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銀河戦國史 (漂泊の星団と創国の覇者)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第19話 ソフラナの魅力

 銀河連邦と隔離されてしまったことによって「モルタルダス」星団では、百にも及ぶ大小の航宙民族が侵入し域内を暴れ回ったわけだが、特に苛烈を極めたのが「北ホッサム」族の侵略だった。

 彼らの集団規模が大きかったことだけが原因ではなく、長期間にわたって星団内にとどまり、住民たちを骨の髄までしゃぶりつくすかのような、徹底した略奪を繰り広げたからだ。彼らが去った後には、深刻な荒廃と貧困が星団の住民を苦しめることになった。

 だがこの苦しい経験は、「モスタルダス」星団の住民をして団結と自衛の意識を高める効果も有していた。そして、団結の中心となり、防衛の先頭に立ったのが「ザキ」族だった。

 それまでも長きにわたって銀河連邦と同盟関係を結んで、星団防衛に尽力してきた「ザキ」族だったから、連邦が遠ざかってしまったこの時期に、彼らに期待と信頼が集まったのは当然だった。

 やや防衛力を取り戻した「モスタルダス」星団に、更に強力な援軍がもたらされる。銀河連邦の役人であるエドレッド・ヴェルビルスが、困難な旅を経てこの星団に、連邦軍を率いて派遣されて来たのだ。離れてしまった距離と、その間を埋める航宙民族どもをかき分けての派遣は、正真正銘命がけの遠征となったのだが、使命感に燃えるエドレッドは見事にその大任を果たしたのだ。

 それまでも星団の中枢を担ってきた「セロラルゴ」管区に拠点を構えたエドレッドは、「ザキ」族とも密接に連携した上で、航宙民族どもを片端から征伐して行った。懐柔し、文明化を支援し、優良な星団住民へと転化することができた航宙民族も何十部族、何万人という規模に及ぶ。

 最大の恐怖を住民の記憶に刻み、最大の脅威ともなっていた「北ホッサム」族も、エドレッド率いる「セロラルゴ」管区自衛軍と「ザキ」族軍の連携の前には、なす術も無く敗退をくり返した。

 銀河連邦と緊密であった時期ほどではないとしても、「モスタルダス」星団はかなりのレベルで、平穏と繁栄を取り戻すことができるに至っていた。

 防衛だけでなく、民政的な分野でもエドレッドは非凡な手腕を発揮したから、「セロラルゴ」管区を中心に据えた彼の星団統治は、住民から絶大な信頼を勝ち取っていた。ジャジリのような百戦錬磨の宇宙商人が、何一つ疑うことなく手放しに信用してしまうのも、無理からぬものだったのだ。

 エドレッドが死去し、息子のエドリーが後を継いだ時には、誰もが少しは危惧を抱いた。世襲で地位を相続した新任統括官が、前任の英雄的統括官と同等の統治をおこなうなど、期待できるものではないのは、誰にでも予想できることだった。

 だがエドリーの悪辣ぶりは、全ての住民の想像をはるかに凌駕するものだった。栄光と信頼に満ちた自衛軍を盗賊まがいの所業に利用するなど、誰にも考えが及ぶものではなかった。彼を諫めたり彼に反発したりした将兵は、左遷したり退役させたりして、イエスマンだけで周囲を固め、エドリーは暴虐の限りを尽くしだのだ。

 そのエドリーが処刑され、喫緊の危機は去った。だが、長らく「モスタルダス」星団の平穏と繁栄を支えてきた「セロラルゴ」管区も、自衛軍が散り散りに逃げ去ったことで事実上の機能停止に陥ってしまった。星団の将来に、誰もが悲観的にならざるを得ない事態だ。

 防衛も、「ザキ」族がある程度は担うはずだが、これまで通りとはいかないだろう。民政面では、「ザキ」族には何の実績もノウハウも無い。「北ホッサム」族も健在で脅威であり続けている現状で、「セロラルゴ」管区が機能停止してしまったのでは、星団の生命線は断たれたも同然だった。

 戸惑い、不安に苛まれ、身の振り方に右往左往する人々の姿が、ゴドバンが「セロラルゴ」管区を去る時に、最後に見た風景だった。読書を通じての星団の抱える事情に関する理解は、目にした人々の苦悩をより深く、ゴドバンに認識させたのだった。

