第38話 ばぁば
登場人物のおさらい
リア・マギュロ
主人公。エドゥ王国 マギュロ家の三男。五歳。転生者。
リック
リアの初めての側近。十二歳。マギュロ家使用人八門、八門の出。
ばぁば
マギュロ家に長年仕える使用人。小柄でふっくらしている快活な老婆。使用人八門、二門の出。
マルス・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の長男。十七歳。軍の司令官。婚約者のマリア命の狂人。
ルーク・マギュロ
エドゥ王国 マギュロ家の次男。十二歳。人より神に近い超人。
リア様が落ち着かれるまで三か月程の時間が必要だった。
戦地に赴く可能性のある家族――旦那様とマルス様、ルーク様を見かけられると「何処に行くの?」「戦争しに行かないで!」と、泣いて縋って、その都度宥める日が続いた。
そんなリア様が落ち着かれたのは、とある事が切っ掛けだった。
不安定なリア様が、それでも毎朝日課の七の花のお世話を一生懸命されていた時の事。
リア様唯一の側近に私がなってから、それ以前より一緒にいることが少なくなったばぁば様がいらっしゃった。
「坊ちゃま、リック。七の花のお世話、今日も頑張って偉いですね」
「ばぁば!」
リア様が生まれた時から側で世話をしていたばぁば様。
リア様は、いつもばぁば様を見つけられると、飛びついて甘えられる。
「まぁまぁ、お元気が宜しいですねぇ」
「えへへ。ばぁばも元気?」
「ええ、元気ですよ」
それからしばらく七の花の世話をしながらばぁば様と楽しく過ごしたリア様。
一段落して、七の花畑の側に設置している木の長椅子にお二人で腰掛けた。私は、側に控える。
「坊ちゃま、旦那様や次代様達が何故お戦いになるかわかりますか?」
「んー……。勝つ為?」
「いいえ。リア様や我が国の民、そして南部の者達を護る為です」
「まもる……」
「坊ちゃま、何故戦争が嫌なのかばぁばに教えて下さい」
「父上も兄さん達も……みんなが死んだり傷付くのが……嫌なの」
「ばぁばも皆様が傷付くのは嫌です。では、皆様が傷付かない為にどうしたら良いと思われますか?」
「え……」
そこからしばらくリア様は、黙り込んでしまわれた。
そして「わかんない……」と、悲しそうにお答えになる。
「では、これから探しましょう! 坊ちゃま」
「……探す?」
「ええ、そうです。探すのです。次代様が言うには、坊ちゃまの魔力量は、若様よりも多いかも知れないとの事。つまり、とても素晴らしい可能性を秘められているのです」
「!!」
リア様の目に久しぶりにキラキラとした満点の星のような光が灯った。
その光景を見て、私は心が熱くなる。
それと同時に、自分では引き出せなかった事に悔しさが募る。
「うん! ばぁば! 僕ね、誰も痛くしなくて、死んだりしなくて……皆んなを護る方法探すよ! でね、でね……戦争を終わりにするのっ!!」
ばぁばが「その意気です! 坊ちゃま!」と優しい笑顔を向ける。
でも、やはりまだ自信のないリア様。
「でも、魔法僕全然駄目だし……」
「何をおっしゃいますか! 坊ちゃまは、魔法を必ず使えるようになります。このばぁばが嘘を言ったことがありますか?」
「ない」
「では、ばぁばが言ったのです。坊ちゃまは魔法を使えるようになられます」
「うん!」
ばぁば様とのほんのひと時の会話で、見事にリア様の憂いが晴れた。
一層強くなるばぁば様への尊敬と共に、少し……いや、そこそこ大きな嫉妬を抱く自分にまだまだなぁと思う。
でも、リア様に笑顔が戻った。
それだけで、満たされる幸福にしばらく浸った。
数日後、ばぁばに僕は魔法を使えるようになると言われて、ずっと考えていたら、ハッとした。
「ねぇ、リック!」
「はい、何でしょう? リア様」
「あのね、兄さんも兄ちゃんもチートでしょ? でね、僕ってモブだと思うの。だからね、まだ五歳だし、魔法使えなくて当たり前なんだと思うの」
リックが、面食らった顔をして「もぶ……?」と言う。
あれ? モブって言葉は何でも知ってるリックも知らない言葉なのかな? と何だか不思議に感じた。
「ふつーって事! 僕って普通の五歳でしょ。チートじゃないの」
マルス兄さんもルーク兄ちゃんも、どっちも凄い格好良くて何でも出来る。
それって、二人がチートだからなのだろう。
物語ならどっちも主人公だ。
僕は、主人公達の普通の弟。つまり、モブだ。
「だからね、まだ五歳だもん。魔法使えなくて当たり前なんだよ! もう、気付くの遅いよね、僕ってば。だからね、ばぁばも言ってたけど、僕はもうちょっと大っきくなったら魔法使えるようになると思うの。やっぱ、ばぁばは凄いや! ね、リック」
うんうん。ばぁばは凄いや。
僕はモブなんだから焦らなくていいよって気付かせてくれたんだもの。
それに、主人公達の普通の弟特典で、ちょっと魔力量が多いおまけを女神様がくれたんだと思う。
主人公達の普通の弟なんて、モブの中でも最上位。
そうだ! きっと、主人公のマルス兄さんとルーク兄ちゃんが、僕の願いを叶えてくれるはず。
だから、誰も傷つかない方法がないか兄さん達に聞いてみよう。
きっと答えを見つけてくれるもの。
だって二人は主人公でチート持ちなのだから。
「リック! 兄さん達はどこ? お願いしに行かなくちゃ!」
僕は、リックが驚いたり少し困惑しているのも気付かずに走り出す。
このお願いが回り回って、将来自分の首を絞めるとは露知らずに……。




