番外編 休日デート
異世界にシベリアはないだろう……というツッコミは一旦忘れて、お楽しみください。
「団長、本当にどこでも好きな所へ一緒に行ってくれるんですね?」
「ああ、君の願いならば叶えよう」
「では、次のデートは犬カフェでお願いします」
「い、犬カフェ?」
相変わらずお忙しい日々を過ごされている団長だけど、極力私と休みを合わせてデートに連れ出してくれている。舞台鑑賞や美術館など貴族らしいお出かけもあれば、料理長さん特製のお弁当を持って郊外へ馬の遠乗りをしたこともある。
そのどれもが完璧なエスコートで、私もとても楽しくすごさせてもらった。
だから今回こそは! 私が団長をエスコートしたいと思い、行き先を提案したのだ。モフモフ好きの私に犬カフェの存在を教えてくれたのは、総務部の先輩カーラさんだ。
「なんでも、犬と戯れることができるカフェができたらしいのよ」
「カーラさん! なんですかその素敵な響きは!」
「うちの娘から聞いたの。カフェと言ってもお茶を飲むのは二の次で、そこにいる犬達と遊ぶことがメインなんですって。おやつを上げることもできるから、うちの娘はご贔屓のワンちゃんに貢いでるらしいわ」
「おやまあ! 最近の若い子は舞台役者よりも犬に貢ぐのね」
「なんて恐ろしいカフェなんですか……私も貯金をはたいてしまいそうです」
ヒルダさんも驚いた声を上げていたが、私はカーラさんの娘さんの気持ちが痛いほどわかった。きっともの凄く癒されるに違いない。これは団長もご案内しなければ!
◇◇◇◇
扉を開けると、若い男性の店員さんが笑顔で出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ〜二名様ですか?」
「はいっ!」
「うちは大型犬専門の犬カフェですが、大丈夫でしょうか?」
「もちろんです! 昔うちでも大型犬を飼っていたのでご安心を」
私が胸を張って言うと、店員さんはホッとしたような表情を浮かべた。
「慣れていらっしゃるなら安心ですね。以前来られた女性のお客様が『思っていたのと違う! 大きくて怖い』と、泣いてしまわれたことがありましたので」
「どんな犬でも俺が守る。案内してくれ」
「かしこまりました! こちらへどうぞ」
どんな大きさでもワンちゃんはかわいいと思う。だけど大きいと怖いと思われる人もいるのね〜。
隣の部屋へ案内されると、飲み物を注文する。もうなんでもいいです。それよりも部屋の隅にいるワンちゃん達が気になって仕方ない!
「時間内はお好きに犬達と遊んでくださいね。おやつのご注文は、ベルを鳴らしてお知らせください」
「はいっ! ありがとうございます!」
やっと、犬達との戯れタイムだ! こちらをそっと伺っている様子のワンちゃんに声を掛けた。
「さあおいで! 一緒に遊びましょう!」
「ワンッ!」
小走りで近寄ってきたのは、大きな白い犬。わあ、モフモフだー! それにとても人懐っこい。サモエドかしら? なんて凛々しくてカッコいい子かしら。
「いいこね〜ふふっ、モフモフでかわいいわ!」
しゃがんでワシャワシャと撫で回していると、隣で突っ立っていた人が咳払いをした。
「んんっ、ちょっと触りすぎではないか?」
「あっ、団長すみません。つい夢中になってしまって」
団長と来ていたことをすっかり忘れていた。団長にも癒やされて欲しかったのに、私だけが楽しんじゃ駄目よね。
「俺以外の男を撫で回すなんて……」
「そっち!? それに、この子オスなんですか?」
「ああ。あまり嫉妬させないでくれ」
「ふふっ、ワンちゃん相手に嫉妬しないてください。ほら、団長も触ってみてくださいよ」
「クッ、悔しいが確かに毛並みがいい」
団長は狼だけに、犬の気持ちいいところも心得ていた。大きなサモエドがすっかり気持ちよくなり、おなかを見せて寝転がっている。
「団長、さすがです!」
「狼の俺にとっては造作もないことだ」
ふふんと、少し得意気になった団長もかわいい。
と、そこへ店員さんが別の部屋からワンちゃんを連れて入ってくる。
「この子たち、まだ子犬なのでやんちゃ盛りなんですが……お客様方は犬に慣れていらっしゃるご様子なので、どうか遊んであげてください」
「まあ! 子犬ですって!」
「わんっ!」「わん!」「わんっ!」
飛び込んできた三頭の子犬達は、しゃがんでいた団長の背中に次々と飛び乗った。ハスキーかしら? 子犬と言ってもそこそこ大きい。
「うわっと、コラ! 大人しくしないか!」
「わんっ!」「わん!」「わんっ!」
遊んでくれる人だと狙いを定めた子犬達は、団長に纏わりついて大はしゃぎしている。なにかこう、イヌ科同士で通じるものがあるのかしら? 子犬達と戯れる団長、尊いわ……
でもさすがの団長も手を焼いてるような――
「がうっ!」
「きゃん!」「きゃん!」「くぅん」
ポンッと音を立てて金ちゃんが現れた。さっきまで人間にじゃれていたつもりの子犬達は、突然現れた大きな犬に驚いて固まっている。正確には狼だけど。
「お前達。楽しいのはわかるが、人にじゃれる時は加減を覚えねば。今からどんどん身体が大きくなるんだからな」
「「「くぅ~ん」」」
「よろしい! 今日は俺が面倒を見てやる」
「わんっ!」「わん!」「わんっ!」
金ちゃんはそう言うと、子犬達とじゃれ合ったり、トイレに連れて行ったり、はたまた脱走しそうになった子を咥えて連れ戻したり、甲斐甲斐しく世話をしている。その見た目も相まって、まるで親子のようだわ。
私はサモエドちゃんにおやつを上げながら、その様子を楽しく眺めていた。
◇◇◇◇
――帰りの馬車の中。
「団長、今日は子犬達のお世話お疲れ様でした」
「あぁ、子供というのは体力が底無しだな。だが、今日は行ってよかったよ」
「そうですね! 私も楽しかったです」
「うん、まるで予行練習みたいだったな」
「予行練習?」
「俺達の子どもが生まれたら、あれくらい賑やかになるだろうから」
「こ、子ども!?」
「狼獣人の子だから、獣化したらあんな感じだぞ」
「そうなんですね……?」
急に現実味が出てきて、恥ずかしくなる。そうだわ、この人と結婚するんだった。子どもを授かる未来だってそう遠くないんだわ。
「結婚するのが楽しみだな、シェリル」
「は、はい」
照れくさくて下を向くと、いつの間にか出ていた団長の尻尾が、嬉しそうにパタパタと振られているのが目に入り幸せが胸に広がった。
番外編の書き溜めは一旦ここで終わりです。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。
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