第48話 絵
登場人物のおさらい
マルス・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の長男。十九歳。軍の司令官。婚約者のマリア命の狂人。
ジョージ・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家当主。リアの父。長男と次男のやらかしに悩んでいる。
ジゼル・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家当主夫人。リアの母。長男次男が普通ではなかったので普通の子供のリアの子育てに幸せを感じている。
マーク
マルスに忠誠を誓っている側近で、マルスが突然拾ってきた。使用人八門の出ではない。
マリオ
マルスに忠誠を誓っている技術者で、マルスが突然拾ってきた。魔道具や兵器の開発をしている。
マーカス
マルスの側近。苦労性の常識人。マギュロ家使用人八門、一門の出。
マリア・キュジラ
エドゥ王国キュジラ家の長女。二十一歳。マルスの婚約者なので苦労人。
目の前には、手足を縄で縛られたマルスが転がっている。
視察から戻ってみれば、また……また息子が盛大にやらしていた……。
「一線を越えたな、マルス……」
妻は、ずっと無言だ。
無言で息子を見下ろしている。
この場には、使用人達もいるが、特に女性達の視線は冷え切っている……。
「婚約破棄になっても文句は言えないな……」
そう父であるジョージ・マギュロが発するや否や、息子は「嫌だあああああああああ!!」と、体を捩りながら見苦しく喚き出した。
流石に、今回の一件は庇うことは出来ない。いや、一度も庇ったことはないが……。
婚約者の……女性の部屋に映像と音声を送る魔道具を仕掛けるとは、男の風上にも置けない。
我が息子ながら、本当に情けない……。
あの魔道具は、許可を得ねば複製を禁止されている今や南部でも貴重な魔道具だ。
まだ南部全体で法整備は済んでいない。
其れ程までに、政治的にも軍事的にも影響の大きい魔道具である。
現在は、北部の監視に一つ、フジー大街道にある第一要塞を拠点とし、南北戦線に関わる軍事的な連絡用として各国の軍部の本拠地に一台ずつ設置されている。
それ以外での使用も複製も南部では認められていない。
複製しようと思っても、マリオ以外作ることの出来ない魔道具だ。
それを、部屋に仕込めるほどに小型化し、携帯出来るほどの小型の受信魔道具も秘密裏に作らせていたのだ。こんな事態でなければ褒めたものを、この息子は……。
これ程迄に便利で実用性のある魔道具が、万が一世に流通すればどうなる事か……。
(魔道具が改良されとんでもない代物になった件は箝口令を敷くしか無い……)
「煩い、黙れ。で? 何でこんな事をしでかした?」
問答無用で息子が有罪なのだが……言い訳を尋ねる。どうせ無駄ではあるが……。
「私は、マリアの婚約者ですよ? 美しすぎるマリアに何かあっては困るので安全の為ですよ。愛する婚約者を常に見守っていたかったのですよ」
言い訳を聞いて貰えると思ったのか、喚くのを止めた息子は拗ねたように言い訳を口にする。
しかも、言い切った後は、何を当たり前の事を、という表情をする。
いつもそうだ。恋愛面において、息子は私達とは懸け離れた常識に生きている……。
「……」
無言でいると、更に言い訳を言い募る。
こういう時の息子の扱い方はわかっている。こちらが無言でいると、聞いてもいないのに言葉でどうにか言い包めようと言い訳を言い募り出すのだ。
大概が、こちらの常識に沿う事の無い身勝手で非常識な――マルスは正当だと思っている――言い訳で、納得できる事も、情状酌量の余地もないのだが……。
「そもそもあれは私がマリオに指示して開発させたものです。使う権利は私にはあるでしょう。今迄はこれでも我慢していたのですよ。マシューの腕も上がったし」
「マシュー? マシューの腕? 何のことだ?」
マシューとは誰の事だったか? と首を捻ると、それを察したマルスのまともな側近のマーカスが説明をする。
「マルス様が一年程前に何処からか拾ってきた小間使いです。あまり城では見かけませんが……」
「その小間使いの腕? どう言う事だ? そのマシューとやらにお前は何をさせている? 腕が上がったとは何だ?」
「……」
「本当の事を言わねば、婚約は解消――「言います!言いますよっ!」
不貞腐れたように息子は「あいつは絵描きです。マリアの絵を描かせてたんですよ」と言った。
どんな絵姿を描かせていたか確認せねば安心出来ないと思い、ジョージはマークに命令する。
「マーク。マルスの婚約を破棄されたくなければマシューの描いたと言う絵を全て持って来い」
このマークと言うまともではない側近。息子が何処からか拾ってきて、何故か息子に絶対の忠誠を誓っている内の一人だ。
息子には、常に側に居るマークや、魔道具や兵器開発の天才のマリオなど、何人もの使用人八門以外の部下がいる。その誰もが曲者で、社会適用出来そうにない問題児ばかりだが……何かに特化した才を持ち、何故だか息子に絶対の忠誠を誓っている。
一体何処で拾ってくるのかも不明で、聞いても「拾ってきた」としか答えないのだ。
マークは、チラリと自身の主であるマルスを見る。
マルスが頷いたのを確認し、マークが何処かへ去った。多分、マルスの部屋に行ったのだろう。
「マーカス。マシューとやらが絵描きだと把握していたか?」
「いえ、申し訳御座いません。小間使いだと聞いておりました」
「マリアの絵姿をマルスが持っていることは?」
「それも把握しておりません。城に呼んだ絵師に描かせ、マルス様の部屋に飾られているマリア様に許可を得たマリア様の肖像画四点しか把握しておりません。部屋の掃除や管理も我々側近三名で行っているので部屋にあればわかるのですが……。申し訳御座いません、旦那様」
「いや、お前のせいではないが……」
はぁ……と溜息を吐いていると、マークが戻ってきた。
その手には、予想していた肖像画などの額縁ではなく、手に収まるほどの大きさの紙が分厚く束になっていた。
紙は、大きさ的に通常の内政書類で使用している紙だと思われる。
自領で生産している紙で粘りがあり強度もある品質の高い紙だ。だからこそそれなりの価格の高級紙なのだが、書き損じも多く、そういったものは回収し古紙として再生させており、安価に領民に販売している。思えば、この古紙再生もマルスが思い付き始めた事業であったな、と思い出す。
マークから受け取った紙束に目を通して驚愕した。
「これはっ……!」
目を見開いていると、気になったのか妻が側に寄り覗き、同じように声を上げる。
「まぁ……!」
絵の具ではないだろう画材で描かれた絵は、黒のみの単色ではあるが、まるでその場を切り取ったかのように……見たこともない程精密に写実的に描かれていた。
ある絵は、マリアの歩いている姿で、また別のある絵はマリアが自然に微笑んでいる姿。
通常の絵姿とは違い、生き生きと描かれており、日常を切り取った様。ジョージが知る人物を描く肖像画とは全くの別物のようであった。
生きているそのままを写し撮ったかのような芸術品の絵は、ざっと見ただけでも五十はあり、如何わしい物は描かれていなかった。正直疑っていたのでホッとする。
「腕が上がったとは、マシューの絵の腕の事か……。小間使いではなく本当に絵描きだったのか。これらのマリアの絵姿だが……マリアの許可は……当然、得ていないのだろうな……」
また一つマリアに謝罪すべき事が増えたと思っていたら「私の許可?」と、マリアの声がした。
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5月14日にランクインしていたのですが、連載中のランクインは初めてだったので嬉しかったです!ブックマークや評価有難う御座いました!お礼を書くの遅くなってすみません。




