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めぐる光のあしあと ・・愛犬の仕草、祖父の口笛、逝った子の手のひら。大切なあの人は、もうそこにいる  作者: かーすけ


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20/21

第20話 小さな手のひらの約束

 命が来る前に、夢を見た。

 大輔はそう思っている。

 思っている、というより、そう感じている。

 感じているだけで、証明はできない。

 でも娘が生まれた夜から、大輔はずっとそう感じている。

 命が来る少し前に、自分はどこかで夢を見ていた、と。

 夢の内容は、はっきりしない。

 覚えているのは、光だった。

 そして、誰かの手だった。


 中村大輔、三十四歳。

 都内のシステム会社でエンジニアをしている。

 穏やかな性格で、声を荒げることが少なく、何事も慌てないタイプだった。

 職場では「大輔さんがいると落ち着く」と言われることがあった。

 本人は実感がなかったが、そう言われることは嫌いではなかった。


 妻の由希は三十二歳だった。

 結婚して三年が経った。

 二人とも子どもが好きだったが、なかなか授からなかった。

 検査もした。

 治療もした。

 うまくいかない時期が続いた。

 続きながら、二人でいた。

 二人でいることは、好きだった。

 子どもが来なくても、二人でいることは充分だった。

 でも来てほしかった。

 どこかから、来てほしかった。

 来てくれた。


 由希の妊娠がわかったのは、去年の秋だった。

 検査薬を見て、由希が「大輔、来てくれたよ」と言った。

 その言葉が、大輔には正確だと思えた。

 授かった、ではなく、来てくれた。

 どこかから、来てくれた。


 妊娠中の九ヶ月間、大輔はよく夢を見た。

 内容は様々だった。

 仕事の夢、学生の頃の夢、知らない場所を歩く夢。

 でも時々、他の夢とは質の違う夢を見た。

 光の中にいる夢だった。


 光、というのが一番近い言葉だったが、正確ではなかった。

 明るい、ということではなく、全体が光でできている場所、とでも言うのか。

 空間に輪郭がなくて、上も下もなくて、ただ白くて、温かい場所だった。

 その場所に、大輔はいた。

 誰かもいた。

 誰なのか、顔は見えなかった。

 でも確かに、誰かがいた。


 大輔は何度かその夢を見た。

 毎回、場所は同じだった。

 光の中で、誰かがいた。

 でも毎回、目が覚めると、夢の細部が消えていった。

 光があったこと、誰かがいたことだけが、残った。


 出産予定日の三日前の夜、大輔はまたその夢を見た。

 いつもの夢と、少し違った。

 今回は、誰かの輪郭が、少しだけ見えた。

 輪郭だけで、顔は見えなかった。

 でも小さかった。

 子どもの大きさだった。

 大輔は夢の中で、その小さな誰かに近づいた。

 近づくと、手が伸びてきた。

 小さな手だった。

 指が細くて、小さな爪がついていた。

 その手が、大輔の小指に触れた。

 触れて、絡んだ。

 指切りをするように、小指と小指が絡んだ。


 大輔は夢の中で、その感触を感じた。

 温かかった。

 小さくて、温かかった。

 それから、声がした。

 声というより、言葉だった。

 言葉というより、意味だった。

 音になっていない言葉が、大輔の中に入ってきた。

「また会おう」

 という意味が、大輔の中に来た。

 大輔は答えようとした。

 答える前に、目が覚めた。

 夜の四時だった。

 由希が隣で眠っていた。

 大きくなったお腹が、毛布の上に見えた。


 大輔は起き上がった。

 夢を、頭の中で確かめようとした。

 光の中。

 小さな誰か。

 指切り。

「また会おう」という意味。

 夢だった。

 夢だと、わかっていた。

