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ゾンビ世界でも慎ましく生きたい  作者: 小説書こう


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13/15

8.9日目裏切り

錆びた校門の前で、譲のバイクがゆっくりと止まった。

俺は少し遅れてブレーキを握る。エンジンの音が静かに消えていくと、辺りは不気味なほどの静寂に包まれた。

校庭には膝丈の雑草が生い茂り、校舎の窓ガラスは所々割れて、黒い穴のように口を開けている。風が吹くたび、錆びた鉄製の校門が甲高い音を立てた。


「……ここか」


俺が小さく呟いた、その時だった。


「動くな」


低い、抑揚のない声が響き渡った。

次の瞬間、校舎の陰、体育館の裏、校門の左右から、次々と人影が現れた。

一人、二人……十五人ほど。

全員が金属バットや鉄パイプ、鉈を持ち、中には猟銃を構えている者もいた。明らかに、ただの生存者ではない。


「ひぃっ……!」


俺は思わずハンマーを両手で握り締めた。指の関節が白くなる。


(終わった……!)


ここまで必死に逃げてきたのに、まさか人間に囲まれるなんて。

リーダーらしき男が一歩前に出た。鋭い目つきに、腕一面の刺青。見るからに堅気ではない雰囲気をまとっている。


「お前ら、生存者か?」


譲は肩を竦めて答える。


「見れば分かるだろ」


男の視線が、ゆっくりと奏子さんへと移った。

その瞬間、俺は無意識に一歩前へ踏み出していた。


「み、見るな」

「……あ?」


男の目が細くなる。俺は慌てて言葉を濁した。


「あっ……いや……」


しまった。余計なことを。

男が俺をじっと見つめる。視線だけで胃が縮むような圧迫感だった。足が小刻みに震え始める。


(ごめんなさい、ごめんなさい……)


すると、男が突然大声で笑い出した。


「ガハハハハ!!」


周囲の男たちも一斉に笑い声を上げる。

「そんなにビビんなよ!」

「俺らも生き残りだぜ」

「助け合わなきゃ、こんな世界じゃ生き残れねえだろ!」


一気に空気が緩んだ。


「……え?」

「中へ来いよ。飯もある」

「今日は宴だ!新入り歓迎会だ!」


男たちは武器を下ろし、笑顔で俺たちを校舎へと案内し始めた。

俺は譲と目を合わせた。譲も小さく肩を竦める。


「どうやら、当たりだったみたいだな」


その言葉に、俺の胸の奥で固く張りつめていた何かが、少しだけ解けた。


校舎の中は予想以上に綺麗に保たれていた。廊下は掃除され、発電機が低く唸る音が聞こえ、電気まで通っていた。教室には缶詰、乾パン、ペットボトルの水が山積みになっている。


「すげぇ……」


体育館に案内されると、簡易テーブルには炒め物や煮物まで並び、人々が酒を飲みながら笑い合っていた。ラジオから懐かしい音楽が小さく流れている。


「新入り歓迎会だ!」

「乾杯!」


俺は渡された缶ジュースを恐る恐る受け取った。奏子さんも、少女も、ようやく表情を少しだけ和らげている。


(……助かった)


ようやく、安心して眠れる場所が見つかったのかもしれない。

気が緩んだ。

一週間以上、ずっと張りつめていた神経が、一気にほどけていく。

笑い声、談笑、料理の匂い、懐かしいメロディー——すべてが、崩壊前の日常を思い出させた。

その瞬間、視界が揺らぎ始めた。

幻覚だ。

体育館が、会社の休憩室に変わる。スーツ姿の同僚たちが笑っている。


「前田くん、お疲れ」

「今日は定時で帰れるぞ」


誰もゾンビなど知らない、平和だった世界。


「……あぁ」


自然と頬が緩む。

こんな日常が、もう一度だけでも——。

ゴッ!!

突然、頭に鈍い衝撃が走った。


「がっ……!」


床に崩れ落ちる。幻覚が一瞬で吹き飛び、現実が牙を剥いた。

目の前に、金属バットを持った男が立っていた。


「悪ぃな」


腹に強烈な蹴りが入る。


「ぐっ……!」


息が詰まる。立ち上がろうとした瞬間、今度は鉄パイプが背中に叩き込まれた。


「がぁっ!」

周りを見ると、譲がライフルを構えていた。


「お前ら、何のつもりだ!」


しかし、四方八方から男たちが一斉に飛びかかる。


「撃たせるかよ!」

「銃を取れ!」


譲は舌打ちすると、窓に向かって全力で駆け出し、窓ガラスを突き破り、校庭へ飛び降りる。


「逃がすな!」


数人が即座に追いかける。

俺は助けを呼ぼうと口を開いたが、


「余所見してんじゃねえ」


ゴンッ!!

再び頭に衝撃。視界が激しく回る。

奏子さんの悲鳴が響いた。


「五郎さん!!」


少女の泣き声も重なる。


「やめて!!」


男たちは下品に笑いながら言った。


「久々の女だぜ」

「逃がすわけねえだろ」

「こいつらは、もう俺たちのもんだ」


俺は必死に腕を伸ばす。指先が空を掴む。

その後、何人もの足が俺を踏みつけ始めた。

腹、背中、顔。

何度も、何度も。

意識が遠のいていく。

最後に見えたのは、男たちに引きずられていく奏子さんの姿だった。


「……ごろ……さん……!」


その弱々しい声を最後に、俺の意識は暗闇の底へ沈んでいった。

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