第62話 脱走計画
登場人物のおさらい
メリッサ・ヒーラメ
メージ王国ヒーラメ家の次女で末っ子。十五歳。連合軍ヒーラメ部隊の副隊長。小柄で胸が大きい。ルークが好き。
ルーク・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の次男。十五歳。人より神に近い超人。
モーガン・ヒーラメ
メージ王国ヒーラメ領当主。表向き愛想が良く見えるが、普段は表情がない。体が大きい海の男。
モリス・ヒーラメ
メージ王国ヒーラメ家長男。連合軍ヒーラメ部隊の隊長。妹に対して過保護。頑固で堅物。
今日は、ルーク様の成人の儀式の日である。
メリッサ・ヒーラメは、取れる手と伝手を総動員したが、ルーク様の成人の儀式への参加は……叶わなかった。
メリッサは、メージ王国の人間だ。
他国の一貴族家の次男の成人の儀への参加権はそもそも、無い。
しかも、調べた所によれば、マギュロ家の成人の儀は、参加者全てマギュロ家の関係者のみ。
同じ国のエドゥ王国の他貴族家すら一切呼ばれておらず、唯一例外なのが、長男であるマルス様の婚約者のみだと言う。
人生で一度だけの成人と言う晴れの儀式を間近で見れないのは残念ではあるが……マギュロ家は、元々マギュロ王国だった事もあり、今尚、王族時代と同じように儀式を進めるらしく……城から神殿まで、儀式参加者全員が一同に徒歩で行進し、内外にルーク様成人のお披露目をするらしいのだ。
メリッサの成人の時は、神殿に馬車で向かい、馬車で帰り、家である城塞正面の歩廊から領民へお披露目し、夜は夜会を開いただけだ。
メージ王国の王族も貴族も、他国も規模はそれぞれ異なるが殆ど同じだろう。
なので、大人数で行進を行うマギュロ家は、特殊である……が、そのお陰で! 領民に混じり、ルーク様を遠目からでも眺める事が出来る絶好の機会なのだ!
だが、メリッサを邪魔する者がいる。
兄、モリス・ヒーラメだ。
そもそも、ルーク様の事は、父、モーガン・ヒーラメから諦めろと言われている。
兄も同様で、過保護なくせに、妹の初恋を応援してくれる気はサラサラないのだ。
メリッサの行動を予測していたのか、休みが欲しいと懇願し、泣き叫びながら縋ったり、喚き散らしてみたが、効果は無く……しっかりと、予定を入れられていた……。
だが、メリッサには、苦楽を共にした仲間がいる。
一緒にやって来た同い年の新兵達だ。
他国や他家からは、民兵都市とも呼ばれる特殊なヒーラメ領。
幼い時から、軍事訓練を受けてきた同い年の仲間達との絆は厚い。
ルーク様の成人の儀式は、午前中に行われる。
「副隊長、後はお任せ下さい!」
「お嬢様、お気をつけて!」
「ええ、みんな! 任せたわ!」
朝の点呼が終わるや否や、メリッサはお供を一人見張りに連れ、荷馬車に潜む為に倉庫へ向かった。
計画はこうだ。
今日の予定は、休戦中で北が攻めてこないので、先日の争いで使った武器や備品等の整備と補充。午後からは、全体訓練がある。
メリッサは、かなり小柄で、仲間達の中で一番背が低い。
二番目に背が低い、部下の男の胸に布を詰め、メリッサの髪型に似せた鬘を態々用意させ、入念に化粧を施し、身代わりを立てることにしたのだ。
早朝の点呼以降、次の点呼は午後の訓練時。
大要塞へ出入りする食料の荷馬車に潜み、要塞からの脱出を図り、事前に用意した馬で駆ければ、さっと行ってルーク様をチラリと眺め、とんぼ返りすればギリギリ午後の訓練までには戻れる……はずだ。
ちょっと遅れて罰を受けるかも知れないが、覚悟の上である。
「お嬢様! 今です!」
お供が見張ってくれている隙に、メリッサが荷馬車にさっと乗り込んだ。
身を屈め、荷馬車の奥にある木箱の影に座る。