 でも指切りの感触が、小指に残っていた気がした。

 気がするだけだ、と思った。

 でも残っていた。


 大輔はしばらく、小指を見た。

 暗い部屋の中で、自分の小指を見た。

 何もなかった。

 普通の小指だった。

 でも、温かかった感触が、残っていた。


 出産は、予定日より一日早かった。

 夜中の二時に陣痛が始まって、由希が「大輔、行こう」と言った。

 大輔は準備していた荷物を持って、タクシーを呼んだ。

 病院に着いて、そこからは長かった。

 大輔は分娩室の外で待った。

 待ちながら、三日前の夢のことを思った。

 光の中。

 小さな誰か。

「また会おう」


 あれは、この子だったのかもしれない、と大輔は思った。

 来る前に、約束を交わしていたのかもしれない。

 でたらめかもしれなかった。

 夢の話だから、でたらめかもしれなかった。

 でも大輔には、そう思えてならなかった。


 分娩室から、声がした。

 小さな、初めての声だった。

 産声だった。

 大輔は廊下で立ち上がった。

 立ち上がって、ドアの方を向いた。

 ドアは閉まっていた。

 でもその向こうから、声がしていた。


 小さな声が、続いていた。

 大輔の目が、熱くなった。

 まだ顔も見ていないのに、もう、熱かった。

 しばらくして、助産師が出てきた。

「お父さん、入れますよ」と言った。

 大輔は頷いて、分娩室に入った。

 由希が、ベッドにいた。


 疲れ果てた顔をしていたが、笑っていた。

「来てくれたよ」と由希は言った。

 また、来てくれた、という言葉を使った。

 大輔は由希の顔を見て、それからその腕の中を見た。

 小さな赤ちゃんがいた。

 白いタオルに包まれて、由希の腕の中にいた。

 目を閉じていた。

 口が、少し開いていた。

 鼻が、小さかった。

 頬が、赤かった。

「抱いてみますか」と助産師が言った。

 大輔は頷いた。


 手を差し出した。

 助産師が、赤ちゃんを大輔の腕に移した。

 重さがかかった。

 小さかった。

 こんなに小さいのか、と思った。

 でも、重さがあった。

 確かな重さが、大輔の腕にあった。


 大輔は赤ちゃんを見た。

 目を閉じたまま、口を少し開けていた。

 それから、赤ちゃんの手が動いた。

 タオルの中から、小さな手が出てきた。

 指が細くて、小さな爪がついていた。

 大輔の手に、触れた。

 大輔の小指に、触れた。

 触れて、絡んだ。

 大輔の体が、固まった。

 時間が、止まった気がした。


 小指と小指が絡んでいた。

 大輔の小指に、赤ちゃんの小さな小指が、ぎゅっと絡んでいた。

 感触が来た。

 温かかった。

 小さくて、温かかった。

 三日前の夢の感触と、同じだった。

 同じ、という言葉では足りなかった。

 同じというより、続いていた。

 三日前の夢の続きが、今、大輔の小指にあった。


 大輔の頭の中に、光が走った。

 一瞬だった。

 でも確かに来た。

 光の中の、あの場所が戻ってきた。


 白くて、温かくて、輪郭のない場所が。

 小さな誰かが、いた場所が。

「また会おう」という意味が来た場所が。

 一瞬だけ、戻ってきた。

 それから消えた。


 消えると、大輔の腕の中に赤ちゃんがいた。

 目を閉じたまま、小指を絡めたまま、大輔の腕の中にいた。

 大輔の目から、涙が落ちた。

 赤ちゃんの額に、落ちた。

「あ」と大輔は言った。

 涙が赤ちゃんに落ちてしまった。

 でも赤ちゃんは動じなかった。

 小指を、離さなかった。


「大輔、どうしたの」と由希が言った。

 大輔は答えられなかった。

 答えを探したが、見つからなかった。

「また会えたな」と、大輔は赤ちゃんに向かって言った。

 由希が「え?」と言った。

「いや」と大輔は言った。

「なんでもない」

 でもなんでもなくはなかった。

 大輔には、確かにそう感じた。


