番外編 お料理教室
――ある日の休日。
「今日は騎士への差し入れにピッタリの、ボリューム満点サンドイッチを作りますわ」
「先生、ご指導よろしくお願いいたします!」
私はゴドウィン伯爵家のジュリエットさん専用キッチンにお邪魔して、ジュリエット先生にお料理を習っている。
私が作れるのは、学生時代に寮のおばちゃんから習った、食堂の残り物食材で作る簡単節約料理ばかり。だから、おしゃれな料理やかわいいお菓子の作り方など教えてもらえるのは、本当にありがたいのだ。
フリフリのエプロンを着けたジュリエットさんが、道具を並べながら私に問いかける。
「シェリルさんは、いつもどのようなサンドイッチを作っているのかしら?」
「そうですねぇ……残り物の卵をスクランブルエッグにしてロールパンに挟むとか」
「えぇ……」
「熟れすぎたバナナとチョコレートクリームを挟んだりとか」
「お、おぅ」
「最近は団長のお邸からランチが届くので、あまり作る機会がないのですけどね」
「わかったわ……」
ジュリエットさんから肩をポンと叩かれ、なぜか切なそうな顔をされてしまった。あれ? もしかして哀れまれてる? 残り物サンドイッチ、意外と美味しいのになぁ。
「今日はお肉を使ったサンドイッチにするわ。沢山食べなさい」
「ありがとうございます!」
わーい、お肉だって! やっぱり肉は正義よね! どんなサンドイッチかしら?
「まずはこの牛肉の塊でローストビーフを作るわ」
「まあ! ローストビーフ!」
なんて贅沢なのかしら。そのまま食べても美味しいローストビーフを、サンドイッチにしちゃうなんて! ジュリエットさんはお肉に塩で下味を付けて馴染ませた後、フライパンで表面に焼き目を付けた。それを天板に載せて温度調節したオーブンへ入れる。
私はその過程をノートに書き写した。官舎の部屋にもオーブンはあるから、再現はできそうね。
「どれくらい焼くんですか?」
「そうね……お肉の大きさにもよるけど、今日は三十分から三十五分くらいかしら」
「わかりました!」
お肉が焼けて予熱で中まで火を通している間に、もう一品。今度は何かしら?
「次はチキンとアボカドのサンドイッチよ」
「わぁ〜それも美味しそうです!」
鶏肉にハーブソルトを擦り込み、フライパンでよく火が通るまで焼いていく。鶏肉が焼けたら、野菜の準備だ。レタスをちぎってボウルに入れ、水にさらしてシャキッとさせる。他にもニンジンの千切りや玉ねぎのスライスなど、おしゃべりをしながら楽しく切っていった。
「最後はこのアボカドね。シェリルさん、お願いしてもよろしくて?」
「はいっ! お任せください」
私はアボカドを手にすると、縦にぐるりと一周包丁を入れた。その切れ目をひねるようにして種を外せば、きれいに半分にすることができた。
「あっ――」
「どうしたの? シェリルさん」
「これ、半分黒くなっちゃってますね」
「ひぃっ!」
「えっ、ジュリエットさん大丈夫ですか?」
私の手元を覗き込んだジュリエットさんは、アボカドを目にすると変な悲鳴を上げ、ガタガタと震え出した。
「アアアボカドがっ、半分黒いわ!」
「ええ、だけど黒いところは切っちゃえば大丈夫ですよ」
「そうではなくて! わたくしがっ、わたくしがあんな呪いを吐いたからっ!」
「呪い?」
「うわ〜ん! ごめんなさい〜!」
ジュリエットさんはポンッと音を立てて獣化すると、キャンキャンと犬っぽく鳴き出した。
「そんなつもりじゃなかったの! まさか本当に呪われてしまうなんて! あなたにどう詫びればいいのか――」
「ジュリエットさん落ち着いて。大丈夫だから」
「でもっ、でもっ、この先もずっと半分黒いアボカドがっ」
半分パニックになりかけているジュリエットさんを抱き上げ、首の辺りを優しく撫でる。
「本当に大丈夫よ。ね〜ジュリちゃん、いいこね〜よしよし」
「くぅ~ん」
耳の付け根の辺りを撫でると、ジュリエットさんは次第に落ち着きを取り戻し、気持ちよさそうな声を上げた。
「取り乱してごめんなさい」
「気にしないでください。私にはむしろご褒美なので」
「ん?」
「なんでもありません」
ジュリエットさんはポンッと音を立てて、また元の人型に戻った。
「ほら、見てください。こっちのアボカドはきれいな緑色ですよ」
「本当だわ。じゃあ本当に呪いにかかったわけじゃないのね?」
「違いますよ〜たまたま悪くなっていただけです。よくあることですから」
私が他のアボカドを切って見せると、ジュリエットさんはホッと息をついた。
「最初に会ったとき、あなたに酷いことを言ってしまったと後悔していたの」
「まあ! 私は全く気にしていませんでしたよ。アボカドが半分黒いなんて、特に実害はありませんしね」
「あなたったら、呑気すぎるわ。でも、そう言ってくれてありがとう」
「いえいえ〜。さあ先生! 続きを教えてくださいな」
「わかったわ!」
あらかじめ伯爵家の料理人さんが焼いてくれていたパンをスライスし、具材を挟める状態にした。
「ローストビーフもよさそうね。食べやすいようになるべく薄切りにするわね」
ローストビーフは花びらのように薄く切られていく。中がきれいなピンク色で、本当に花びらみたい。
パンにバターと粒マスタードを塗り、野菜をたっぷり、お肉もたっぷり重ねてパンで挟んだ。チキンとアボカドの方も野菜たっぷり、お肉たっぷりでボリューム満点!
「騎士なんてね、お肉を食べさせておけば文句は言わないわよ」
「なるほど?」
さすがは差し入れのプロだ。騎士の好みがわかってらっしゃる。
「わたくし達も味見をしましょう」
「いいですね!」
ジュリエットさんにパンを半分に切ってもらい、ローストビーフサンドとチキンサンドの両方を食べられるよう、それぞれのお皿に盛った。断面も色鮮やかで美しい。
日当たりのいい中庭のテーブルにお皿を運び、侍女のアリサにお茶を淹れてもらって、サンドイッチにかぶり付く。ボリュームが凄すぎて、一口では具が口に収まらない。だけど……
「ん〜おいひ〜!」
「でしょう? 従兄弟や叔父様にも評判がいいのよ」
「うんうん、このお肉の量! 最高です! マスタードも絶妙で!」
「こっちのチキンも上手くできたわ。ハーブが効いてる」
私達は美味しい美味しいと、あれだけボリュームがあったサンドイッチを残らず食べてしまった。
「さあ、味見も大丈夫だったし、婚約者様に持って行っておあげなさい」
「はいっ! ありがとうございます!」
初めて私が作った差し入れのサンドイッチ。団長は喜んでくれるかしら……?
私は、千切れそうなほどブンブンと尻尾を振る金ちゃんを想像しながら、バスケットを手に騎士団へと向かった。