(自衛軍壊滅による悪影響からは、俺たちの「トラウィ」王国も逃れられないだろう。航宙民族からの防衛に関しては、これまで以上に困難な状況になる。それを考えると俺も、「トラウィ」族に守られているだけの立場でいては、いけないような気がするな。やはり、兵士として志願するとかして、何とか今の「モスタルダス」星団の危難に貢献できる活動を、自分なりにやって行かないと。)

 と言っても、こんな大問題に対して今すぐには、ゴドバンにできることなどあるわけもない。とにかく早く故郷に帰り、自分の無事を伝えて、そこの人々を安心させることが先決だ。そして、これまでの日常を取り戻し、まずは故郷での暮らしを安定させなくてはならない。

 考えを巡らせた末に、ゴドバンはそう結論付けた。もちろん妻を娶るなどは、考えも及ぶはずのないことだった。

(ましてや、ソフラナ王女を、だなんて、あり得るわけがない。)

 ゴドバンの思考はここで、卑近な問題へとおかしな飛躍を生じる。

 王女と話をしたい気持ちが、無いわけではなかった。いや、ものすごく強いことを、彼は自覚していた。結婚があり得ないと言っても、話しかけるのを否定する根拠にはならない。他の者も気軽に声をかけているし、王女も誰にでも気さくに応じているのだから。

 だが、王女を始めてみた瞬間のことを思い出すだけで、ゴドバンの頬は緩み、口角が上がってくる。それを自覚せずにはいられない。その自覚は、王女と話をしている者共の、デレデレやニタニタのみっともない表情を思い起こさせる。自分も、間違いなくああなってしまうのだと思い知らされる。

 あんな風になるのが嫌で、恥ずかしくて、情けなくて、ゴドバンはソフラナを避け続け、逃げ続け、長い旅路に一度たりとも、言葉を交わす機会を持たずにいたのだった。

(兵士に志願すれば、また王女に近づく機会が、できるかもしれない。ニタニタやデレデレになどならないで済む環境で、王女と接する可能性も・・・。)

 危難に陥る星団に貢献したい気持ちと、王女と触れ合う機会を求める気持ちが、妙な形でリンクした。兵士になれば、両方が成就するかもしれない。

(でも第3分王国は、一般王国民からは兵を募集していないんだよな。かといって、第1分王国に移住すれば兵にはなれるけど、第3分王国の王女とは繋がりが断たれて・・・って、俺はいったい、何を考えてるんだ?目的が、いつの間にかすり替わっちまってるじゃないか!兵になりたいのは、王女に近づきたいからじゃないだろ!「トラウィ」族に守られてるだけの状況から、脱するためのはずだぞっ!)

 長く退屈な旅は、ゴドバンの思考を、いたずらに攪乱するばかりだった。



 王国の領内に入ると、ゴドバンはこれまでの宇宙船を降りることになった。王都に向かうそれとは別れて、彼は別の宇宙船で、「ヨウング」領域にある「ピニェラ」星系を目指すことになる。

 王女はもちろん、ベンバレクたち「トラウィ」兵とも、ここでお別れだった。

「ありがとう、ベンバレク、ヤヒア、アブトレイカ。大変なことがあった旅だったけど、3人のおかげで、無事に故郷に戻ることができるんだ。ほんとに感謝しているし、3人と一緒に旅ができて、良い経験になったと思ってるよ。」

 別れのあいさつの時に至ると、筋骨隆々の「トラウィ」兵たちが、でかい体を丸めるようにして、涙ぐんだ目でゴドバンに相対していた。

「そういってくれて、ありがたいぜ、坊ちゃん。ジャジリも、ジャジリの宇宙商船も、ちゃんと全部守り抜いて、みんなそろって帰って来たかったんだが、そうするのが俺たちの使命だったはずだったんだが、坊ちゃんの身一つを連れて帰ってくることしかできなかった。唯一守り抜けた命なのだから、末永く、達者で過ごしてくれよな。」

 無理に取り繕った痛々しい笑顔で、兵士たちも別れを告げた。面長なベンバレクが、丸顔のヤヒアが、その中間のアブトレイカが、それぞれに寂しさで表情を歪ませている。

「今回のことに懲りずに、また国外に旅立つことがあったら、そしてもし、また俺たちに坊ちゃんの護衛の任が回ってきたら、今度こそ、完璧に任務をこなして見せる。そんな機会があることを、心から願っているぜ。」

「そうだな。護衛の任に就くとかでもなけりゃ、なかなか坊ちゃんと会う機会はねえだろうから、是非そんな機会があることを願っているぜ。こんな俺たちの護衛を、坊ちゃんが受け入れてくれればの話だが。」

