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唐突にボールを投げられたようで、藍斗はグラスを握り締める。問われた内容に、指先からじわじわと全身を縛られていく。ただの質問だろうと思う反面、どうしても気持ちが後ろ向きになる。でも何も答えないわけにはいかないと、カウンターの縁に視線を何度も左右させては、思いつきを口走った。
「楽しい……からです」
バカだ――すぐにそう過っては、首を振って取っ払う。もっと中身があることを言わねばならないと、次第に焦りが込み上げる。館長はまだ何も言ってきていないのだから、まだ何か答えられると、今度はすぐ隣で水色に光る石を見ながら口を開いた。
「こ、国語がダメだったんです僕。いや、今もですが。それで父さんが、何でもいいから自分で話を気楽に書いてごらんって提案してくれたんです。それが形になるにつれて楽しくなって、自分は書けるってことをもっと表に出すことで、自信が持てるようになるっていうか……」
違う――藍斗はピタリと口を止め、そこの青い石を見た。館長が聞きたいのは、そういうことではないかもしれない。なぜ読者に本を読んでもらいたいのかという意味の方だったのかもしれないと、後から後から後悔が脳内を埋めようとしてくる。しかし館長はまだ何も言ってこない。それでもこちらを見ていると分かると、目を合わせられない。
「読んでもらいたいのは読んでもらいたいですし、書籍化をしたい夢もなくはないです。でも今は、読者に笑われたり、変に刺激するような文章を書かないために訓練してるというか。そのためにはやっぱり、ウェブに公開してコメントをくれた方がよくて。でも本当はちょっと怖いです、届いた感想を開くのは……何か意見されてたら、その人に申し訳ないというか……心地よく読めるものでなくてスミマセンって思っちゃって……」
何かを気にし過ぎると、別の何かが抜ける。学生時代からのおっちょこちょいは、今もずっと残ったままだった。
「書けたものに自信を持てるようになるため、なのかもしれません……まだまだ、こういうことのために書きたい、とかは言えないのかも……」
泣かせる物語を書いていますや、笑わせる物語を書いていますと、胸を張って言ってみたい。その時間を絶対に無駄にはさせない、最高の世界を見せますと、堂々と伝えてみたい。書いている時はそのくらいの気持ちになれても、現実は違った。
そこへ、館長がカウンターの下から何かを引き出した。藍斗はその音に振り向くと、差し出されたものに目を剥いた。藍斗自身の名前と、自ら執筆した物語のタイトルが書かれた本だった。
「書き直される前のものです。お持ち帰り下さい」
「何で!? これはでも、ダメなままのやつだし……」
言いながらも手に取らずにはいられなかった。クリーム色の紙束につづられた十万文字を超える物語は、もうすぐ終わりを迎えようとしている。それが叶えば、完結作はこれで三冊になる。
館長は、背もたれに身を預けた。
「是非、教えて頂けますか? “なぜそのように書いたか”を」




