7 朝のお散歩
カフェからの帰り道、なぜか団長は公園内の花壇のある広場の方へ向かった。こちらからでも帰れるけれど、少し遠回りになる。仕事中みたいだったし、見回りも兼ねているのかしら? 団長は私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくれた。
「シェリル嬢」
「はい、団長」
「ルークとはそんなに関わりがないと先日言ってた……よな?」
「ああ! そうでしたが、今日からお友達になりました」
「ハァ!?」
なにかまずかったかしら。一応上司と部下になるわけだし。ハッ、じゃあランチとかも駄目だった?
「あのぅ、なにかまずかったんでしょうか? 職務規定とかそのあたりで」
「いや、そういうわけでは……」
では、なんなのかしら……ハッ、もしかしてふたりは恋人同士で、私はお邪魔虫ってことでは――
「あいつとは付き合っていないからな!」
「何も言ってませんが」
「いや、君の顔に書いてあったから! 俺の恋愛対象は女性だ!」
「はあ、そうですか」
なんだ、ちょっとお似合いだなって思ったのに残念。強くて逞しく男らしい団長と、美しくしなやかで色っぽい隊長。うん、絵になるわ。
「本当にそんなんじゃないんだ! 誤解しないでくれ!」
団長から両肩をギュッと掴まれると、金色の瞳には私が映っていた。団長のお顔をマジマジと見たのは初めてかもしれない。厳しそうなイメージだったけれど、よく見ると整ったお顔をされているわ。
「シェリル嬢?」
「あ、えっと、ぼんやりして申し訳ありません。大丈夫です」
私達はまた歩き出した。花壇には季節の花々が彩り良く並んでいる。こんなにゆっくり花を眺めたのはいつぶりだろう。
「君は、花が好きなのか?」
「ええ、ここのお花はとてもきれいですね。王都に住んでいても、ゆっくり遊び来る機会があまりなかったものですから。こんなに素敵な場所だとは知りませんでした」
「その……デートなどで来なかったのか?」
「ふふっ、そのようなお相手はおりませんわ。学生時代も勉強とアルバイトで忙しかったですし、あまり遊びに出たことはありませんね」
「では今度俺と――」「今は仕事を覚えるのに、いっぱいいっぱいですし!」
「あっ、遮って申し訳ありません。なにか?」
「いや、なんでもない……」
団長は前と同じように、官舎の部屋の前まで送ってくれると『知らない人が来ても扉は開けてはいけない』と、子どもにするような注意をして帰っていかれた。
◇◇◇◇
「アレックス様、先日商会に注文していた品が届いております」
「やっとできたか! 見せてくれ」
「こちらでございます」
アレックスは家に帰って早々、家令から待ちかねた品物を受け取ると満足げに頷いた。
「彼女の瞳と同じアメジスト色の首輪とリード。うん、いいな」
「アレックス様、そこの刻印は『アレックス』ではなく『金』で本当によろしかったのですか?」
「ああ、問題ない。だって俺がこれを着けるときは『金ちゃん』だからな!」
「金ちゃん……」
「何か問題でもあるのか?」
「いえ、アレックス様がよろしいのなら私はかまいませんが……金ちゃん」
「やっぱり何かあるんだろ?」
「いえ、由緒正しきグレイウルフ公爵家の御子息に金ちゃんはないだろうとか、かけらも思っておりませんから」
「オイ!」
◇◇◇◇
今日は仕事がお休みだけれど、せっかく運動を始めたのだから継続しなくちゃね。朝早く目が覚めたので、軽い朝食代わりに昨日団長に買ってもらったマドレーヌを紅茶といただいた。
「さて、今日もウォーキングに行きますか!」
運動着に着替えて外に出ると、そこには金ちゃんがお行儀よく座っていた。口には何か物を咥えている。
「金ちゃん! 今日も来てくれたのね?」
「ヴゥ」
「何を持ってきたの?」
金ちゃんの方へ手を差し出すと、口からぽとりと革紐のような物を落とした。
「これは……リード?」
「がう!」
「あれ? 金ちゃん、首輪なんて着けてたかしら? 見覚えがないわ……んん? 首輪に『金』って書いてある! あなた本名も金ちゃんなの!?」
「ううん?」
「どっち!? まあいいわ。このリードを取り付けたらいいのね?」
「がう!」
私はリードの金具を首輪の金具へ取り付けた。どちらもまだ新しいらしく、金色の金具がピカピカ光っていた。
「金ちゃん、素敵よ。紫の首輪がよく似合っているわ」
「くう〜ん」
頭を撫でると、金ちゃんは嬉しそうに尻尾をフリフリしている。私の言葉が通じているのかしら。ふふっ、かわいいわね。金ちゃんはリードの持ち手を咥えると、私の手に押し付けた。
「このリードを持ったらいいの?」
「がうがう」
「わかったわ。今日もウォーキングに付き合ってくれる?」
「がう!」
金ちゃんは元気よく鳴くと、ゆっくりと歩き出した。どうやら私の体力不足を察してくれたらしい。先導するように、訓練場の周りを歩き出した。
「なんだか懐かしいわ。犬の散歩なんてどれくらい振りかしら」
「くうん?」
「もう亡くなってしまったのだけれどね、昔実家でワンちゃんを飼っていたのよ」
私は子供の頃に飼っていた大型犬、クロちゃんの事を思い出していた。邸の番犬として飼っていたはずだけれど、人懐っこすぎて全く番犬としての役目を果たしていなかった。そのかわり、私の友達としていつも一緒にいてくれたわ。
老衰で亡くなってしまった悲しみに暮れているタイミングで、王都の学園に入学し、その寂しさを埋めるように一心不乱に勉強に打ち込んでいた。
「官舎でひとり暮らしだし、もう犬を飼うことはないと思っていたから、またこうやって金ちゃんと出会えて嬉しいの」
「がう!」
「ふふっ、金ちゃんたらそんなに振ったら尻尾がちぎれちゃうわよ」
嬉しそうな金ちゃんは少しペースアップをして、私を引っ張るように歩き続けた。
◇◇◇◇
騎士の訓練場では、朝から自主練をする若い騎士達が数人集まって剣を交えていた。
「おいちょっと待て、あそこを見てみろ」
「なんだよ、まだ打ち合いの途中だろ。押され気味だからって誤魔化すのか?」
「そんなんじゃねぇよ! ほら、あそこ!」
「ん? ただの犬の散歩――じゃねぇ!」
「あれ、団長……だよな?」
その騒ぎに、他の騎士達もワラワラと集まって来た。少し離れた場所ではあるが、見間違えるはずがない。魔獣との戦闘中に何度も目にした、自分達の上司が獣化した姿を――
「王立騎士団の団長にリードを着けて散歩をするなんて、一体あの子は何者なんだ?」
「あ、俺食堂で見たことがあるかも。あのメガネの子、スウィフト隊長と仲良く食事してたぞ」
「マジか! すげぇな」
「たしか事務官の制服を着ていたな」
「そういや、総務部に新人事務官が入ったと聞いた」
「それだ! すごい新人が入ってきたな」
「まさか、騎士団最強の狼と黒豹を従えるなんて……」
「「「とんでもない大物に違いない」」」
シェリルは頭の中が表情に出がち
ペットは安易な色の名前を付けがち




