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*新作 完結* 本棚の向こう側  作者: Terra
◆ とっつきにくい真っすぐ ◆
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11/66

ー*ー




 館の外はポカポカしており、早くから来ていたヴェーラは鼻歌がとまらない。淡いタンポポ色をしたワンピースをゆらしながら、周りの茂みに水をやる。同じ色のバケットハットのつばを少し上げると、枝につけた薄桃色の花びらがはらりと落ちた。


「散ってしまうわ、ポストマン。羽に気をつけて」


 そこに止まっていたカラスは一鳴きする。そして、くちばしで水晶の足輪をくいくいと弄ると、ふいに遠くを見つめ、飛び立ってしまった。


「あら。誰かさんは週末の朝早くからもうお悩みなのね」


 ヴェーラはじょうろを抱え、カラスが消え去るのを見届けていると、館の扉が開いた。館長がのっそりと顔を出した拍子に、ライトグレーの花柄生地のワンピースが春風にそよいだ。


「おや、そっちはまだ夜中だろう?」


 言いながら、ヴェーラの扉をくるりと見やる。カフェカーテンがかかる擦りガラスの向こうは、仄かなオレンジ色の光が射していた。


「おはようございます、ヘッド。Midnattsso(ミッドナットソール)lでして、街の皆はいつまでも外で過ごしているのですよ。この仕事はありがたいわ、眠れなければここに来ればいいもの。よかったらプレッタルパンカーカはいかが?」


 春から夏にかけて気まぐれに訪れる光の時季――白夜が過ると、館長はうなずいた。


「それは確か、あんたの国の家庭料理だったね。ベーコンが入ったフカフカの、ここで言うホットケーキだ。いただきたいけどキッチンが無いよ」


 館長があくびをするかたわら、ヴェーラはケラケラと笑った。


「違うわ、それはオーブンで焼くフレスクパンカーカよ。私が言ったのは、フライパンで焼く薄っぺらい、こちらでいうクレープのようなもの。もう家で焼いてあるから持ってくる!」


 ヴェーラはポンポンと跳ねるように館内へ戻ろうとした、次の瞬間――ぶわんとカラスが目の前をよぎり、館長の肩にふんわりと着地した。


「えらく急だね。その方はよほどお疲れなのかい?」


 館長は、カラスのくちばしから四つ折りの紙を取り、一振りして広げる。

 ヴェーラもまた、驚かされたことなど気にもせずその内容に吸い寄せられていった。


「“晴”という一文字のお名前ですか。どう読むのでしょう?」


「ハル、と読むのかもしれないね」


 陽だまりの中、二人はカラスが運んできたニュースレターに夢中になった。






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