 また会えた。

 どこかで会っていた。

 光の中で、指を絡めて、「また会おう」と言った。

 あの約束の続きが、今ここにある。

 証明はできない。

 夢の話だから、できない。

 でも大輔の小指は、今も絡まれていた。

 温かかった。

 あの夢の感触と、同じ温かさで。


 しばらくして、赤ちゃんが目を開けた。

 まだ焦点が合っていない目だった。

 生まれたばかりの目は、世界をまだ見ていなかった。

 でも大輔の方を向いていた。

 大輔の顔の方向を、向いていた。

 大輔はその目を見た。

 深くて、暗くて、何も写していない目だった。

 でも、確かに、こちらを向いていた。


「ひなだ」と大輔は言った。

 名前を、声に出して言った。

 由希と決めていた名前だった。

 陽菜、という字を書く。

 陽の光のように、と思って決めた名前だった。


「ひな」と呼ぶと、赤ちゃんが少し口を動かした。

「ひな、また会えたな」と大輔はもう一度言った。

 小さな口が、また動いた。

 答えたのかどうか、わからなかった。

 でも動いた。

 それだけで、大輔には充分だった。


 由希に赤ちゃんを返して、大輔は椅子に座った。

 疲れていた。

 立っていることが難しかった。

 立っていることが難しいほど、感情が来ていた。

 椅子に座って、手を見た。

 小指を見た。

 何もなかった。


 赤ちゃんはもう由希の腕の中にいた。

 でも小指の感触が、まだ残っていた気がした。

 絡まれた感触が。

 大輔は小指を、もう一方の手で、そっと包んだ。

 包みながら、目を閉じた。

 光の中の、あの場所が、また少しだけ見えた。

 白くて、温かくて、誰かがいた場所が。

「また会おう」と言った、誰かが。

 その誰かが、今、由希の腕の中にいた。

 陽菜という名前を持って、今日から、ここにいる。


 病院の廊下に出た。

 窓の外が明るくなっていた。

 朝が来ていた。

 大輔は廊下の窓から、空を見た。

 東の空が、橙色に染まっていた。

 朝陽が昇るところだった。

 光が来ていた。

 夢の中の光とは、違う光だった。

 でも光だった。


 大輔は窓ガラスに手をついて、空を見た。

 涙が、また出た。

 止めなかった。

 廊下に人はいなかった。

 一人で、泣いた。

 嬉しくて、泣いた。

 怖くて、泣いた。

 何かが始まったことが、わかって、泣いた。

 約束の続きが始まったことが、わかって、泣いた。


 自動販売機で、温かい飲み物を買った。

 ミルクティーだった。

 廊下のソファに座って、飲んだ。

 温かかった。

 由希も頑張った、と思った。

 陽菜も頑張った、と思った。

 大輔は何もしていない。

 ただ待っていただけだった。

 でも二人が頑張っている間、大輔は小指を覚えていた。

 三日前の夢を、覚えていた。

「また会おう」という約束を、覚えていた。

 だから今、怖くなかった。

 怖くないわけではなかった。

 父親になることは、怖かった。

 でも今日の怖さは、知らない怖さではなかった。

 知っている怖さだった。

 どこかで、一度経験したことがある怖さだった。

 うまく言えないが、そう感じた。


 分娩室に戻った。

 由希が、陽菜を抱いていた。

 二人でいた。

 大輔は部屋に入って、二人の横に椅子を引いた。

「顔、見た?」と由希は言った。

「見た」と大輔は言った。

「かわいいでしょ」

「かわいい」と大輔は言った。

「でも、なんか」

「なんか?」と由希は言った。

「ずっと前から知ってる気がした」と大輔は言った。


 由希はしばらく陽菜を見ていた。

「わかる」と言った。

 大輔は由希を見た。

「私も」と由希は言った。

「抱いた瞬間、どこかで会ったことある気がした」

 大輔は何も言わなかった。

 由希の言葉を、胸の中に置いた。

 私も。

 由希も感じていた。