しばらくして、荷馬車が動き出した。
大要塞に入る際の検問は厳しいが、出る際の検問は荷を隅々まで検められる事もない。
ドキドキしながら、メリッサは「順調だわ」と、ほくそ笑む。
ゴトゴトと荷馬車は進み、荷馬車の速度が落ちる。
出口である第一要塞の検問の列に並んだのであろうと思われる。
息を潜め、耳を澄ませつつも、メリッサはもうすぐルーク様に会えるという胸の高鳴りを抑えるのに必死でいた……その時。
「いやぁぁぁぁぁ!」
と、女性と思われる甲高い悲鳴が聞こえた。
何事?! と思ってる内に、メリッサの乗っている荷馬車が、ガタリと揺れる。
「はいはい、お嬢さん。あんたもこっちに来て貰おうか」
ガタガタと荷馬車を揺らしながら、検問の係が入り込み、すぐにメリッサは見つかりお縄になった。
完璧な作戦だったはずなのに……ルーク様の晴れの日を見る事が叶わない現実に、メリッサは言葉をなくしながら、引き摺られるように荷馬車を降ろされた。
半ば、喪失から放心しながら、引き摺られた先には、同じ年頃の女性が幾人か……中には泣いてる女性もいる、悲壮な空間があり、メリッサもその中に捨て置かれた。
「はいは~い。皆さん! 考えている事は同じですねぇ~」
この場に似つかわしくない軽薄な物言いの検問係が、声を上げる。
「マギュロ家のルーク様の成人の儀を見に脱走を企てていた事はお見通しですよ~!」
検問係は、お粗末な脱走計画を立てた者達を呆れながら見回す。
(そもそもバレバレなんだよなぁ~。今日の休暇を願い出た女性軍人の多いこと多いこと。全員の目的がバレバレだから、休暇は誰一人許可してないし……若い子の考える事なんておじさん達にはお見通しですよっと。マギュロの若様は相変わらず罪な御方だねぇ~)
次々に女性達が声を上げ出す。
「ルーク様ぁぁぁぁぁ!」
「わかってるなら見逃してよぉぉぉぉ!」
「うわぁぁぁぁぁん……ルーク様ぁぁぁ!」
そんな中、メリッサの後にも何人もの女性がお縄となって、この輪に加わってくる。
ある者は泣きながら、ある者は喚きながら、ある者は放心しながら……チラリと周りを見渡し、互いに恋敵となるだろう相手を値踏みする。
(私の方が美しいわ!)
(私が一番身分が上のはずよ!)
(私が一番ルーク様に会っているはずだわ!)
メリッサも当然、睨みをきかせる。
(こんなにも恋敵がっ! 誰しもがルーク様の虜になってしまうのは仕方ないけれど……でもっ! 当然っ! 私が一番っいっちばん! 可愛いものっ! 負けないわっ!)
此処に、ルークを巡る、女達の戦いの火蓋が切られたのである。
ちなみに、何故こうもルークを狙う女性が軍人に多く、揃いも揃って問題を起こしたのか? だが……
三年前、北に囚われている同胞の一人に協力を得、映像と音声を届ける魔道具を通し、常時監視していると各国に報告が齎され、各国から大要塞への視察が行われた。
その際、特に子連れの場合、マギュロ城でマギュロ家による持て成しを行ったのだが、それが原因だ。
三男リアの挨拶の練習に同行したルークに出会ってしまった貴族家子女が多くいたのだ。
全員が全員、一目惚れ。そしてルークの噂は南部の若い令嬢達を駆け巡り、ルークの姿絵が出回り……。
彼女達は、是を機に、成人での従軍に志願することを決意。男はまだしも、多くの貴族令嬢に従軍義務は無い。勿論、ルークに会いたいが為である。
そして、図ったように、皆、同じ思考で、同じように、脱走を図ったのである。
(マギュロの若様が入軍したら……もっと問題が頻発すんだろうなぁ~。めんどくさぁ~)
検問係はそう思いながら、甲高い声で泣いたり喚く若い女性軍人達を呆れながら再度顔触れを見回した。
こうして、メリッサの計画は潰えたのである。




