3
*
埃のかたまりがひゅるひゅるっと緑色の光に変わり、宙を舞って消えた。一つ、また一つと追って見つめている間に、蟲の聲が微かにきこえると
「えっ!?」
少し冷えた夏の風が、辺りの木々を揺らして音を運んできた。緑色の光がまた、目の前を糸を引くようにして舞っていく。
「蛍……そんな祭りしてたっけ? っていうか僕、部屋に」
何故外にいるのか。そして何処の地域にいるのか。辺りを見回してから正面を向き直ると、ぼうっと浮かび上がる灯と二枚扉に気づいた。しかし足が竦んでいる。灯があっても周囲が薄暗いので、何かが出てくるのではないかと身をすぼめてしまう。とその時、ギイイッと音がした。
「ひいっ!?」
藍斗は後ずさるも、そこを確かめたさに足が止まる。おさげをした人が軽やかに現れたかと思うと、ぺこりとお辞儀をした。
「お待ちしておりました、藍斗さん。こんばんは」
「ええっ!? こ、こん、ばん、は……」
とりあえず喋ってみれば気が落ち着くだろうかと、藍斗は素直に挨拶をしてみる。
「まだまだ蒸しますので、どうぞ中に。涼しいですので、おくつろぎ頂けますよ。たくさんの本と、お飲み物がございます」
「……ブックカフェ的なところですか?」
「お仲間のようなものです。私は案内を務めます、ヴェーラです。どうぞこちらへ」
日本語がとても上手だと、藍斗はすっかり力が抜けてしまった。同い年くらいだろうか、どこの国の人だろうかと、恐怖心は湧き出る疑問に変わっていく。
まだ夏の明るさを残した空が、建物を形作っているようだった。その先に何があるのかと胸が鳴る最中、一筋の光が壁面を走った。
「流れ星!?」
子どものように声を張り上げてしまうと、ヴェーラが笑い返した。
「はい。今夜はいいことがありますよ、きっと」
扉が更に開かれると、書籍の香りが涼やかな風と共に流れ出た。藍斗は小さく会釈し、上目遣いで中をきょろきょろと探る。
「お、お邪魔しまぁす……」
不思議な光がところどころで存在感を放つのを眺めていると、草履が用意された。
「足元が冷えますので」
言いながらこちらを見上げるヴェーラに、藍斗はギョッと身体が引き締まる。そして、そのキレイな手が離れていくのをちゃんと確かめてから、そそくさとそこに足を通した。




