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戦線貴族家三男は最弱最強の兵器 ー 兄二人が可怪しいです!助けて! ー  作者: たきわ優


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第41話 第二王子アダム

登場人物と国や用語のおさらい


ネイト・ネッコ

北の大国ネッコ王国第一王子。正妃の子。優秀だが未だに立太子出来ていない。


アダム・ネッコ

北の大国ネッコ王国第二王子。正妃の子。女神様への信仰心が厚い。兄の第一王子を慕っている。



ネッコ王国

北の中央にある北部最大の領土と軍事力を有する国。


ブッタ王国

北部の誇大な農地を有する、北の食料庫と呼ばれる国。王族はネッコ王国の血筋。


トッリ王国

北部にある国。ネッコ王国の属国の一つ。


上位中央議会 

ネッコ王国のみで行われる議会。


下位中央議会

ネッコ王国が主導する議会。各国が生き残りを掛けて議席数を争っている。

 ネッコ王国は、北部最大の国。

 北最大の領土と、圧倒的な軍事力で北部を支配する圧倒的で唯一の王国。

 そんな大国の第二王子であるアダムは、怒らせた肩を振りながら足早に自室へと向かっていた。


(兄上……)


 家族というものが希薄な王族故に、両親とは月に一度程度しか会えない幼少期を送っていた。

 そんな中で唯一同腹の兄である第一王子ネイトだけは、毎日のように自分の元へ足を運んでくれていた。


『兄が側に居る。いつでも頼れ』


 年の離れた兄上は、いつもそう言い、私に構ってくれた。

 王族に触れるのは不敬な事から、使用人は風呂や着替えなどを除き、幼児だろうが不用意に触れてはくれない。だけれども、兄上は唯一、人の温もりを与えてくれた。

 抱き締め、肌を撫で、触れてくれる。


 私の世界には、兄上が居て、兄上以外は居なかった。


 私が十歳の頃の事だった。

 忙しい合間を縫って時間を作り、いつも会いに来てくれていた兄上が待てども待てども現れない。

 いつも視察などの遠出で会えない日には、事前に教えてくれていた兄上。何の連絡もなく会えないのははじめてだった。


『ねぇ、兄上は?』


 僕の問いに誰もが口を噤み、やっと兄上に会えたのはそれから一月以上も後だった。

 この時は、聞いても誰も……兄上さえも教えてくれなかったが、それでもまたいつも通り兄上に会えることの方が重要で、何があったかを知ろうとは思わなかった。


 だが、それから五年。

 十五歳。成人間際になり、神殿関係者の接触が増え、一人の神官から真実を知ることになる。


『兄上がっ……!?』

『ええ。黒き罪人により拐かされたのです。それにより、第一王子殿下は未だに神殿の祝福を受けれず立太子出来ない状況なのです』


 兄上の予備である私も、兄同様の教育が進み、様々な事を学ぶ中で、違和感は感じていた。

 何故、あの優秀な兄上が未だに立太子していないのかと……。

 まさか、黒き罪人に拐かされ、そして未だに拐かされたままだと言う事実に目眩がした。


 客観的に見れば、その罪の責任は黒き罪人だけでなく、第一王子ネイトにも――帰属する。


 だが、私の世界の全てである兄上に、罪なんて一欠片も有る訳がない。

 全ての責任は、黒き罪人にある事こそが――真実。

 元々、信仰の厚い方ではあったが、これにより、一層女神様への信仰は強くなった。


 女神様と同じ黄金の御髪を持つ北部の人間こそ唯一。

 黒き南の蛮族は罪人である。

 黒き罪人は――排除せねばならない。


 自室まであと二つ角を曲がれば着くところで声が掛かった。


「アダム」

「兄上っ!」


 柔らかく微笑む兄上が、そこに居た。


「少し時間が出来た。今から茶でも飲まないか?」

「はいっ!」


 もう私も二十二になったと言うのに、未だに兄上に会えば、声が弾んでしまう。

 子供っぽい事は重々わかっているし、古株の執事には眉を顰められる事もあるが、心が弾んでしまうのだ。


「ブッタ王国で改良を進めさせている麦が――」

「トッリ王国の情勢に変化があって――」

「上位中央議会で審議する法案が――」


 歴代でも稀な頭脳を有する兄上。

 淀みなく滑らかな滑りで話してくれる兄上の政は、ネッコ王国を飛躍的に繁栄させている。

 その功績は、数値で示せば特に一目瞭然で、私だけでなく誰もが次代の王は兄上だと望んでいる。


 兄上は知らない。

 僕が、兄上が立太子出来ない理由を知っている事を。

 其の上で兄上は、僕にこう言う。


『私は生涯独身でいるつもりだ。すまないな……。父上もまだまだ健在だろうからまだ時間はある。いつかお前が妃を娶れば、お前がこの国を継いで欲しい。大丈夫だ。私が補佐をする。兄が側に居る。いつでも頼れ』


 立太子の条件に、正妃を娶る事も含まれる。


『何故、妃を娶らないのですか?』

『そう言う性分なのだ。すまん』


 神殿関係者からご内密に……と昔教えられた。

 無理やり王命で娶らせようとした時に、自刃(じじん)すると兄上が言ったのだと……。


 私を……弟である私を置いて、死を望む程なのか?!

 其れ程までに、黒き罪人と共に罪を被ろうとなさるのか?!


 兄上には、一切の責などないと言うのにっ!!!


 私は、兄上を諦めない。

 だから、私も妃を娶らない。

 王位などいらない。


 神殿の連中は、兄上を諦め、私に王位をと望み近付いてくる。

 許せないっ!!

 だけれども、この世で一番憎い黒き罪人を処分する道筋を、道を踏み外すことなく正しく歩まねば、兄上の輝かしい治世を望むことは叶わない。

 だから……神殿を退けることは出来ない。

 日に何度も祈る女神様への信仰は揺るぎない故に、神殿を疎かになど出来ないのだ。

 神殿関係者の意向を許せないのに、信仰を絶対としたい私の気持ちはいつも矛盾する。


 女神様、兄上をお救い下さい。

 女神様、私の祈りが足りないのでしょうか?

 女神様、どうか……どうかっ……。


「そうだ、アダム。明日の朝の予定が流れてな。どうだ、久しぶりに馬で駆けるか? そのくらいの時間なら取れそうだ」

「勿論ですっ! 何時以来でしょう? 兄上と遠駆け出来るのは! 久しぶりで嬉しいですっ!」

「ははは。私も楽しみだ」


 声が、心が弾む。

 兄こそが、私の――全てだ。

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