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戦線貴族家三男は最弱最強の兵器 ー 兄二人が可怪しいです!助けて! ー  作者: たきわ優


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第37話 恐怖

登場人物のおさらい


リア・マギュロ

主人公。エドゥ王国 マギュロ家の三男。五歳。転生者。


リック

リアの初めての側近。十二歳。マギュロ家使用人八門、八門の出。


マルス・マギュロ

エドゥ王国 マギュロ家の長男。十七歳。軍の司令官。婚約者のマリア命の狂人。


ルーク・マギュロ

エドゥ王国 マギュロ家の次男。十二歳。人より神に近い超人。


ジョージ・マギュロ

エドゥ王国 マギュロ家当主。リアの父。長男と次男のやらかしに悩んでいる。


ジゼル・マギュロ

エドゥ王国 マギュロ家当主夫人。リアの母。長男次男が普通ではなかったので普通の子供のリアの子育てに幸せを感じている。

「本日は大陸の歴史について学びましょう」

「はい! 先生!」


 今朝、朝食の席で、父上と母上、それにマスス兄さんが“留学生”の話をしていた。

 ちなみに、ルーク兄ちゃんは、用事があるらしく昨日からいない。寂しい……。最近は、たまにルーク兄ちゃんが用事で居ない事が増えてきている。理由は知らない。

 父上達の話を聞いていると、頻繁に「北の」「北部の」と言う言葉が出てきた。


『北って? 留学生?』

『ああ、北部から留学生が来ていてね。ちょっとリアには難しい話か』


 そうマスス兄さんが言うと、リックが言った。


マルス様(次代様)、失礼します。リア様は、まだマギュロ王国の歴史を学びだした所でして、大陸の歴史はまだ学ばれていないのです』

『ああ、そうなのか。うーん、そうだな。南北の大まかな歴史は知っておいた方が良いだろう。これから“留学生”と言う言葉をどこかしらで聞くことも増えるだろうし』

『畏まりました』


 そんな訳で、今日は大陸の歴史を勉強するのだ。


「フジー大山脈。リア様もご存知ですね」

「うん! 大っきい山だよね! お城からも見えるから知ってるよ」

「はい、そのフジー大山脈ですが、大昔は山自体がなかったのです」

「え?! あんなに大きな山が?!」

「はい。リア様の住まうこの地は、大陸の南……南部と呼ばれています。そして、フジー大山脈を挟んで北側が北部。北部の人々は、我々南部とは姿が異なります。彼等は、金の髪色で、碧い瞳を持ち、肌はとても白いのです」

「へぇ~。北欧とかの白人みたいな感じかなぁ」

「北欧? 白人……ですか?」

「うん。ヨーロッパとかだよ」

「……それは、前世の世界のお話ですか?」

「そう! で、北部の人が留学生で来てるの?」

「え……ええ。そう……ですが……。順を追って説明しましょう」


 そうして、大まかなこの大陸の歴史を教えてもらった。


 大昔、フジー大山脈はなく、南北隔てるものがない陸地に人々は住んでいたが、見た目の違いからお互いを嫌って生きてきた。

 争いが絶えない事に心を痛めた女神様が、一夜の内に、フジー大山脈を築き上げ、南北を分断してしまったそうだ。

 だけれども、フジー大街道と言う、大山脈を通る道を女神様は残して下さった。

 南北の人々は、出来るだけ争わず細々と交流を続けていたが、ある時から南の人が行方不明になる事件が相次ぎ、北の人によって誘拐され、奴隷にされていたことが判明したと言う。

