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戦線貴族家三男は最弱最強の兵器 ー 兄二人が可怪しいです!助けて! ー  作者: たきわ優


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第42話 民兵都市

登場人物と国や用語のおさらい


マルコ・キュジラ

エドゥ王国キュジラ家の長男。軍人。マルスの婚約者マリアの兄。


エリック

エドゥ王国軍人。マルコの部下。涙もろい男。


イーサン

ムカディエ家の奴隷の少年。十二歳。南部に協力し、映像と声を届ける魔道具を装着中。


イーサンの父親

ムカディエ家の奴隷。糞尿係。


隔離場

北部で奴隷が暮らしたり一時的に滞在する隔離施設。


メージ王国

エドゥ王国の西、海岸沿いに広がる国。西の特区である城塞都市のある国。

 画面に映る様子を眺め、部下達が肩を叩き合い歓喜するのをマルコ・キュジラは静かに見守っていた。


「隊長っ! 良かったですよね! 怪我が減るわけじゃないけど……でも……俺でも役に立てたんですよね」


 涙脆い部下のエリックは、やはり涙を流しながら器用に笑みを浮かべ、何度も何度も喜ぶ。


「ああ。お前のおかげだな」


 そう言うと、更に泣き出したエリックに苦笑する。


 先程、隔離場に帰ってきたイーサンが、最新の治癒の魔法を両親に共有する様子を監視している部下達と共に見守ったところだった。

 母親の荒れた指先にある無数の切り傷がみるみる癒される様子に、イーサンが嬉しそうに涙していた。それは、エリック達部下だけでなく、この場で一番上官のマルコの目尻の濡れも隠せぬほど感慨深いものだった。

 三百年前の古い治癒の魔法を共有し受け継いできた北の同胞達。

 幾度となく北の奴らに暴力を振るわれ傷付いてきた同胞もこれで今までより早く体を癒す事が出来るだろう。

 留学してきたイーサンに馬車の中で治癒の魔法を共有して付きっきりで練習にも付き合ったエリック。

 其の為に、躊躇(ためら)いもなく自身の腕を短剣で斬り付けたエリックの献身が実ったのだ。

 笑顔で自身の血の滴る腕を差し出すエリックに、イーサンはかなり引いていたが……気持ちは伝わっており、かなり恐縮し、申し訳なさそうにしながらも、イーサンは一生懸命練習をしてくれた。


 画面の向こうでも、両親がエリックと同じように涙を流しているのが見える。


『イーサン、有難う……。明後日からまたお貴族様の遠出だ。他の隔離場で必ずこの治癒の魔法を同胞達に共有する! 南の同胞の慈悲を無駄にはせんからなっ!』

『うん、父さん。お願いね。練習しないとだよね……』


 イーサンが画面越しにそう言うと、立ち上がり移動した。

 マルコは、嫌な予感がした。

 イーサンは、何度も研ぎ短くなっただろう、古くから使い続けた痕跡が濃く、柄の木製部が黒ずんでいる包丁を手に取り戻ると、父親の前で躊躇うことなく左腕に刃を当てた。


『イーサンっ!?』


 父親と母親が悲鳴をあげる。

 浅い傷ではない。それなりに深く割れた傷口からは、真っ赤な血が止まることなく滴るのが見える。

 だが、イーサンは笑顔で言った。


『僕がこうやって治癒の魔法を使えるようになったのは、エリックさんて言う軍の人が、同じように腕を傷付けて練習に付き合ってくれたからなんだ。ほらっ、父さん。明後日まで時間はないよ! 練習してしっかり使えるようになってくれなきゃ!』


