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俺を飼ってください!~仲良くなったワンコをモフっていたつもりが、実は獣化した騎士団長でした〜  作者: 麻咲 塔子


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2/13

2 金ちゃん

 翌日、朝から部長と一緒に騎士棟へと挨拶に向かった。第一隊から第五隊まである隊長室を、手前の第五隊から順に訪ね挨拶をする。隊長クラスは書類仕事も多いので、これからも顔を合わせる機会が多いんですって。

 

 『よろしくお願いいたします』と挨拶をすると、どの隊長も『むしろこちらが世話になるよ』と優しく返してくれた。騎士団って怖い人や厳つい人が多いのかと思っていたけれど、優しそうな人が多くて安心したわ! 

 

 年齢層も様々。若い方もいれば中年に差し掛かった方もいた。騎士団は実力主義なので、強くて統率力があれば若くても出世できるのだそう。


「次は第一隊だよ。なんというか……まあ、会ったらわかるか」

「はい?」


 部長の歯切れが悪い。なにか問題でもあるのかしら?

 第一隊の隊長室をノックすると、『は〜い、入ってちょ〜だい』という声が中から聞こえてきた。ん? 今までと反応が違うわね。他の隊は『入れ』とかだったのに。


「失礼します、総務部です。新人事務官が入りましたので、ご挨拶に伺いました」

「あら〜、いらっしゃい。久々に若い子が入ったのねぇ〜」


 そう言って出迎えてくれたのは、長く伸ばしたツヤツヤの黒髪を紐でひとつに結った美麗な男性? うん、男性よ。他の隊長みたいにゴツいマッチョではなく、細身だけれど背も高くてしなやかな筋肉は付いている。

 喋りだけを聞くと女性っぽいわね。だけど中性的な美形だから全く違和感はない。


「はじめまして。総務部に配属されました、シェリル・ホープと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

「や〜だ、かわいいわ。シェリルちゃんね。アタシは第一隊の隊長ルーク・スウィフトよ。ルーちゃんって呼んでね〜」

「ル、ルーちゃん……隊長」

「んふふ、とりあえずそれでいいわ」


 ルーちゃん隊長……もとい、スウィフト隊長は灰青色の目を細めると楽しそうに笑った。いや、入りたての新人事務官が精鋭揃いの隊長に向かって、『ルーちゃん』なんて呼んじゃまずいわよね。さすがに。


「今度、お茶でも飲みにいらっしゃいよ。ゆっくりおしゃべりしましょ」

「は、はい。ありがとうございます、スウィフト隊長」

「んー、違うでしょ」

「ルーちゃん隊長」

「よろしい。昼休みでも仕事終わりでもかまわないわ。楽しみにしているわね」


 ルーちゃん隊長は長いまつ毛を搭載した片目をパチンと瞑り、流し目をくれる。妙に色っぽい。本当に騎士なのだろうか。実は騎士服は衣装かなんかで、人気舞台役者の間違いではないかしら。

 隊長室を辞してから、思わず部長に聞いてしまった。


「あの方、本当に騎士ですか?」

「正真正銘、第一隊の隊長だ。普段はあんな感じだけれど、戦闘になるとそりゃあ凄いらしいよ」

「へ、へぇ」


 人は見かけによらないって本当ね。ルーちゃん隊長が戦闘しているところなんて、全く想像できないもの。だけど美形は大好物だ。そこにいるだけで目の保養になる。お茶のお誘いは社交辞令でしょうけど、遠くから眺めるくらいはいいわよね。私は仕事に来る楽しみをひとつ手に入れた。



「最後は団長に挨拶しよう」


 部長の声に顔を上げると、いつの間にか廊下の一番奥にある団長室の前に着いていた。扉をノックをすると、低い声で『入れ』と入室の許可が出る。部長に続いて部屋に入ると、執務机の椅子に座った灰色の髪の大柄な男性に声をかけた。


「失礼します、総務部です。グレイウルフ団長、新人事務官が入りましたので、ご挨拶に伺いました」

「総務部に配属されました、シェリル・ホープと申します。どうぞよろしくお願――」

「君はっ!」

「えっ?」


 団長と呼ばれた男性がガタンと音を立てて突然立ち上がった。えっ、なになに? 私どこか変だった?


