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「あっ……」
まばたきした時には、棚裏につけられているはずのストッパーがズレてしまっているのが見えた。ただ、それだけだった。
碧生はそれに触れようとするも、伸ばした右手にブックマーカーが、左手にはノベライズ本が遮っていた。しかし店員を呼ぶ気になれず、羽織っていたシャツの胸ポケットにブックマーカーを差すと、ストッパーの位置を適当に直し、本を棚に返した。
席に戻る頃、アイスコーヒーを置いて戻るいつもの店員とすれ違った。
ノートパソコンにつくと、デスクトップにある作品をまとめたファイルを開き、その中の一番古いデータを選んでいく。そしてスマートフォンに連絡先を開き、ある名前の下の通話ボタンをタップすると、さっさとイヤフォンを着けた。
延々とコールが続くのも無理はなかった。もしかすると出ないかもしれない。そう過ったのも束の間、プツリと音が途切れた。ふと、バタフライピーの色の変化と重なるように熱いものが胸で溶けて広がっていく。
「んもう……睡眠妨害してまで何ぃ……」
「ごめん、帰国いつだっけと思って。迎えに行く」
パートナーの声が止まった。十六時間時差の中を叩き起こしてまで訊きたいことでは、絶対にない。でも、付き合いの長さは期待を裏切ったことはなかった。
「三十一日の昼に飛ぶから、そっちに着くのは次の日のおやつ時だねぇ。何でよ」
「書いてほしい。また一緒に」
何もかもすっ飛ばした話し方をしても、この人には通じる。それでも、読み込みが長いコンピューターのように、声は一度聞こえなくなった。その間、碧生は無意識に手にしていたスカイブルートパーズと向き合い続けた。
「……条件アリ。私情を挟んだら終わりだーってビジネス的にやるなら却下。あとグロイのと、流行りを追いかけまくるのも。えーっとそれから――」
「絶対しない。誓う」
碧生は被せて跳ね除けると、ブックマーカーを握った。時間に空白ができると、パートナーの顔を石の中にじっと見つめ、ふんわりと口を開いた。
「俺が書くのは、“思い出になる小説”」