 大輔だけではなかった。

 二人とも感じていた。

「そうだな」と大輔は言った。

 それだけ言った。

 それだけで、充分だった。


 陽菜が眠った。

 由希も、少しうとうとし始めた。

 大輔は二人を見ていた。

 由希の腕の中で、陽菜が眠っていた。

 目を閉じて、小さな口を少し開けて、眠っていた。

 大輔はそっと、陽菜の手に触れた。

 タオルの外に出ていた、小さな手に。

 触れると、陽菜の指が動いた。

 大輔の小指を、また探した。

 探して、絡んだ。

 眠りながら、絡んだ。

 大輔はその指を、引かなかった。

 そのまま、絡ませておいた。

 絡ませたまま、大輔も椅子に深く座った。


 朝の光が、窓から入ってきていた。

 病室に、静かな光が満ちていた。

 夢の中の光とは、違う。

 でも温かかった。

 似ていた。

 大輔は目を閉じた。

 眠くはなかった。

 でも目を閉じた。


 小指に、陽菜の指の感触があった。

 温かかった。

 光の中で感じた、あの感触と同じだった。

「また会おう」

 という約束が、今日果たされた。

 どちらが約束したのか、わからない。

 大輔が言ったのか、陽菜が言ったのか、わからない。

 光の中では、どちらが誰かも、わからなかった。

 でも約束は果たされた。

 それだけが、確かだった。


 しばらくして、大輔は目を開けた。

 陽菜の指が、まだ絡んでいた。

 由希が、うとうとしながら「大輔」と言った。

「何?」と大輔は言った。

「この子、どこから来たのかな」と由希は言った。

 眠りながら言っているような声だった。


 大輔は少し考えた。

「どこかから来た」と言った。

「遠いところから」

 由希は何も言わなかった。

 眠ったようだった。

 大輔は陽菜を見た。

 眠っている陽菜を見た。

 どこから来たのか。

 遠いところから来た。

 光の中から来た。

「また会おう」という約束を持って来た。

 それだけのことが、今日から始まる全部だった。


 病室の窓から、朝の街が見えた。

 人が動き始めていた。

 車が走っていた。

 世界が、今日も動いていた。

 陽菜が生まれた朝も、世界は同じように動いていた。

 でも大輔には、今日の世界が、昨日とは少し違って見えた。

 同じ世界に、一人増えた。

 どこかから来た命が、今日から、この世界にいる。


 大輔は小指を見た。

 陽菜の指が、絡んでいた。

 眠りながら、しっかりと絡んでいた。

 離さなかった。

 大輔も、離さなかった。


 その日の夕方、大輔は窓際に立った。

 陽菜は由希の腕の中にいた。

 外の空が、橙色に染まっていた。

 夕陽だった。

 朝も橙で、夕方も橙だった。

 陽菜が生まれた日は、ずっと光の中にいる日だった。

 大輔は空を見ながら、夢のことをまた思った。

 光の中の、あの場所を。


 あの場所が、本当にあったのかどうか、今でもわからない。

 夢だったかもしれない。

 ただの夢だったかもしれない。

 でも今日、陽菜の小指が絡んだ。

 あの夢の感触と、同じ温かさで。

 それだけが、大輔には証明だった。

 夢かどうかは関係なかった。

 感触が同じなら、それが証明だった。


「大輔」と由希が呼んだ。

 振り返ると、由希が陽菜を見ていた。

「目、開けてる」と由希は言った。

 大輔は近づいた。

 陽菜が目を開けていた。

 まだ焦点の合っていない目だった。

 でも確かに、開いていた。

 大輔は陽菜の顔の前に、顔を近づけた。

 陽菜が、大輔の顔の方を向いた。

 焦点は合っていない。

 でも向いた。

「ひな」と大輔は言った。

 陽菜の口が、少し動いた。


「また来てくれたんだな」と大輔は言った。

 声が、少し震えた。

 陽菜は口を動かした。

 答えているのか、ただ動かしているだけなのか、わからなかった。

 でも大輔には、答えている気がした。