 そして、それから三百年、ずっと南北はフジー大街道で戦争をしているのだとか……。


 幼い時から、父上や兄さんが出かける時に、僕に良く言う言葉があった。

 それは、幼い僕に言う軽い言葉で、「悪い奴をやっつけて来る」というもの……。

 それってつまり……。


「もしかして……父上や兄さん達も、その戦争に行ってるの?」


 話を一通り聞いて、この可能性に至った僕は、恐る恐るリックに確認する。


「ええ」


 リックにそう言われ、僕はあまりの事に、一気に体が震え上がった。

 自分でも止められない程、ガクガクと震えが体を襲う。


 僕にある薄っすらとした前世の常識は、戦争とはテレビのニュースの中のもの。身近には……僕の居た国では数十年前の出来事なはず……。

 こんなに衝撃を受けても、漠然とした前世の常識は、ハッキリとはしないが、確かに僕の根本に備わっているようで、とにかく恐ろしくて恐ろしくて仕方なかった。


「リア様っ!! 大丈夫ですか? 安心なさって下さい。戦争をしてはいますが、旦那様もお兄様方もお強いですし、ここまで戦火が……リア様が争いに巻き込まれる事などありませんから!」


 リックの「強いから大丈夫」「巻き込まれることはない」と言う言葉に、前世の僕の記憶と常識が、ここは異世界なのだと訴える。


 ――強いから何なの??

 ――それでも、父上や兄さん達が、戦地に赴く事実が変わるわけじゃないのにっ!!!


 漠然とした前世の常識。

 思い出そうとしてもハッキリしない記憶。


 理由のわからない記憶の混乱と、とにかく「戦争は嫌だ」「戦争は怖い」と言う恐怖だけが漠然と僕を支配する。

 その恐怖は……渦中にいるのは、父上や兄さん達。

 その事実が、余計に僕を大きな恐怖へと呑み込み、僕の歯は、ガタガタと音を鳴らす。

 視線がブレる。

 下の前歯が、大人の歯に生え変わろうとしてグラついている時だからか、震えからの衝撃で圧を掛けたのだろう。口の中に、薄っすら血の味が広がった。


「リア様っ?! 血がっ……!?」


 僕は、戦争が怖いのだろうか? 違う。争いが怖い。

 敵意や悪意が……怖い。

 傷を負う事が怖い。

 痛いのは嫌だ。

 僕が痛いのも……誰かが痛いのも……。


「ひっく……せん…そうに、行っちゃやだぁぁぁぁぁ」










 リア様が、これ程までに大泣きしたのは久しぶりだった。

 すぐに、奥様を呼んで貰い、一緒に慰めて頂いたが、一向に涙は止まることはなく、二時間以上も泣き続けたリア様は、今は泣き疲れて寝台で眠っていらっしゃる。


 この世界では、小さな男の子は、親兄弟が戦地におり、従軍していると知ると、「凄い!」「格好良い!」とはしゃぐものだ。


 リア様の世界では違うのだろうか?


 だから、突然震えだしたリア様に驚いた。

 旦那様や次代様達を心配しだした事に「お強いから大丈夫です」と、慰めようと言葉を掛けたが、逆に益々震えられ、どう声を掛ければ良いのかわからなくなった。


 リア様の魔法の感覚共有の練習で、マルス様(次代様)ルーク様(若様)のお強さは、実際にリア様は目にされている。

 その都度、リア様は「凄い!」と、瞳をキラキラとさせて、御二方に憧れや尊敬の眼差しを向けられていた。

 周囲からも聞いてきたはずだ。

 次代様も若様もお強く、凄い方なのだと。


 強いと言う事は、素晴らしい事だ。

 男の子なら憧れるものだ。

 昔の騎士の物語や、軍人の出てくる英雄譚。

 寝物語でお話した時は、なかなか興奮されて寝て下さらなかった事も多い。

 戦いとは、男の子の憧れの……。


 だが、リア様は泣きながら仰った。


 ――戦争に行って欲しくない。


 旦那様や次代様達が弱いと思っていらっしゃる訳ではないのだろう。

 ただ、心配されているのだとは思う。

 だけれども、これ程までに五歳の男の子が泣き叫んでそう訴えるのは、リア様の前世が関係している……?


 強いから大丈夫だと言う言葉の意味の無さ……。

 リックは、今まで感じたことのない自分の無力さに情けなさを感じる。


 自分が一番リア様を理解っていると思っていたのに……。


 南北との国境線を護るマギュロ家。

 何れは、リア様も従軍なさる……。


 寝台に横たわる小さな体。

 私の主。


 自分は、リア様の恐怖を取り除けるのだろうか……?

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