4日目 非日常
さて、イレギュラーばかりだったがこれが俺の日常だ!
え?なに、もっとイレギュラーな日常を見せろって?
お前らそっちの方が気に入っちゃったのかよ
まあいいぜ、暇だしじゃんじゃん教えてやるよ
4日目、今日は比較的平和だった。
朝起きてもゾンビは少ないし、幻覚もなし。
筋トレも完遂。昼飯の焼きそばもうまかった。
……だから油断したんだと思う。
夕方頃、俺が部屋でダラダラ動画を見ていると、アパートのインターホンが鳴った。
ピンポーン。
続けて、放送用スピーカーから声が響く。
『市の物資支援でーす。食料配給に来ましたー』
「おお!?」
俺は思わず立ち上がった。食料配給はこのご時世じゃ神イベントだ。廊下へ出ると、住人たちもワラワラ出てきていた。
「久しぶりですねぇ」
「缶詰あるかな」
「トイレットペーパー欲しいわぁ」
みんなちょっと浮かれている。そりゃそうだ。終末世界では“無料で物資が来る”ってだけでテンションが上がる。バリケード前にはトラックが停まっていた。自衛隊マーク入り。そして隊員らしき男が二人。
一人は普通だった。日に焼けた顔。ゴツい防弾ベスト。いかにも現場帰りって感じ。
だが、もう一人。そいつを見た瞬間、俺は妙な違和感を覚えた。……瞬きをしない。男は住民へ物資を渡しながら、じっとこちらを見ている。無表情。異様なくらい無表情。
「次の方どうぞぉー」
声も妙に平坦だった。なんか怖い。
いや、考えすぎか?この世界、みんな疲れてるしな。
でも。でもなんか変だ。俺の順番が来る。
「はい、支援物資です」
男が段ボールを差し出してくる。距離、一メートル。
近い。すると男の口元が、わずかに開いた。
「あ゛」
――今!今、変な声した!
俺は固まる。
「どうしました?」
普通の隊員が聞いてくる。
「……い、いや」
気のせいか?
でも確かにゾンビっぽい声が。俺は恐る恐る、無表情男を見る。するとそいつの首が、カクン、と傾いた。
不自然な角度。
「っ……!」
ゾワッと寒気が走る。その瞬間だった。隣のおばちゃんが笑いながら言った。
「お兄さん全然瞬きしないねぇ」
場が少し和むが男は笑わない。
ただ、おばちゃんを見つめる。じぃっ、と。瞬きせず。数秒後。
「……ああ」
男はゆっくり答えた。
「疲れているので」
声が遅い。なんか変だ!やっぱ変だ!俺は段ボールを抱えながら、一歩下がる。
その時、男の手が見えた。
包帯が巻かれている。赤黒い染み。噛み跡みたいな形。
「っ!?」
思わず息を呑む。すると男が、ゆっくり俺を見る。目が合った。濁ってる。いや濁って見えた。
瞬間、世界がグニャリと歪んだ。
――来た。
幻覚。
「うわっ……!」
視界がオフィスへ変わりかける。
まずいまずいまずい!!こんなタイミングで!?
だが今回は違った。オフィスじゃない。真っ暗な廊下。宅配員だけが立っている。
ピンポーン。
ピンポーン。
ピンポーン。
インターホンが延々鳴っている。
『お届け物でーす』
暗闇の中から声が響く
『開けてくださーい』
近づいてくる。
『開けて』
『開けて』
『開けて』
ヤバい
怖すぎる
俺は後退る
だが足が動かない
宅配員の顔が近づく
無表情
瞬きしない。
そして口が裂け――
「前田さん!!」
肩を掴まれた。
「はっっ!!」
視界が戻る。よかった!現実だ。奏子さんが心配そうにこちらを見ている。
「大丈夫ですか? 顔真っ青ですよ?」
俺は荒い息を吐きながら周囲を見る。普通の住人たち。普通の配給。普通の夕方。……無表情男は?
見ると、もうトラックの荷物を積み直していた。その時、男がこちらを向いた。
そして。ニタァ、と笑った。俺の背筋が凍る。
次の瞬間、男は普通にトラックへ乗り込んだ。
エンジン音。そのまま車は去っていく。誰も何も気にしていない。
「…………」
俺だけが、その場で立ち尽くしていた。あれは。
幻覚だったのか?
それとも――。




