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*新作 完結* 本棚の向こう側  作者: Terra
◆ いったりきたりな素直 ◆
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2




         *




 それは、たった一度まばたきした間の出来事だった。


 急な震えに腕を抱えた矢先、冷たいものがいくつも肌を打ってきた。ふわっふわっとしていながらも少々荒っぽい。降り注ぐ白いものが、じわじわとその場の暗い空間を見せはじめる。足元は粉を振るわれたように白く、後ずさる拍子にザリッと鳴った。


「雪!?」


 紫穂は状況が整理できなかった。何しろ住んでいるところは大都会で、雪が降っても積もるなど滅多にない。雪景色など、学生時代の旅行でスキーに行って以来だ。


「靴はいてきたらよかった、っていうかはくわけないし! ええっと……」


 足先をこすり合わせながら辺りを見回していく。

 両側にはレンガが敷き詰められた地面が広がり、その真ん中に連なる石畳の道に立っていた。ずっと先にはゴールドの玄関灯が立ち、擦りガラスがはまった、まるでファンタジーの世界に登場しそうな木造の二枚扉があった。灯に浮かび上がるように佇み、支えになる柱はなく、壁には時に星が流れている。


「何階建てなの……?」


 更に外側へ目を這わせていくと、蔓が垂れ下がっているのが見えた。どこまでも伸びて生い茂り、建物を覆っている。その広がりの終わりはなく、とうとう全体の大きさが分からなかった。

 紫穂はカーディガンを引き寄せると、唯一光を放つ扉へ駆けた。

 玄関灯は、大きな黒い球がぶら下がってできている。ふわふわと艶やかに揺れ、壁の流星を映すほか、金色の縞模様も微かに見えた。


「こんなに黒いのに、光が温暖色……」


 それから、ゴールドの柱を見下ろしていく。緩やかなS字カーブを描いていた。足場は丸く、ただ置いているだけのように見える。頭に雪が積もるのも忘れ、とても不思議で魅力的な灯にすっかり目を奪われていたその時――


「あら、こんにちは。あ、違った、こんばんはね!」


 紫穂は肩を跳び上がらせ、来た道を振り返る。


「ごめんなさい、すぐに気がつかなくて。何しろ“本棚の向こう側”ですから。ささ、寒いのでまずはお入り下さい」


「え、あ、ちょと……ええ!?」


 急に真っ白な姿をした誰かが現れたのもそうだが、その人があっさりと口にした言葉に動転してしまう。そしてそのまま、建物の中へ押し込まれるように誘われてしまった。






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