「当り前さ、ベンバレク、ヤヒア、アブトレイカ!受け入れるに決まってるだろ。またもし国の外に出ることがあるなら、こっちから指名するよ。俺の護衛は、ベンバレクとヤヒアとアブトレイカにしてくれって。不幸な結果は、運が悪かったせいだけだ。あんたたちは、本当にしっかり護衛してくれたと思うよ。最高の旅の伴でもあった。冗談抜きだぜ。」

 そんなやり取りを経て、ゴドバンは送り出された。乗り換え用のシャトルが、彼の搭乗を待ちわびている。

 最後の瞬間には、

「おれ、やっぱり、兵士を目指すかもしれない。」

という言葉が、のどの奥から駆けあがって来た。

 脈絡もなく唐突に沸き上がった思いを、理由も分からないが、急に、どうしても言葉にしておかなくては、と思ってしまったのだ。

 彼らには、大切に思う彼らなのだから、伝えておかなくては。兵士になりたい気持ちの意外な強さに、この瞬間に突如気付き、伝えずに済ませてはいけないものだと瞬時に認識したことで、巻き起こった衝動だった。

 だが、何も言わなかった。言えなかった。最後のひと時に、心配をかけるような言葉を残すなんて、残酷に思えたから。沢山の後悔や、歯がゆさや、別れの寂しさなどを抱えている彼らに、これ以上の心労など与えてどうするのだ。思いを言葉にしようとした刹那に、そんな考えに至ったゴドバンだった。

 宇宙船のドッキングベイを滑り出ていくシャトルから、船に残った3人をできるだけ長く目にとどめようと努めたが、イオンスラスターの力強い加速にそれは断ち切られた。金属だらけの殺風景なドッキングベイに、ムキムキの体と半泣きの顔を並べる3人の大男の姿が、彼には一生忘れられない記憶となったのだった。

 シャトルは、すぐにも次の宇宙船に収容される。タキオントンネル航法に特化されたもので、乗り合いタイプの宇宙船だ。あちこちから乗り付けたシャトルを積み込み、定期的な就航をくり返している。「トラウィ」王国の庶民たちに広く利用されている、公共交通機構だった。

 第1から第3のどの分王国にも、遮られることなくタキオントンネルの交通網は通じている。3つの分王国が、それの整備に関しては分担を明確にして、責任をもって維持管理をしているし、それの安全を脅かす行動は絶対にしないことを徹底してるから。

 ソフラナ王女が乗って来た宇宙船の乗客にも、第1から第3分王国の全ての住民が含まれており、順次自分の故郷を目指す予定だった。3つの分王国は、協力すべきところではそれを惜しまない。交通インフラの整備を始めとして、住民に不便をかけないように努めているのだった。

 こういったタキオントンネルによる交通網のような、超光速の移動手段が広く張り巡らされていなければ、国家というまとまりをもった統一体を宇宙に創り上げることはできない。これらのインフラを外敵から守り抜いてくれる誰かが、国家の維持には絶対に必要だ。「アルティガス」区域に住む者たちが「トラウィ」族に統治を委託し、その一族の長を王として擁立しているのも、それを期待してのことだ。

 王とは、支配するものが力で奪うことで、その座に就くものだとは限らない。支配される側によって祭り上げられる形で、その座に就く場合もあるのだ。

 ゴドバンは、「トラウィ」族による統治で維持されているタキオントンネルを通って、無事に故郷までの旅を終えることができたのだった。さらに5日間をかけ、11個の星系を通り過ぎての移動だった。そのうち4個は有人星系であり、王国民のいずれかの名家が所領として保有している宙域を横切るわけだが、王国が領主に、領内のタキオントンネルの通過を了承してもらっているので、ゴドバンに不都合は生じなかった。



「ようし、ゴドバン、こっちの準備はできたぞ。人工ミルクの供給ラインを接続してくれ。」

「あいよ、プサイデオ。」

 無線から聞こえる上役の声に、ゴドバンはいつもながらの不愛想な返事で応じた。

 いつもながらといっても、「セロラルゴ」管区への旅から帰って初めての作業だから、かなり久しぶりのことでもある。だが、いざ作業が始まってしまえば、そんな感触はみじんもない。

