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館の外はポカポカしており、早くから来ていたヴェーラは鼻歌がとまらない。淡いタンポポ色をしたワンピースをゆらしながら、周りの茂みに水をやる。同じ色のバケットハットのつばを少し上げると、枝につけた薄桃色の花びらがはらりと落ちた。
「散ってしまうわ、ポストマン。羽に気をつけて」
そこに止まっていたカラスは一鳴きする。そして、くちばしで水晶の足輪をくいくいと弄ると、ふいに遠くを見つめ、飛び立ってしまった。
「あら。誰かさんは週末の朝早くからもうお悩みなのね」
ヴェーラはじょうろを抱え、カラスが消え去るのを見届けていると、館の扉が開いた。館長がのっそりと顔を出した拍子に、ライトグレーの花柄生地のワンピースが春風にそよいだ。
「おや、そっちはまだ夜中だろう?」
言いながら、ヴェーラの扉をくるりと見やる。カフェカーテンがかかる擦りガラスの向こうは、仄かなオレンジ色の光が射していた。
「おはようございます、ヘッド。Midnattssolでして、街の皆はいつまでも外で過ごしているのですよ。この仕事はありがたいわ、眠れなければここに来ればいいもの。よかったらプレッタルパンカーカはいかが?」
春から夏にかけて気まぐれに訪れる光の時季――白夜が過ると、館長はうなずいた。
「それは確か、あんたの国の家庭料理だったね。ベーコンが入ったフカフカの、ここで言うホットケーキだ。いただきたいけどキッチンが無いよ」
館長があくびをするかたわら、ヴェーラはケラケラと笑った。
「違うわ、それはオーブンで焼くフレスクパンカーカよ。私が言ったのは、フライパンで焼く薄っぺらい、こちらでいうクレープのようなもの。もう家で焼いてあるから持ってくる!」
ヴェーラはポンポンと跳ねるように館内へ戻ろうとした、次の瞬間――ぶわんとカラスが目の前をよぎり、館長の肩にふんわりと着地した。
「えらく急だね。その方はよほどお疲れなのかい?」
館長は、カラスのくちばしから四つ折りの紙を取り、一振りして広げる。
ヴェーラもまた、驚かされたことなど気にもせずその内容に吸い寄せられていった。
「“晴”という一文字のお名前ですか。どう読むのでしょう?」
「ハル、と読むのかもしれないね」
陽だまりの中、二人はカラスが運んできたニュースレターに夢中になった。




