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*新作 完結* 本棚の向こう側  作者: Terra
◆ 一途の軌跡はぐねぐね ◆
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 作業の前に、しんと静まる空間にしばし気持ちを預けていく。染みついたコーヒーの香り、意識してようやく聞こえるくらいのジャズミュージック。時折すべり込んでくる紙のめくれる音。内容は定かでない営業らしきトーク。


 そのなんとなく聞こえた話し声に、ふと目を開けた。あることを思い出すと、ノートパソコンの電源を入れる。


「あの人にメール忘れてた」


 先日あいさつ回りに来た取引先の人と、依頼されていたウェブデザインについて話さねばならなかった。スマートフォンで相手のデジタル名刺を開き、アドレスを打ち込んでいく流れでミーティングの候補日を連ねていく。手慣れたプロセスを終えるとまた、執筆モードを呼び戻した。


 その時、ノートパソコンの画面下にピン留めしているSNSのアイコンに通知が入っているのに気づき、クリックした。


 何千といるフォロワーのおかげで、今日もありがたいことに自分の小説が拡散されている。以前に落選結果と落胆した気持ちを感情のままに投稿してしまったが、その際も作品を知ってくれていた人達がエールをくれた。ただ、読者が納得してくれてはいても、結果が伴わなければ意味がない。

 碧生はメモブックを開いて一つペンを回すと、画面をスクロールしていく。執筆仲間の投稿が連なるところを、今は流していく。ところが、スクロールしようと指を置き換えた時、またしてもあの話題が飛び込んだ。




「ずっと読んでたギャグファンタジーがついに完結した! オチがまさかの恋の芽生えで終わるっていうホッコリ系。意外すぎた」


「前に言ってた全然完結させずに新作を連載する人?」


「そー! めちゃくちゃ感想書いた! ついでに何で完結できたか聞いた」


「え、そんなとこ踏み込めるほどの関係だったの!?」


「普通に聞けたー。ひょんなことからパワーストーンの力を借りられたからだって。“本棚の向こう側”のことかと思って! でもそこ聞いたらはぐらかされた」




 パワーストーンと“本棚の向こう側”の共通点を久しぶりに思い出した。いつだったか、執筆の息抜きがキッカケで、それにまつわる他の投稿者のやり取りから、自分なりにその“噂の場所”を分析してみたことがある。


「力の石の知名度アップ活動は、まだ続いてたのか」


 どんな活動をするにしても、御守りと呼べるものはあっていいだろう。自分が頑張れるキッカケを与えてくれるもののスタイルは様々で、“噂の場所”であれば、対象が小説家志望者かその類であり、応援グッズとして配布されるのがパワーストーン付きのブックマーカーだ。売り上げに支障が出ない範囲で、宣伝目的でそれを無料配布し、次の来店を待つということなのかもしれない。ただ、仮にそれを貰った経験者がいたとしても、流れてくる噂の内容のほとんどは中途半端だった。


「つまり口コミで拡散してもらおうって作戦はあんまりか。行ったとされる人間がその場所のことをちゃんと話そうとしないとなると、そこの売り込みがイマイチなんだろうな」


 石でカンペキな効果を図れるならば、とうに手を出している。碧生は立ち上がると、飲み物が来るまで資料集めをしに書籍コーナーへ向かった。




 今回の勝負に出す作品は、アクションが加わるサスペンスだ。映画のような臨場感を生み出すのと、説明的にならないバトル描写を目指す。戦いに登場させる武器の数は多いので、その特徴をみっちり押えてストーリーに落とし込み、ふいにロマンをくすぐられるといったものにしたい。


 そしていつも通り、人物の背景設定は怠らない。深みを出すため、ギャップのみならず生い立ちも決めていく。それを作り上げるために、誕生日占いや星座占い、血液型占いの本も手をつけてきた。まるで占い好きに思われそうだが、人の性格が見えやすいからという、れっきとした執筆目的の読書だ。


 ただ――目的の棚の前に来て、溜め息がこぼれた。


「落とし込むつもりのない情報まで集めるってのがなぁ……」


 最近、若干ネックに感じる点だった。執筆を五年ほどしているが、初めは悩みなく打ち込んでいた。遊ぶように書いていたからなのかもしれない。けれども今は予選通過をするようになり、そうなると作戦や視点を変えていくのは当然だった。


 新たに入ったノベライズ本の中から、銃撃や体術のシーンが多発する作品を抜き取る。アニメ化もされており、深夜に放送していたところを偶然観たことがあった。

 映像作品の小説版には、動きや場面移動の書き方のヒントが豊富で、今からの作業に間違いなくフィットしていた。

 それらを数巻集めるところ、うっかり一冊が棚の奥へ落ちてしまった。


「あちゃ、いっけね」


 碧生は隙間に顔を近づける。

 向こうが筒抜けのデザインをした棚は、スペースによっては反対側からも本を取れる。しかしその場合、本の裏側に落下防止のストッパーが設けられているはずだが、どうやらそれを設置し忘れているようだ。もしくは自分が本を弄った拍子にストッパーがズレたのかと、確かめようと隙間へ更に顔をのぞかせた。






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