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ゾンビ世界でも慎ましく生きたい  作者: 小説書こう


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8/15

8日目 非非日常

8日目。

まあ、こんな感じで俺の非日常な一週間をお届けしたわけだが、面白かったなら幸いだ。

ゾンビ世界とはいえ、人間は案外たくましい。

飯を食い、筋トレをし、ゲームをして、たまに幻覚を見て隣人に振り回される——そんな日々が続くと思っていた。

油断していた。

ピンポーン、という軽い音が、すべてを変えた。


『五郎さん!!』


インターホン越しに聞こえた奏子さんの声は、明らかに壊れていた。


『テレビを見て!テレビ!早く!!』


テレビをつけた瞬間、俺の常識が粉々に砕けた。


『日本各地で大規模感染が発生!』

『これまでにない規模のゾンビが発生しています!』

『全域に避難指示が——』


画面は地獄そのものだった。

東京の街が、人の波に飲み込まれていく。

大阪も、福岡も、同じ。

ヘリからの映像は、まるで灰色の海が陸を侵食しているようだった。


「……は?」


理解が追いつかない。

田舎で一日数体程度だったはずのゾンビが、なぜ急に。

外から悲鳴が上がった。

ドンッ!!

ドンッ!!

ドンッ!!

アパートのバリケードが、激しく揺れる。

俺は窓に駆け寄り、カーテンを乱暴に開けた。


「……嘘だろ」


道路が、ゾンビで埋め尽くされていた。

百や二百じゃない。視界の限り、腐った肉の津波。

呻き声が地響きのように響き渡る。

アパートの住民たちが廊下に飛び出してきた。


「バリケードが持たねえ!」

「時間稼ぐぞ!」


下の階から、ムキムキのおじさんの怒声が飛ぶ。

家具を叩きつけ、ゾンビを叩き潰す乾いた音が連続する。

俺はすぐに部屋に戻り、最低限の荷物をバッグに詰め込んだ。

ハンマー、水、財布、スマホ、充電器、ラジオ。正直財布とか必要のないものも入れたかもしれない

ピンポーン。

ドアを開けると、血の気の引いた奏子さんが立っていた。


「五郎さん……」


「今すぐ裏口に!」


俺たちを含めてアパートの全員は全力で非常階段へ向かった。

一階のロビーを見下ろした瞬間、吐き気がした。

ゾンビが蟻のように溢れ、家具のバリケードを押し崩している。


「若いもんは逃げろ!」

「早く行けぇ!!」


背中を押されるように、俺たちは裏口へ飛び出した。

幸い、まだ数は少ない。

数体のゾンビがふらつきながら近づいてくるだけだ。

ハンマーを振り回しながら駐輪場に着くなり、俺は愛機のバイクに跨った。指が震えて鍵がなかなか刺さらない。


「頼む……!」


ブォォォォン!!

エンジンが咆哮を上げた瞬間、背筋が震えた。

これほどエンジン音を愛おしく感じたことはなかった。


「乗ってください!」


奏子さんが後ろに飛び乗るや否や、アクセルを全開にした。

腐った指が、ほんの数センチ横を掠める。

住宅街を爆走する。

風が頰を切り、奏子さんが背中に必死にしがみついてくる。

交差点に出た瞬間、俺たちは言葉を失った。

道路が、ゾンビで埋め尽くされていた。

灰色と赤の死者の海。

ゆっくりと、しかし確実にこちらへ押し寄せてくる。


「……なんだよ、これ」


アクセルを握る手が汗で滑る。

後ろから、奏子さんの小さな声が聞こえた。


「ひゅうごさん……」


「大丈夫です…」


全然大丈夫じゃない。

でも、そう言うしかなかった。

俺は歯を食いしばり、ハンドルを切り直した。

エンジンが再び唸りを上げ、エンジンが唸る。

バイクは林道へ飛び込んだ。

こうして俺の”非日常”は終わった。

そして。


本当の地獄が始まった。

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