 命がけの戦いも、様々な出会いと別れも、そして大好きだったジャジリの死も、何もなかったかのように日常の作業は淡々と進行する。

 星系3つを含んだムニ一族の所領のなかで、ゴドバンがこれまで携わってきた幅広い業務の一つだ。他にも、所領に属する「ピニェラ」星系内の、ほぼ全域を駆け巡って星系ガスから資源を採取している人工彗星に、宇宙艇で追いついてランデブーし、採取されている資源を抜き取るといった作業も彼の日常の一角を成している。

 採取され集められた資源を使って、ケミカルプロセスフードを合成する施設のメンテナンス作業なども、担ったことがある。何十系統もの製造ラインがあり、それぞれが何十種類ものケミカルプロセスフードを合成しているので、そのメンテナンスは決して楽でも簡単でもない。

 この日ゴドバンが実施する作業は、いくつかのケミカルプロセスフードを混ぜ合わせて作られた人工ミルクという材料を、バイオプロセスフードの合成ラインに供給するためのものだ。そこからは人工チーズや人工ヨーグルトなどが、製品として排出される。

 地球時代には、主に牛や羊などの動物が分泌物する液体を原料にしていたらしいが、それらはゴドバンには未知の食材だ。元になるものを知らないから、人工ミルクをそのまま飲んだとしても、違和感など彼には生じない。だが、本来のものを知る者がもし飲んだとしたら、激しい嗚咽とともに吐き出してしまうかもしれない。人工ミルクとは、そんな味や臭いの代物だ。

 ミルクからチーズやヨーグルトを製造するのも、地球時代には微生物の活動が必須だったらしいが、ゴドバンが人工ミルクを送り込んでいる設備には、微生物などは含まれていない。微生物の遺伝情報だけをムニ一族が電子データーとして保有しており、それをもとに人工的に合成したいくつかの酵素を使って、人工ミルクをチーズやヨーグルトに近似した物質に変化させている。

 ある時代の人からは、先進の技術と目されるかもしれない人工の発酵や熟成だが、彼の時代にはありふれたものであり、貧しさを象徴してもいる。

 出来上がった人工のチーズやヨーグルトも、地球時代の者が口にしたら苦悶の表情を浮かべるかもしれない。天然のそれらを知る者には、出来損ないとしか受け止められない可能性が高いのだ。

 この時代には、天然物のチーズやヨーグルトは庶民には一生手の届かない贅沢品であり、かつて存在しなかった新来技術の結晶である人工のそれらを、貧しい庶民たちが代用として口にしている。そんな時代なのだった。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2021/2/6 です。

 ベンバレクたちと別れてからの旅路を「5日間をかけ、11個の星系を通り過ぎて」と、さらりと表現しましたが、そのスケール感をリアルに想像して頂けましたでしょうか?さらりと読み飛ばされていそうに思えるし、それは読者様の自由ですので、文句ひとつ言える義理は作者には有りません。

 星系1つの大きさというのも、どこまでを星系として考えるかがはっきりしませんし、星系のサイズもまちまちですから、スケールといっても曖昧なものです。ですが、ボイジャー1号がヘリオシースという太陽風と星系外からの物質がぶつかり合う境界面に到達するのに、1977年の打ち上げから2012年までの35年という期間を要しているのです。我々の太陽系は遊離星系で近くに他の星系はなく、ゴドバンが旅をしているのは星団内で、隣の星系が近いという差があり、ボイジャーもゴドバンと同じ環境なら隣の星系に到着しているのかもしれません。こんなのもスケール感を曖昧にする要因でしょう。

 が、だとしても、星系1つの大きさというのは人間の感覚からいうと、無限と言えるほど途方もないものであることは確かです。そんな星系を11個も、たった5日間で通り過ぎたゴドバンの旅のスケール感を、できることならリアルにイメージしてほしいのです。

 宇宙のスケール感、天体と天体の距離感というのを、実感の沸き上がる形で表現しているSF作品というものを見た覚えがなく、ならば自分が書いてみようと思ったことで、勇みあがって書き始めたのが「銀河戦國史」シリーズなのですが、今になってその難しさに頭を抱えています。

 こんなスケール感を前提にして、最後の方のゴドバンの労働風景も読んで欲しいのです。こんな広い宇宙のどこかで、こんなにも未来的な未知の技術で、昔の人みたいに貧しく難儀な暮らしを送っているゴドバンというのを、描いているつもりなわけです。

 少しでもスケール感を表現できているのかいないのか、そもそもスケール感なんぞに興味のある読者様がおられるのか、おられないのか、投稿してしまった今となっては、まな板の上の鯉となって成り行きを見守るしかありません。

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