバンダナを巻いたお下げの誰かと、床でパタパタ歩き回るカラスがおり、たくさんの本を床に広げて整理していた。

 と、その時――カラスがギンッと背筋を伸ばしたかと思うと、素っ頓狂な声を上げて羽ばたいた。唐突な騒ぎにランは激しく立ち上がると、同じく驚き跳び上がるおさげの人と顔が合った。


「あらあらごめんなさい、邪魔をするつもりはなかったのよ。ただその、とてもドキドキするお話で、つい聞いてみたくなって……」


 ランは何度も腰を屈めると、柔らかな笑い声とともにブーツの足先が視界をのぞいてきた。


「こちらこそ失礼いたしました、お出迎えもせずに。私は当館“本棚の向こう側”のガイドをしております、ヴェーラです」


「え? 本棚の、向こう……? 何て?」


 耳を傾けるランに、ヴェーラはその場の空気に滲み出る情報を辿るように、じわじわと顔を近づけていく。


「……ひょっとして、この本の方でしょうか!?」


 ヴェーラが両手に掲げた本のタイトルと著者名に、ランは目を丸める。


「まぁどうして!?」


「“アラシ”さんですよね? 児童向けの冒険ファンタジーを書かれている。たくさんの世界を見せてくれる!」


 無邪気に本を握るヴェーラにランは胸が温まると、とても久しぶりで懐かしい呼び間違えに、くすりと笑った。


「いいえヴェーラさん、私“嵐”と書いて“ラン”と申します。力強い人間になるようにという願いが、とても露骨に出た名前です。歳を重ねるごとにようやく好きになりました」


「まぁなんてこと! それまた重ねての失礼を……」


「まぁいいんですよ、そんなこと。それより、まだドキドキするわ……」


 ランが頭上に目を輝かせていると、ヴェーラはそばに歩み寄る。


「お好きなお飲み物を申して下さい。何でもご用意できます」


「あら、何でも? じゃあ……さっき話してたアップルサイダーはどうかしら?」


 少し意地悪だろうかと返事を待つも、ヴェーラはパチパチと目をまたたかせては、大きくうなずいた。


「もちろんです! しばしお待ちください」


 それからせっせと床の本を片付け、ドサッとカウンターに置くと、灯の影に姿を消してしまった。






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