「いや、なんでもない。あー、俺は王立騎士団団長のアレックス・グレイウルフだ」


 そう挨拶すると、俊敏な動きで机の前にいた私のところへ回り、ガシリと手を掴んだ。


「ひいっ!」

「よろしく頼む」


 鋭い金色の瞳が私をジッと見ている。なんだ、握手か。びっくりしたぁ〜。これは騎士団方式なのかしら。あまり男性と握手をしたことがないから戸惑ってしまう。


 それにしても大きな手。剣だこがある、正真正銘騎士の手だわ。ちょっと怖そうだと思ったけれど、優秀な騎士ってそういうものよね。団長ともなると数百人の騎士をまとめないといけないんだもの、怖いくらいでちょうどいいのかもしれない。


「こちらこそ、お願いいたします」


 私も軽く握り返し、騎士団の上官への挨拶は終了した。



◇◇◇◇


 今日も昼休みは安定の裏庭だ。だだっ広いのに、本当に誰もいないんだもの。私のショボいランチにはうってつけなのだ。今日のお弁当は、昨日の夕食に作ったポテトサラダの余りをバゲットに挟んできた。ポテサラを多めに作って正解だったわ。パンが少し硬くなっちゃってるけれど、アゴの運動になったと思うことにした。


――ガサガサ


「誰っ!?」


 ちょうど食べ終わった頃、植え込みから音がして振り返ると、昨日の灰色のワンちゃんが飛び出してきた。


「ワンちゃん! 昨日はちゃんとお家に帰れたの?」

「がう」


 私がそう話しかけると、ワンちゃんはゆっくりと近寄ってきて私の前にスッと座った。


「あなた、騎士団で飼われているんじゃないのね。この辺りの貴族のお邸で飼われているのかしら?」

「ぐるる」

「うーん、わからん」


 学園時代は成績優秀でも、さすがに犬語までは習っていない。ただ、私に対して警戒心はなさそうだということはわかった。今日も触らせてくれるかしら?


「ワンちゃん、今日も触っていい?」

「がう」


 私が差し出した手に頬をすりっと寄せてくれた。どうやら触ってもいいらしい。私はワンちゃんの顔周りをモフモフしながら、話し掛けた。


「あなた、お名前は? なんて呼べばいいのかしら」

「ア〜ウウン」

「ア〜ウウン? ふふっ、本当になんて言ってるんだろ。おしゃべりできたらいいのにね。そうだ! あだ名を付けてもいい? あなたと私だけのあだ名よ」

「がう!」

「ん〜なにがいいかしら。そうねぇ、お目々がきれいな金色だから『金ちゃん』なんてどう?」

「あうあう」

「な〜に? 気に入った? ふふっ、じゃああなたは今日から金ちゃんね」


 金ちゃんは満足げな顔をして、私の膝にあごを載せた。か〜わいい!

 私は残りの時間を、金ちゃんをモフることに専念した。モフモフ好きではあるけれど、官舎暮らしでペットを飼うことはできないし、そもそもそんな金銭的余裕もない。まさかこんなところで、かわいい犬に出会えるなんて思ってもみなかったわ。ずっとこうしていたいなぁ。


 しかし無情にも昼休みの終わりが近付いていた。


「金ちゃん、残念だけどお昼休みが終わってしまうわ。また私と遊んでくれる?」

「がう!」


 そう返事をした金ちゃんは、植え込みの方へ走って行ってしまった。


「かわいかったな〜。また、来てくれるといいな」



◇◇◇◇


「団長から女の子の匂いがする」

「な、なにを言ってるんだ!」

「は〜ん、この匂い知ってるわ。シェ――」

「ルーク! 早く報告しろ!」

「お〜こわ。アタシだけじゃなくて、獣人なら誰でも気付くと思いますけどぉ〜」

「なんでもない!」

「ハイハイ、そういうことにしておきます」


 アレックスは怖い顔を作って威厳を保とうとしたが、ルークからは赤くなった耳が見えてニヤニヤされただけであった。


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