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来てもいいですか、と伝えられたような気がしないまま、扉の音が響いた。
一つまばたきしただけだというのに、晴は部屋の本棚の前で立ち尽くしていた。左手に納めようとしていた啓発本と、右手にブックマーカーを握ったまま。
速い鼓動を感じる中、晴は与えられたものをお腹の前で握りしめる。とんでもない体験をしたと、息が上がっていた。それを抑えるのに、ふと、左手の本と向き合った。
「遠い国の人達の考え……その国の人達のことを運んできてくれる人……知らないことに出会うこと……」
時の流れが速い現代は、変化と情報に置いてけぼりになってしまう。いつしかそんなことを考えるようになり、長い間していなかった執筆を再開した。それを思い出した時にはもう、足はリビングに向かっていた。
空になっていたマグカップの底に、聞いてきたばかりの言葉を思い返していく。そこに淹れ直した熱々のコーヒーにたゆたう自分の顔が、だんだん輪郭を持ちはじめる。
陽射しに後押しされるようにノートパソコンの前につくと、じっとりとした両手を服で拭った。そして、新たに文字を打ち込むのではなく、昨晩に書いた部分をさかのぼり、もう一度なぞりながら内容を考え直す。
「私が書くのは、“立ち止まって問う物語”」




