第40話 第二王子アダム
登場人物のおさらい
リア・マギュロ
主人公。エドゥ王国 マギュロ家の三男。五歳。転生者。
マルス・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の長男。十七歳。軍の司令官。婚約者のマリア命の狂人。
ルーク・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の次男。十二歳。人より神に近い超人。
ばぁば
マギュロ家に長年仕える使用人。小柄でふっくらしている快活な老婆。使用人八門、二門の出。
リック リアの従者
リアの初めての側近。十二歳。使用人八門の八門の出。
ルキウス・ムカディエ
北の大国であるネッコ王国軍要職についてる貴族家次男。兄を退け当主を狙う野心家。奴隷を使い南部を内側から崩そうと画策している。
ロバート・ネッコ
北の大国ネッコ王国第三王子。美姫と呼ばれた第二王妃のを母にを持つ美男。ルキウス・ムカディエに協力している。
マルス兄さんとルーク兄ちゃんに“お願い”をしてからの僕は、情緒不安定だった頃から一転、いつも通りに戻った。
僕の、兄さん達への圧倒的な信頼が、二人に任せたのだから大丈夫! と、僕の中でこの問題が“解決”してしまったからだ。
実際は、まだ何の解決もしていないのだが、兄さん達に“お願い”をし、兄さん達が「任せろ」と言ってくれた事で、もう僕は解決した気になっているのだ。
五歳の脳みそがそうさせたのであろう。
五歳児である。
寝て起きれば、大概のことは忘れている。
そう、僕は……寝て起きたらこの事は、すっかり過去の事どころか、頭の隅っこの隅っこのそのまた隅っこまで追いやって、数年後のある時まで――本当に忘れるのである。
魔法が使えないことに関しても、ばぁばが、いつか僕も使えるようになると言ってくれたし、平凡でモブな僕が使えないのは当然だとばかりに焦ることもなくなった。
七の花のお世話もあるし、リックとのお勉強もあるし……それなりに貴族家三男の僕は忙しく日々を熟す。
……と、こんな感じで、日常に戻った僕。
そして、いつも通り平和に過ごし、僕が全く知らないところで、大小様々な物語は進むのである。
記念すべき第一回の留学を終え、留学生達は北部へと帰還していた。
「皆さん、無事に留学生と言う大役を果たしてくれ感謝します」
ルキウス・ムカディエが、大袈裟な仕草で留学生一同に労いの言葉を掛けた。
場所は、ネッコ王国の王城前の広大な広場の一角。
城門よりも内側ではあるが、式典などで城門を開き、民へ向けて王族が顔を出す際に、平民が進むことを許された広場中央部ギリギリの位置だ。
一応、留学生の帰還と言う式典の体を取っている為、関係する役人なども整列し、それなりの人数が集まっている。
それを、城の露台近くから見下ろす男が小さく息を吐き、部屋の中に戻った。
「民ならまだしも、黒き罪人を城の内側に入れるとは……。理解はしているが、城が穢れたようで気分が悪い」
そう吐き捨てるように言うと、その直ぐ側に控える男が直ぐ様それに反応する。
「ええ、ええ、殿下。仰る通りで御座います。ですが、これも大義の為。女神様もお許し下さる事でしょう」
「わかっておる」
不機嫌にそう答える殿下と呼ばれた男は、北の大国であるネッコ王国第二王子アダム・ネッコ。
彼は、過去のある出来事を切っ掛けに、女神への並々ならぬ信仰心を持つ。それ故に神殿との強い繋がりを築いている王子だ。
第二王子アダムの機嫌を伺いつつ神官のウルバヌスは、ゆったりとした口調で続ける。
「幾年かは掛るでしょう。ですが、穢れた罪人共を一層出来る機会やも知れません。女神様の黄金の御髪を受け継ぐ我らには使命が御座います。この大陸の大地から全ての黒を排除せねばなりませぬ。其の為にも、これからは殿下がより一層先頭に立ち皆を――」
調子良く続けようとした言葉をアダムは遮る。
「まだ言うかっ……! 不用意に城で私が先頭に立つなどと言う誤解を招く言葉を吐くなっ! 何度も言うが、私は諦めておらん! 兄上が次の王だ。私ではない! 神殿が兄上を認めない理由はわかっておるが……兄上はいつかわかって下さる! 何度も同じ事を言うな! わかったな! 気分が悪い、下がれっ!」
「ええ……殿下」
ウルバヌスは、恭しく頭を下げながらその場に留まる。
(信仰を重んじるのであれば、第一王子など切り捨てれば良いものを……)
第一王子ネイトと第二王子アダムは、同じ正妃を母親に持つ。
年の離れた兄ネイトをアダムは親よりも慕って育ってきた。それ故にアダムは諦めきれない。
(既に十年以上経っているのだぞ……。ここまで頑なな第一王子が今更変わるはずがないではないか……)
十数年前のある出来事を切っ掛けに、本来なら王太子となるはずの第一王子ネイトは、未だその身分を第一王子のままとしている。
北部では、王位継承には必ず神殿からの祝福を受ける必要がある。
第一王子ネイトは、神殿からの祝福を受ける事が出来ずにいるのだ。
神殿からの祝福を受ける事が出来ない事以外は、非の打ち所のない第一王子。
だが、もう三十歳になると言うのに、婚姻すら拒否し、本人は第二王子であるアダムに玉座を譲ろうとしている。
それを拒否し、兄であるネイトこそ次代の王であると、王太子となる事を拒否しているのが第二王子アダムだ。
(神殿の意向としては、信心深い第二王子アダムが王位に就くことを願っているのだが……。切り札を使うべきか……後ろ盾は弱いが操りやすい第三王子を立てるか……)
肩を怒らせカツカツと歩き背が遠くなるアダムをウルバヌスはじっと見つめる。
正妃の気質を揃って引き継ぎ、我の強い兄弟を忌々しく感じつつも、表情に出さぬように気を引き締める。
過剰なほど配置されている衛兵や、忙しく歩き回る使用人から漏れる噂に登るわけにはいかない。
彼等は教育された王の手足なのだから。
いつも通りの微笑で、すれ違う彼等に軽く頭を下げつつ、ウルバヌスはゆったりと足を進める。
神官らしくゆったりと。




