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本の装丁は様々だが、基本的な素材は古紙を思わせるクリーム色の用紙だ。複数の折丁が縫い合わさった一冊の表紙に、ただタイトルと作者が印字されている。背表紙は、色々な糸で模様を描いた縫い目だけのものや、その上からタイトルと作者が印字したものが張り付けられたものもある。
その一方で、立派な表紙をしたものも並んでいた。絵師に依頼をしたか、自ら描いたか、あるいはAIで独自で作り上げたように見える作品もある。どれも書店や図書館で見かける本とは明らかに違っていた。
試しに一冊を抜いてみると、そこから光が漏れ出した。とろりと温かく染まる隙間に、紫穂は顔を近づけてみる。
「……誰かいる?」
ぼんやりと浮かび上がる景色に目を凝らすと、カチカチと小さくて軽やかな音や、何かをぶつぶつ呟く声がする。デスクに向かって何かを書いているのか、誰かの丸まった背中が見えた。脇にはノートや本が開かれている。
「いけない」
のぞき見していると気づくなり、紫穂はそそくさと顔を離した。一体なぜそのようなものが見えるのかと、手にしていた本を眺める。そこには随分と長いタイトルが書かれており、作者は本名のようにも取れる日本人らしい名前が記されていた。
何か特別なスキルを得て別世界で生まれ変わった主人公が、その世界で地域のため国のためと次々に大活躍していくもの――と説けば少々薄っぺらくなるが、異能力バトル系のようだ。
一般的な文庫本ほどの厚さをしたそれをなんとなく裏返し、奥付をのぞいた。
「完全な手作りってことかな?」
管理番号やバーコード、価格の表記がないだけでなく、出版社や編集者など、関わった場所や人の情報が明記されていなかった。
更に隣の本、そのまた隣の本へと辿っていく。どうやらこの作者は何冊も手掛けているようで、別の作者の名前は少し先から並んでいた。ジャンルは違っているようで、どこかサスペンスをにおわせるタイトルが見える。
手作りの書籍といえば、近頃はフリーマーケットで出店する人や、一部の書店でも取り扱うところが出てきていることを思い出した。
「皆、それだけ本にしたいと思ってる……伝えたいことがあるってことなのかな……」
また更に頭上に並ぶ本を目指すも、不思議なもので、梯子は難なく真っ直ぐ上ることができた。
SFやファンタジーといったよく名の上がるジャンルのほか、サイバーパンクにスチームパンク、歴史や啓発系、レシピなどが並んでいた。一部の縦列には、大人っぽいゴールドのレース生地がかかっている。
「そういうジャンルまで一緒に並べてるのは、ちょっと意外かも……」
「紫穂さん、下りるときはお気をつけて!」
ふいに飛び込んだヴェーラの声に、紫穂は背後をかえりみる。
「ええっ!?」
思わず手が緩みかかったその時――黒い何かがバサバサッと目の前を横切った。あまりの速さに目をつむり、紫穂は梯子にしがみついてしまう。
ただ普通に上ってきただけだというのに、何なら途中で止まって本まで開いたというのに、振り返るとカウンターの真上にいた。四色の照明が頭のすぐそこにあり、自分がほぼ天井に位置していると分かった。
「落っこちることは滅多にありませんが、念のため、両手を放してしまわないようにお願いしますね」
ヴェーラの声に続き、またしても、バサッと何か空気を含んだ音がした。ガアアッと低い鳴き声がすると、それをなだめるようなヴェーラの話し声が聞こえた。それを恐る恐る見やると、紫穂は肌がヒヤリとした。
「カラス……!?」
黒い何かの正体が分かったところで、また疑問が湧いてくる。カラスは何かを咥えており、それをヴェーラが慣れたように受け取っていた。四つ折りになった紙のようだ。