 うん、という意味で、口が動いている気がした。


 夜になった。

 由希が眠った。

 陽菜も眠っていた。

 大輔は一人、椅子に座っていた。

 暗い病室に、二人の寝息があった。

 大輔はその音を聞いていた。

 二人の、小さな寝息を。


 由希の寝息と、陽菜の寝息が、少しずつずれたリズムで聞こえていた。

 大輔はその音を、ずっと聞いていた。

 飽きなかった。

 聞き続けられた。

 二人がここにいることが、ここで息をしていることが、当たり前のように感じられた。

 当たり前に感じられることが、当たり前ではなかった。


 今日まで、ここにいなかった。

 今日から、ここにいる。

 その変化が、静かで、でも確かで、大輔には大きかった。

 眠る前に、大輔は陽菜の手に触れた。

 小さな手が、タオルの外にあった。

 大輔は小指を差し出した。

 陽菜の手が、眠りながら動いた。

 指を探した。

 絡んだ。

 小さな小指が、大輔の小指に絡んだ。

 大輔は目を閉じた。

 光の中の、あの場所が、また少し見えた気がした。

 白くて、温かくて、誰かがいた場所が。


 でも今夜は、もう行かなくていい、と思った。

 もう会えたから。

 約束は、果たされたから。

 光の中にいなくても、今ここに、陽菜がいる。

 小指が絡んでいる。

 それだけで、もう充分だった。

 大輔は目を閉じたまま、眠りに落ちていった。


 小指に、温かさがあった。

 眠りながら、その温かさを感じていた。

 夢を見るかもしれなかった。

 またあの光の中へ行くかもしれなかった。

 でも今夜は、どこへも行かなくていい気がした。

 ここにいればいい。

 この病室に、この椅子に、この二人の寝息の中にいればいい。

 陽菜の小指が、絡んでいた。

 大輔の小指が、絡まれていた。

 その温かさの中で、大輔は眠った。


 翌朝、目が覚めた。

 窓から、朝の光が入っていた。

 陽菜が、由希の腕の中で目を開けていた。

 大輔が目を開けると、陽菜の目と、目が合った気がした。

 焦点は、まだ合っていない。

 でも目が合った気がした。

「おはよう、ひな」と大輔は言った。

 陽菜の口が、動いた。

 大輔は笑った。

 心の底から笑えた。

 父親になった最初の朝に、笑えた。

 怖かったが、笑えた。

 怖いのに笑えたのは、知っていたからだった。

 この感触を、知っていたからだった。

 小指の、温かさを。

「また会えたな」と大輔はもう一度言った。

 今度は声を出して言った。


 由希が目を開けて「また言ってる」と笑った。

「言いたくなる」と大輔は言った。

「なんで?」と由希は聞いた。

 大輔は少し考えた。

「前から知ってる気がするから」と言った。

「どこで?」と由希は聞いた。

「光の中で」と大輔は言った。

 由希はしばらく陽菜を見ていた。

「そっか」と言った。

「じゃあ、また来てくれたんだね」

「そう」と大輔は言った。

「また来てくれた」


 由希が陽菜を、少し高く持ち上げた。

 朝の光が、陽菜に当たった。

 光の中に、陽菜がいた。

 夢の中の光とは、違う光だった。

 でも温かかった。

 大輔はその光の中の陽菜を見た。

 小さな顔が、光の中にあった。

 目が、少し細くなっていた。

 光が眩しいのか、笑っているのか、わからなかった。

 でも大輔には、笑っている気がした。

 また会えたことを、笑っている気がした。


「ひな」と大輔は呼んだ。

 陽菜の口が、動いた。

 大輔はその口を見た。

 何かを言おうとしているのか、ただ動かしているだけなのか、わからなかった。

 でも大輔には、聞こえた気がした。

 また会えたね、という意味が。

 光の中で交わした約束の、答えが。

 今朝、ここに来た気がした。

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