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それは、たった一度まばたきした間の出来事だった。
急な震えに腕を抱えた矢先、冷たいものがいくつも肌を打ってきた。ふわっふわっとしていながらも少々荒っぽい。降り注ぐ白いものが、じわじわとその場の暗い空間を見せはじめる。足元は粉を振るわれたように白く、後ずさる拍子にザリッと鳴った。
「雪!?」
紫穂は状況が整理できなかった。何しろ住んでいるところは大都会で、雪が降っても積もるなど滅多にない。雪景色など、学生時代の旅行でスキーに行って以来だ。
「靴はいてきたらよかった、っていうかはくわけないし! ええっと……」
足先をこすり合わせながら辺りを見回していく。
両側にはレンガが敷き詰められた地面が広がり、その真ん中に連なる石畳の道に立っていた。ずっと先にはゴールドの玄関灯が立ち、擦りガラスがはまった、まるでファンタジーの世界に登場しそうな木造の二枚扉があった。灯に浮かび上がるように佇み、支えになる柱はなく、壁には時に星が流れている。
「何階建てなの……?」
更に外側へ目を這わせていくと、蔓が垂れ下がっているのが見えた。どこまでも伸びて生い茂り、建物を覆っている。その広がりの終わりはなく、とうとう全体の大きさが分からなかった。
紫穂はカーディガンを引き寄せると、唯一光を放つ扉へ駆けた。
玄関灯は、大きな黒い球がぶら下がってできている。ふわふわと艶やかに揺れ、壁の流星を映すほか、金色の縞模様も微かに見えた。
「こんなに黒いのに、光が温暖色……」
それから、ゴールドの柱を見下ろしていく。緩やかなS字カーブを描いていた。足場は丸く、ただ置いているだけのように見える。頭に雪が積もるのも忘れ、とても不思議で魅力的な灯にすっかり目を奪われていたその時――
「あら、こんにちは。あ、違った、こんばんはね!」
紫穂は肩を跳び上がらせ、来た道を振り返る。
「ごめんなさい、すぐに気がつかなくて。何しろ“本棚の向こう側”ですから。ささ、寒いのでまずはお入り下さい」
「え、あ、ちょと……ええ!?」
急に真っ白な姿をした誰かが現れたのもそうだが、その人があっさりと口にした言葉に動転してしまう。そしてそのまま、建物の中へ押し込まれるように誘われてしまった。




