第49話 罰
登場人物のおさらい
マリア・キュジラ
エドゥ王国キュジラ家の長女。二十一歳。マルスの婚約者なので苦労人。
マルス・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の長男。十九歳。軍の司令官。婚約者のマリア命の狂人。
ジョージ・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家当主。リアの父。長男と次男のやらかしに悩んでいる。
ジゼル・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家当主夫人。リアの母。長男次男が普通ではなかったので普通の子供のリアの子育てに幸せを感じている。
マシュー
マルスに忠誠を誓っている絵描きで、マルスが突然拾ってきた。写実的な絵を描く。
マリオ
マルスに忠誠を誓っている技術者で、マルスが突然拾ってきた。魔道具や兵器の開発をしている。
マーカス
マルスの側近。苦労性の常識人。マギュロ家使用人八門、一門の出。
「嗚呼……私のマリア!」と、手足を縛られているマルスがジタバタとしているが、それを無視して「何の事です?」と問う。
マリアは、“許可”と言う言葉が出た時点で、碌な事ではないだろうと思う。
気不味そうに目を逸らし、口を開きかけて止めるジョージ・マギュロが手に持っている紙束を、横からさっと奪った未来の義母であるジゼル様がこちらに差し出して来た。
「ご覧になって。そこの屑愚息が隠し持っていたのよ」
「屑愚息とは何ですか?! 母上!」と、マルスが叫ぶが、無視して紙束を受け取る。
そこには、まるで鏡の中の自分……一般の肖像画とは全く異なる姿絵が描かれていた。
「まぁ……!」
何十枚もの絵姿を、驚きつつも、一枚一枚検める。
いつ描かれたかわからないが、どの絵姿のマリアも生き生きとしていて、いつも鏡で見る自分よりも、顔立ちが柔らかに見えた。
マリアは、綺麗だとか、美しいとは言われるが、可愛いとはあまり言われない。
どちらかと言うと垂れ目な父や兄弟達とは違い、唯一母親似で、キツい顔立ちをしている方だと思う。その母親の顔立ちに惚れ込んでいる父や、家族の欲目のある兄弟達は、マリアを褒めそやしてくれはするが、もう少し柔らかい顔立ちに生まれたかった。
肖像画など、無表情の絵姿は特にキツい顔立ちに見え、あまり気に入っていなかったけれど、これらの絵姿は、何故かいつもの顔立ちのキツさが半減されており……理想の柔らかみがあった。
正直……少し、嬉しい。
「この絵姿は? いつ描かれたものです?」
「愚息の小間使いだと言っていたマシューをご存知かしら?」
「マシュー? ああ、たまにこちらに滞在中に見かけますが……」
「そう、なのね……。そのマシューですが、小間使いではなく、絵描きだったようなのよ」
「絵描き……」
マギュロ家に滞在中、偶に見かける小柄な青年マシュー。
気付いたら、遠目でこちらをじっと見ている事があり、マリアも侍女のマリー達や護衛も気味悪がっていた青年だ。
近くに寄る事もなく、遠目に、時に隠れるようにじっと見ているだけで、実害は全くないのだが、少々……いや、かなり不気味で、あまり良い気分はしなかった。
なるほど。あれは、マリアの絵姿を描く為に、見ていたのだと理解する。
「マルス、どう言う事かしら?」
マリアからの問い掛けに、マルスは、詩を奏でるように滑らかに言い訳する。
「マシューは逸材なのだよ、マリア! 何故なら、見た一瞬を完全に記憶し、それを絵として描く事が出来るのでね! 美しいマリアを描く為に女神様が与えた才っ! そをれを見抜くとは……流石、私! 出会った日から今迄、全てのマリアを私は記憶していつでも思い出せる! だがっ、だがっ! 世は理不尽だ! 一秒足りともマリアを見逃したくないのに、マリアと私を引き裂く父のような不届き者や婚約契約書が邪魔をするっ……! 私は、私が離れている間のマリアも全て目に焼き付けていたい! マシューは、天の与えしその至高の役目を務めさせているっ!」
そこかしこから溜息が聞こえる。
「マシューの事はわかったわ。で、マルス。マリオに作らせ、私の部屋に仕掛けたアレはどう言う事かしら?」
「夫となる私には、一秒でも多く美しいマリアを愛でる権利があるっ! だから――ふがっ」
言い終わる前に、マルスの側近のマーカスが、マルスの口を布で塞いだ。
「マリア様。どうせ碌でもない理由を並べ立てるだけです。時間の無駄です。どうぞ、この愚かな主に然るべき罰をお与え下さい。未然に防げなかった我々にもどうぞ罰を」
潔く頭を下げるマーカスをはじめ、真っ当な側近三名。
いつもの如く、可哀想になる。
罰は決めてある。
マルスがマリアに対しやらかす事に関しては、当主であるジョージにも罰を与える権限はない。
「ええ。罰を申し渡すわ。ですが、マーカス達は悪くありません。悪いのは、マルスのみ」
それに続くように、ジゼル様が「こんな屑愚息、婚約破棄も致し方ないと思っているわ。煮るなり焼くなり好きに罰を与えて頂戴」と言うと、マルスの口を塞いでいた布と、両手首を縛っていた縄が、勢い良く発火し一瞬で燃え尽き、僅かに焦げた匂いが広がる。
ギョッとしてマルスを見ると、口元が赤く爛れて痛々しいが、すぐに、治癒の魔法が掛けられたようで、一瞬で元の肌に戻り、盛大に喚きながら、マーカスの静止虚しくマリアの足元に縋ってきた。
「婚約破棄なんて嫌だマリアああああああ! 私を捨てないでくれええええええ!」
鬱陶しい……。
「婚約破棄はしません」
ぱぁっと目を輝かせ「私の女神っ! やはり私を愛してくれていたのだね!」と、更に縋ってくる。
鬱陶しい……。
「ですが――」
そう言うと、マルスはピタリと動きを止める。
色々考えたが、やはり婚約破棄は現実的ではない。
だが……、今出来る最大限の、マルスに一番効く罰を与えよう。
たとえそれが、自分の婚期を遅らせるものだとしても。
行き遅れだと言われたとしても。
気付かなければ……浴室でっ! 私のっ! あられもない姿をっ! 盗み見られていたのだからっ!
静かに、冷静に……怒りを込めて申し渡す。
「婚姻時期を無期限で延長させて頂きます」
マルスは、絶望だ、と言う顔をしている。
鬱陶しい……。
「婚姻したければ、条件を付けるわ。その条件は――」




