7
館の外に出ると、太陽は少しだけ頭の上に来ていた。このままそよ風に当たっていると、心地よい眠気に誘われそうになる。
「魅力的な場所でした。図書館ではあんなにお喋りできないけど、ここでは許されるのは嬉しいです」
「それはよかったです。ここでは“表現者”さんに、様々な体験をして頂きたいと思っています」
晴はヴェーラと笑い合うと、改めて“本棚の向こう側”を振り返った。
「この建物の壁は、空が映るようになってるんですか?」
晴の気づきに、ヴェーラは大きくうなずく。
「はい。その日の天気が壁になります。ただ、夜はいつも流れ星が見えます。おいで下さった皆さんの願いが叶うように」
それならばまた夜に来てみたいものだと、晴は呟きながら建物を見上げた。葉に包まれた隙間から見える蔦を追うと、閉じかかった朝顔が点々と彩を添えている。
「ところで、戻られたらすぐに執筆ですか?」
ヴェーラの問いかけに振り向くと、晴はブックマーカーを見てうなずく。
「自分のやり方で、いいですもんね」
ああでもないこうでもないと頭を抱えていた時間の多くに、マイナス思考ばかりが渦巻いていた。趣味であっても、やるならばちゃんとやりたい。人の気持ちや、人が集めたものを扱うならば、それは自分にとって当たり前のことだった。そのことに負の感情を抱く必要なんて、本当はないのかもしれない。
するとヴェーラが手を叩き、晴を振り向かせる。
「もちろんです! では、ポジティブな感覚を思い出せたところで、そのままご自身を振り切ってみてはいかがでしょう? せっかくですから」
「……ですね! そこでまた見えるものがあるだろうし。どうもありがとうございました」
晴がお辞儀をするのに合わせ、ヴェーラも軽く頭を下ろすと、切り出した。
「晴さんの物語、引き続き読ませていただきますね。現実味のあるファンタジーは、幻想とされるものが現実にあるのではないかと思わせてくれる、素敵な性質がありますから」
「え?」
ところが、晴が頭を上げた頃にはもう、ヴェーラは扉の裏で手を振っていた。
「あ、えっとその、また――!」