 共有しただけの感覚は“薄い”。

 何度も繰り返し練習することで“濃く”なり、享受者に感覚が深く定着する。魔法も精度や効果が上がる。そうする事で、次の感覚共有で正しく感覚を受け渡せるのだ。

 治癒の魔法なら、練習することで、治癒の速さや効果範囲に影響する。刺し傷なら表皮のみの見た目を治すか、神経や血管など深部まで修復出来るかが変わってくる。

 だから、それなりの回数を熟さなければならない。


 ……つまり、これから何度も今の光景を観ることになる。


 エリックが絶句し、口を開けたまま固まっている。

 一方通行な映像に向かって、部下達の悲壮な声が重なる。

「お前どんな教え方したんだ?!」と詰められるエリックに同情しつつ、短い留学期間で出来る事の最善だったと言わざる得ない。


 部下達に声を掛けつつ、これまでに得た情報を思い出しながら思案する。

 奴等の狙いはどこにあるのかを。






 留学生達は、メージ王国の特区から西の海岸沿いを南下し、数日掛けてメージ王国の王都との中間に位置し、大きな港を有す貿易拠点でもあるヒーラメ領都に移動した。

 領主であるヒーラメ家の所有する別邸に留学期間中は、留学生達に滞在してもらう。

 この場所が選ばれたのには理由がある。


 一つ目は、特区と同じく城塞都市である事だ。


 特区とは比べ物にならない程広く三重の防壁を張り巡らせたそこは、細かく割り振られた区画毎に立ち入りを制限されており、入出管理が徹底されている。

 年齢性別どころか、黒子の位置、人相まで細かく個人を特定する情報を登録されたヒーラメ領都内のみに適用される身分証明書の携帯が必須。領民から商人、旅人まで必ず持ち歩かねば罪に問われる程に徹底している。

 信用も格付けされ、それにより立ち入り区間が決まるので、他国からは息の詰まるような都市だとも言われる事もあるが、そうでもない。

 犯罪を犯すこと無く、普通に生活し長く住んでいる領民達は、信用格付けも高く不便はないのだ。

 それに、徹底したが故に、犯罪が少なく何処よりも治安は良い。


 ――今は。


 三百年前、フジー大街道の次に北との戦火が酷かったのが、ここ、ヒーラメなのだ。


 広く深い海岸線は、自然の地形を活かし少し整備すれば使える程に船付けし易く、港としてはこの上ない。

 だが、それ故に――攻められやすかった。

 しかも、北からの海流が、一年を通し穏やかな場所でもあり、自然による海難事故の危険性が殆ど無い。腕の悪い船頭でも海流に任せ容易く辿り着いてしまう。


 港として当時も栄えていたヒーラメは、城壁もまだ無く、軍備が殆ど整っていなかった。

 多くの船隻で海から攻められ、沢山の民達が命を落とした。

 沢山の民が拐われた。

 最終的に、駆け付けたメージ王国軍によりそれ以上内陸に入り込まれはしなかったが、被害は甚大。

 この悲劇を繰り返さぬ為、城壁を張り巡らせ長い時間を掛け今の形となったのだ。


 二つ目は、領民達が、男女関係なく一定期間の兵役が義務付けられている事。


 戦闘訓練だけでなく、諜報まで教育され、領民一人一人が、いつ如何なる悲劇が起きようと己の使命を果たすべく動けるように育て上げられている。


 海から最も攻め易いのは、此地なのだから……。


 様々な悲劇を想定し施された軍事教育には、最も実現して欲しくない最悪な想定も含まれる。


 同じ、黒髪黒目の北の同胞が――敵――となってしまう想定だ。


 留学生については、一般には機密である。

 だが、ヒーラメ領都においては、事前に、全ての領民に通達。

 子供以外、そこに暮らす民のほぼ全てが民兵の城塞都市。

 死角無くほぼ全ての領民による監視体制を敷く。

 前例のない思い切った取り組みは、最悪な未来を避ける為の布石となるか、否か……。

 留学生達は、敵なのか否か……。


 領民達の想いは頑なだ。

 願わくば――嘗てヒーラメの地から拐われた子孫を救いたい。悲願でもある。


 南部で最も特殊な環境下、留学生達は生活を送る事となったのだ。

ヒーラメ家(鮃、ヒラメ)

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