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帰ればいいのか。そう訊き終えることが出来たのかは、分からなかった。
「へ!?」
ほんの一つまばたきした間の出来事だった。
紫穂は、部屋の本棚の前に立ち尽くしていた。その向こう側へ訪れる前と何も変わらないまま――ではなく、左手にあのブックマーカーを、右手に抜いた本を握ったまま。
「どういうこと!?」
慌てて本棚の隙間をのぞいた。でも、そこにはただ暗い隙間以外にどこへも拡がらない。
挨拶もろくにできないまま帰ってきてしまったと、胸をモヤモヤさせながらデスクに向かった。そこにはミルクティーが
「無い!? あ……飲んだんだ」
またミルクティーを用意しようかと思いながらも、椅子に吸い寄せられてしまう。ノートパソコンの画面と向き合うと、今か今かと点滅して待つカーソルに目が留まった。
館長の言葉が鼓動に響くのを感じると、両手がキーボードに誘われる。目は、手元のチャロアイトに自然と向いていった。
たくさんの心配事を一度、肩から下ろしてみる。そして、呼吸をしはじめる物語の行き先にまずは集中してみよう。恐れていても、まずはそのままでいい。蓄えてきた自信を持って、どこかに転がる偶然の廻り合わせを目指して。
「私が書くのは、“読む人を魅せる心の物語”」
紫穂は呟くと、久しぶりに文字を連ねた。




