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「おい!」
自分が言ったのか、隣にいた古本屋のオーナーが言ったのか、それとも声が被ったのか。そんな混乱が舞い込んできたのは、ほんの一つまばたきしてからのことだった。
「ええ!? 何でや、俺……」
焦りに辺りを見回した拍子に飛び込んだのは、右手のブックマーカーと、左手の仕舞いかけの本だ。急にぼさっと立ち尽くし、オーナーが何度も声をかけていたのだと話してくる。
「立ち眩みか? 疲れてんのに巻き込んでごめんやで」
「え、ああ、いやええですよ。ていうか……」
道に散らばる本を片付けている途中ではと、緋向は振り返る。ところが本はどこにも転がっておらず、もう全て棚に戻されていた。
オーナーは首をかしげるも、お陰で早く済んだと頭を下げる。その時、緋向は偶然手にしていた本を見た。
謎解きミステリー系のライトノベルで、二行に分かれたタイトルには“魔法使い”というワードが入っていた。
「これなんぼですか? あと、何かノートとかって売ってます?」
オーナーは緋向にしばし目を見開くと、本の値段を伝え、文房具売り場を案内した。
緋向は、古い棚がギチギチに並んで向き合う狭い通路を、時に立ち読みする人をスレスレに横切っていく。そして目的の売り場に来たところで、何気なく振り返った。
ウェブで数字を見れば、小説を読む人は普通にいると思う。でも少し前は、この書店も人の出入りが多かった。なのにその活気はどこへやら。
暗い帰り道の灯にもなってくれる古本屋。ただ佇んでいるだけではないのだと気づいた途端、文庫本を取る手に僅かに力が入った。
その時代の風が吹くままに生きるだけ――誰が決めたかも分からない一定の波に、ただ乗っているだけ。そんな自分の胸倉を、己の中で掴んで揺さぶった。
(なにを難しい難しいばっか言うとんねん。俺が書くんは、“笑ってまた元気になれる小説”やろが!)




