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部屋に戻り、デスクトップに開いた原稿と向き合った。そこへふと、時間に目が留まった。ちょうど執筆仲間の最新話が上がった頃だと気づき、先に小説投稿サイトへ飛ぶことにした。
ブックマークしている作品は七作で、どれもジャンルが違っている。いつも藍斗が最新話の投稿通知をSNSで発信した際に拡散をしてくれる、執筆仲間の作品だ。それぞれの物語は特徴的で、それらの中に、自分に足りていないと感じるものがたくさん詰まっていると感じていた。
二重表現がない。一人称、あるいは三人称で書く際の語りの注意が意識されている。視点にブレがない読みやすい文章。静と動のメリハリがある描写。群像劇であっても読者を混乱させない人物の配置。娯楽の中でも学があると感じられるテーマや背景の設定。メッセージ性が濃くて固い表現に受け取れようと、何故かかっこよく思えてしまう圧のない言葉選び。物語に書き込む予定のない下調べ量の綿密さは、コメントで質問した時の回答でよく解る。
また、手が止まった。
「皆スゴイや……勉強できるんだろうな……」
次は自分が投稿する番だというのに、書こうとしていた意気込みが溜め息に抜けてしまう。
執筆をするようになったキッカケは、国語の成績の悪さだった。最初は漫画を描くのが好きで、そこからはじまった。言葉を吹き込むことが楽しかった。それから次第に絵が減り、文字の量が多くなっていった。それに気づいた父が、小説を書けるかもしれないと言ってくれた。
藍斗は当時、それにたじろいでしまった。けれども書いてきた作品を振り返ってみると、自分には何かと言いたいことがあるのだと分かった。それくらい、文字の方がページを占めていた。
ただ、どんなものも生み出すためには踏むべきポイントがたくさんある。それらを継続して押さえている執筆仲間に、今日もまた圧倒してしまった。そして自分はどうだろうかと考え込んでしまう。
奇跡的なランクインは突風のようなものだ。コメントは貰えるようになったが、マイページを開く度にいつも新着で入っているわけではない。
いつだったか寄せられたコメントに、話の運び方について痛いところを突かれたことがあり、そのページを慌てて書き直したことがある。またその時の返信内容が、学生の頃に書かされた反省文のようになってしまい、酷く気疲れした。そのことが自ずと引き出されると、首を振って払い除ける。
そのまま、部屋の本棚に目が留まった。長細い作りのそれには、本があまり詰め込まれておらずスカスカで、本以外のもが目立っている。学生時代から変わらない雑な部屋模様は、昼夜逆転の社会人生活になってもビクともしていない。
「そう言えば、皆はスゴイ量を書くけど、いつ本を読むんだろう……」
読み書きのどちらも膨大な時間を要するのに器用なものだと、またしても驚かされる。その反対に自分はどうだろうかと、また比較のスパイラルがはじまりかけた時、母の幻の声が聞こえてしまった。
「……掃除しないと怒られるな」
寝る、書く、食うのループ生活は、時に暮らしを歪めてくることもある。それが今はじまろうとしているのではないかと、背中がゾッとして立ち上がった。
本棚の古びたボールから、小さい頃に父としたキャッチボールを思い出す。その横には母が洗ってくれたタオルが数枚。上の段に大量にあった漫画は、お気に入りの作品に絞った状態で、やや斜めに連なったまま埃を被っている。
懐かしくなり、一冊を抜いた。その時、ゴッソリと埃の塊がついてきて悲鳴を上げる。数年手をつけていないのだからと、溜め息交じりにそれを摘み出した。
「もしかして、いっそ全部出して空にした方がいいパターンか……」
仕方がないと、気乗りしないところに無理やり気合を絞り出し、一冊一冊を取り出していく。
「掃除機いるかなー……」
そして何となく埃の具合を確かめようと、棚に顔を近づけた。




