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「え、ああいや、まぁちょっとね! そのー……もう少しキャラを大事にした展開がいいんじゃないかって言われたんです。それから背景というか、設定の説明が冒頭にもう少しあった方が分かりやすいとも言われた。ああ、あと、情報が多くて言いたいことが紛れてるとも……」
話しているうちに、胸がチクリとした。その出来事から時が経ったが、いつまでも手に取るように覚えている。まるで紙に書いて壁に打ち留めているかのように、新たに連載ページを書くたびに常に気がそこに向くようになった。
「僕もその人の作品を読んでるんですが、ダントツに上手くて。その人の意見は、ためになるって思うんで。何て言うか、当たり前のことができてるっていうんですかね。僕はなかなかそれができないから、コメントしてもらえると助かるんです」
そう言って笑いながら顔を上げると、ヴェーラの顔が迫り、藍斗はわたわたと後ずさる。ヴェーラは目を線のようにさせると、首をかしげた。
「半分はそうかもしれませんが、もう半分は本当にそうでしょうか?」
「ふぇ!?」
藍斗は変な声に咄嗟に口を覆うも、ヴェーラは構わずパッと表情を明るくさせ、棚からある本を取り出した。
「これは、どうしても死の悲しみが訪れる物語です。その悲しみの周りにいる人々の様子や想いが、細かすぎない程度に描かれています。環境を通じて、そのシーンで亡くなる人物がどのような存在であったかを読み手に嗅ぎ取ってもらう、という狙いがありそうですよ」
藍斗は開かれたその本を受け取ると、一部に目を凝らしていく。
胸の痛みが取り払われていく。自分の小説をヴェーラは知ってくれているが、どこまで把握しているのか。先ほどの話だけで、まるで直す前のページにあった、主要人物が命を落とすシーンを一緒に顧みるようだった。
「これは、冒頭に一時、壮絶なバトルが描かれているものです。音楽で例えるなら、サビの部分からはじまるようで、次に、そのサビがくるまでにどんなメロディーがあるのかを聴いてみたくなります。つまり、バトルに至るまでのキッカケが何なのかを知りたいという気にさせる、という狙いがあるのかもしれません」
「最初に読み手の目を惹くものを持ってくる、ってやつですよね。それは意識してるつもりです」
藍斗は言いながら、ヴェーラが手渡す二冊目の本を取ろうとするところ、ふっと、引き下げられてしまう。それに続き、先に渡された本までも取り上げられてしまった。
「それ、だけではありませんよ。藍斗さんはもともと、たくさん意識されています。今ご紹介した本が持つものは、何億通りある内の一つのアイディアにすぎません」
ヴェーラは戸惑いを隠しきれずにいる藍斗に笑いかけると、カウンターに手を差し出した。
「そろそろ喉が渇くころかと」
「ああ……そ、そうですね!」
藍斗はひとまず、カウンターのアームチェアに向かった。
出されてからしばし時間が経ったにもかかわらず、白ぶどうジュースはキンキンに冷えている。あらゆる謎が行き交う頭を一度スッキリさせようと、グラスに口をつけた。その時、目の前のソファーチェアがぐるりと回ったかと思うと、館長が現れた。
「ぶああっと、セーフ!」
グラスを落としかけて止めるまでの寸秒、酷い声を上げてしまい、館内が余計に静けさを呼ぶ。
「あのー……出てくる時に音とか鳴るようにした方がいいんじゃないかと……」
館長はクスッと鼻で笑うと、肘掛けに頬杖をついて藍斗の顔をまじまじと見つめた。
「考えておきます。ところで藍斗さん、貴方は“なぜ書くのですか?”」




