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戦線貴族家三男は最弱最強の兵器 ー 兄二人が可怪しいです!助けて! ー  作者: たきわ優


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第61話 成人の儀

登場人物のおさらい


リア・マギュロ

主人公。エドゥ王国、マギュロ家の三男。七歳。転生者。


リック リアの従者

リアの初めての側近。十五歳。使用人八門の八門の出。


マルス・マギュロ

エドゥ王国 マギュロ家の長男。二十歳。軍の司令官。婚約者のマリア命の狂人。


ルーク・マギュロ

エドゥ王国 マギュロ家の次男。十五歳。人より神に近い超人。


ばぁば

マギュロ家に長年仕える使用人。小柄でふっくらしている快活な老婆。使用人八門、二門の出。リアが七歳の時に亡くなった。

 エドゥ王国の他の貴族家とは違い、マギュロ家の成人の儀は、マギュロ王国時代の形式に沿って行われる。

 今日は、マギュロ家次男ルーク・マギュロの成人の日である。


 城から儀式の行われる神殿までの道のりは、大勢の領民達が詰め掛け、歓声と黄色い悲鳴に溢れていた。

 大半の人々は、ルーク様(若様)の神々しさに当てられ、拝むように崇めるのだが……偶々若様と目が合った又は笑顔を直視してしまった者達は、男女問わず昇天し失神してしまう。

 若様耐性のある一部の使用人八門や家臣の衛兵達が総出でその対処に追われているのが目の端に映る。


 マギュロ家の成人の儀は、マギュロ王国建国の祖達を模した服装をする。

 女性の場合は、智者であったオートロ一族の女の服装、男性の場合は、アカッミ一族の強靭な男の服装だ。

 なので今日の若様は、アカッミ一族の強靭な男の服装だと言われている古代の格好だ。

 白い綿素材で作られ、布を二枚縫い合わせただけの簡素な服に、藍色の美しい染料で染められた布を右肩から垂らすようにぐるりと体を包むように巻き、同じ色の太い腰紐で留める。そして、様々な魔物素材で作られた首飾りや腕輪などの装飾品を身に纏っている。

 その姿は、神秘的で……更に、若様が着ているからこそ、より神々しく映る。


「若様、とても立派で素敵ですね、リア様」


 今日は、成人の儀への参加者――マギュロ一家とマギュロ家家臣達全員が徒歩で城から神殿まで行進を行う。

 手を繋ぎ横を歩くリア様は、にこにことしながら、頷いて返事をして下さった。


 目出度い日ではあるが、リア様の様子に、リックは何とも言えない気持ちになってしまう。

 ばぁば様がお亡くなりになった日から、リア様は変わってしまわれた。


 常に、にこにこと微笑む。

 ()()、だ。

 起きてから寝るまでずっとなのだ。

 貴族教育で必要とされる仮面のような笑みとも違う。無邪気な子供の笑みとも違う。

 それに、あんなに好奇心に満ち、おしゃべりだったのに、口数が大きく減ってしまわれた。


 リア様にとって、はじめての身近な者の死。

 しかも、次代様と若様による新たな魔法で、肺患いが治ったにも関わらず、助からなかった時の落胆と喪失。

 引き攣ったように喉を鳴らして、嗚咽するように泣き続け……葬儀の際は、声も無く、ただ……涙を流されていた。


 常にリア様のお側で控えていた身としては、理由に心当たりがある。

 ばぁば様とリア様が最期に交わされた言葉。


『泣かないで下さいませ、坊ちゃま……ばぁばは笑顔の坊ちゃまが大好きですよ……。坊ちゃまの笑顔は……ばぁばも皆も幸せにしてくれますから…………』

『僕、泣かない! 笑顔する! から…! だから…ばぁば! ばぁばっ! ばぁばっ!』


 大好きだったばぁば様のリア様への最期の言葉。

 いつもハキハキとしていたばぁば様とは違い、最期の力を振り絞って発せられた、小さく優しい……愛に溢れた言葉だったと思う。

 そして、そこからは言葉が続かず……ばぁば様の意識は途絶え……それから二時間後に、眠るように女神様の御許(みもと)へ旅立たれたのだ。


 旦那様や奥様達とも話し合った。

 無理して、リア様の笑顔を崩す事をしないように。無理して、言葉を引き出さないように。

 リア様は、今……心をそうして守っていらっしゃるのだと思う。


 だから私は、言葉の無いリア様との時間を大切にする。

 だから私は、多すぎないように、常に寄り添って、リア様に言葉を掛け続ける。


 リア様の一番側にいたいから。

 リア様の唯一の側近でいたいから。

 リア様の秘密の親友でいたいから。



 神殿の祭壇前で、若様が女神様へ捧げる演武を披露する。

 ちなみに、女性の場合は、演舞を披露する。

 剣を振り、美しくも力強い型を披露する度に、天上の円状にくり抜かれた大きな硝子から注ぐ太陽の光が若様を照らし、見るもの全てを魅了する。

 皆が、放心したように魅入っている中、リア様は変わらずにこにことしたままだ。

 だけれども、馬車からずっと繋いでいた手だけは、心を示すように……少しだけ力が抜けていたように感じた。


 女神様……どうか、どうか……リア様の御心をお救い下さい。


 リア様にはじめてお会いした日から、私の何かを何ものかが確固たるものと成そうとしてきた。

 今尚、上手く説明出来ない。

 だが、それこそがそうなのだと私の矜持を刺激するのは、今も変わらない。


 何を差し置いても――リア様を守る。


 これだけが、ここまでとこれからの私の心の道しるべ。



 もうすぐ、リア様は八歳にお成りになる。


 まず予想されるのは、これから南北の関係において、大きな変革が起きるだろう事。

 人を超えた存在と言われ、南部最強である若様が成人された事を機に、多くの事柄が変わる。

 それに、マルス様(次代様)も一緒となると、色々と問題が起きそうである。

 戦線を北上させ、悲願であった北の同胞達の救出。

 フジー大山脈の大街道は、巨大な三つの大要塞が守護しているとはいえ、北部との国境にあるマギュロの地は、完全に安全と言えるのか?

 心配は尽きない。


 八歳からは、リア様の行動範囲が広くなる。

 少しずつ、公務と社交を行っていく予定となっている。

 場所としては、マギュロ領内のみではあるし、社交も家臣達を中心としたものではある。

 それが、リア様の心にどう変化を齎すか、期待よりも不安が大きいのは、私が至らぬ故だろうか?


 そしてまだもう少し先ではあるが、私一人だけだったリア様の側近がもう二人増える。


 八歳。

 南北関係だけでなく、今迄のリア様の生活も大きく変わっていく節目の年。



 女神様……どうか、どうか……リア様の御心をお救い下さい。




 もしかしたら、運命はずっと前から決まっていたのかも知れない。

 八歳のリアにこれから起こる事も、七歳でばぁばが女神様の御許(みもと)へ旅立たれた事も。

 そして、何故リアに、前世の記憶があったのかも。

 全ては、決まっていたのか……偶然だったのかは、きっと女神様しか知り得ない――運命――なのだろう……。

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