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*新作 完結* 本棚の向こう側  作者: Terra
◆ 一途の軌跡はぐねぐね ◆
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34/66

5




 館長の問いかけに、碧生は興味深く口角を上げる。そしてそばのアームチェアを颯爽と引くと、ドッシリと身を預けて前のめりになった。


「決まってますよ。創作の世界をもっと盛り上げるためです」


 館長の片眉が上がるのを見ながら、碧生は背もたれにドンと身を預けた。


「新しいエンターテイメントを広げるキッカケになりたいと思ってて。鍛えてきた筆力と分析力で、世間を驚かせたい。だからいずれ映像化もしてみせる」


 碧生は何となくカラスの尖る視線を感じ、そちらにもキッと目を光らせる。


「AIが使われることも増えたじゃないですか。その進化も日進月歩だから、尚のこと負けたくない。て言っても、それを否定してるんじゃないですよ。実際仕事で頼るし、取材における最初の引き出しのために使うことはある。でもやっぱり、人力ならではの文芸を見せ続けたいと思ってる」


 小説も電子化され、手軽に読めるようになるかたわら、競争相手も爆発的に増えた。それこそやり甲斐があり、かなり燃えるものだった。ライバルがいればいるほど、負けず嫌いな感情が群れを成し、意欲的になれる。


 とにかく自分の作品を読んでもらい、批評を貰わねば意味がない。そのためには、ウェブで小説を公開するのが効率的だった。否定的なコメントにも向上心を刺激され、挫けようがすぐに前を向く。その繰り返しが、今の自分を構築してくれていると言い切れる。


「志を高く持つのは大事でしょ? そのための努力の積み重ねに結果がついて来るって、信じてる」


 ハキハキする碧生の目元が作る薄い影に、館長はじっと目をすぼめると、そのまま耳を傾ける。


「公開した作品の多くは五位以内のランクインを経験して、PVゲージも未だに凄まじい。けど、それは全くゴールじゃない。読者から直接声を聞ける環境をまずは手に入れる、それだけです。そうすることで、小説投稿サイトのコンテストだけでなく、名のある出版社の公募にも挑戦する気になれた」


「あの駆け出しの頃のように、ですね」


 館長はどこか宙を見つめて呟いた。その横顔に碧生はおもむろに腕組みし、指先を腕に打ちつける。しかし館長の発言の意味は解らないまま、首をひねるしかできなかった。


「で。この間なんて、最終選考まで生き残って落選ですよ? さすがにヘコみましたね。選評にあった落選理由も分からなくはないけど、まぁことごとく自信をへし折られる厳しい世界ってことですよ。逃げませんが」


 そしてようやく、碧生は手元のアイスコーヒーをさらい、口に運んだ。ホットで味わうことも多いボリビアコーヒー。特有の甘みとスッキリとした透明感のある風味は、冷たくても堪能できる。持ち前の甘味は、ブラウンシュガーやビターチョコ、中にはキャラメルのような風味を感じる人もおり、ガムシロップやミルクに頼らずとも個性的な味が突き抜けてきて潔い。


「これ、カンペキじゃん……!?」


 味を疑わずにはいられなかった。高価なため、そう頻繁に飲むものではない。だからこそ他のコーヒーとの違いが分かるのだが、いつもの場所で飲むそれとはまた違う主張を感じてしまう不思議があった。


「ありがとうございます。碧生さんのニュースレターを読んで、ボリビアのコーヒー豆農園を訪ねたのですよ!」


「は!? え、どういうこと、さっきから……」


 来た時からツッコミどころが渋滞するあまり、碧生はピタリと固まってしまう。

 館長はゆったりと目を閉じ、一度静まり返ったその場の空気をしばし吸い込んでは、また、黒く澄んだ瞳を開いた。


「私達は顏が広くてですね。何せここには、世界中の“表現者”および“迷い人”がいらっしゃいますから。表現に懸命な貴方のこともまた、先に知らせが入るのですよ」


「……千里眼をお持ちだと? となると、それはそれでよくできて見えますね」


 その能力の名を掲げる占い師も聞いたことがあると、碧生は館長からじりじりと目を逸らしていく。占いの本を手にするとはいえ、その内容を日常に取り入れて意識するような性分ではない。また今起きている出来事も、あまり深入りしてはむしろ何かに引っかけられそうな予感がし、敢えて距離を置いてしまう。


 この雰囲気に呑まれすぎないようにと、肩で大きく息を吐き、手すりに両腕を預けて力を抜いた。


「こうしてカフェもやってるなら、特定の客を選ぶのではなく、色んな人にスムーズに利用してもらう方がよくないですか? 石の知名度も上がるでしょうに」


 碧生は言うと、本棚をぐるりと見回し、そのまま照明を見上げた。パステルカラーの霧がかかったような光。それが作りだす光の柱をじっと辿っては、すぐそばの青い石をチラと見、また館長に向き直る。






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