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クラウディブルー THE BLUE LOVE STORY   作者: 星河竜樹


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18/20

18、皇女の名

「大侯爵、お待ち下さい。

そんな帝国の根幹を揺るがすような秘密を、

私に話してよろしいのでしょうか?」


「お互いの命を預けるのだろう。

隠し事は無い方が良い。」


僕は動揺しながら訊ねた。

「ならば神帝は、

双子の皇太子と皇女が自分の子でない事を

知っておられるのですか?」


「真実とは、主観的側面が色濃いものだ。

必ずしも客観的な証拠が必要とされる訳ではない。

辺境伯も王妃も、不貞を認めていた訳ではないし、

神帝も真実を追求してはいない。

真実の答えは誰も求めていない。」


答えは誰も求めていない‥

班長も同じ事を言っていた。

ミオ先生の事が頭をよぎる。


「大侯爵、答えがないのなら、

噂で真実を作り上げる事は

間違っていると思います。」

僕は自分の言い放った言葉に戸惑った。


「ほう、臆せず自らの意見を申すか。

ますます、面白い若者よ。

私も憶測だけで話しをしている訳ではない。

積み重った私なりの確証もある。

まあ、君が辺境伯との立ち合いに負けて、

それでもなお彼が依頼を受けるならば、

それも真実の確証の一つになろう。


ところで私からも質問だ。

君は、どのような考えで、

この任務を受けている。

帝国のためか?

それとも自分自身の為か?」


僕はしばらく考えてから答えた。

「結局は自分自身の為だと思います。」


「正直だが、その回答は指揮官としては失格だ。

戦いには大義がいる。

この先、上に駆け上がるならば大義を持て。

大義なき上官に仕える部下は不幸でしかない。」


ぐうの音も出ない。

しかし、この任務の大義とは何なのだろうか?


黙り込む僕に大侯爵は更に言葉をかける。

「今回の任務の最優先救出順位を

リウ王子と定めたのは神帝である。


しかし、王子を奪取することは、

この先、帝国の継承者争いに火種を

持ち込むことにも繋がる。

或いは、新たな聖共和国王継承者の名の下に、

現聖共和国王を打ち倒すという

帝国による代理戦争の引き金になる可能性もある。


君の行動が、この先の大陸の歴史を

大きく動かすことになるかもしれないのだ。」


僕は頭をフル回転して考えたが、

大侯爵の言葉の真意は何なのか分からなかった。

大侯爵は、この作戦を成功させたいのか、

それとも失敗させたいのだろうか?


そして、初めてこの作戦をシセ少将から

聞いた時の違和感が再び頭を過ぎった。


その時、大侯爵が大きく激しく咳き込んだ。

コウが前に出て、

大侯爵を横たわらせながら言った。

「ご無理をなさらず、お休み下さいませ。」


「マサ軍曹、

暖かい風呂と食事を用意してある。

辺境伯が来るのは、明日になるだろう。

皆と共に、今晩はくつろぎなさい。」

最後に大侯爵はそう言い、

静かに目を閉じ眠りに入られた。

僕はコウと一緒に部屋を出た。


「驚かせてしまい申し訳ありません。」

歩きながらコウが話しかけてきた。


「あなたが

大侯爵のご子息であったという事ですか。

確かに驚きましたが、大丈夫ですよ。

私たち傭兵護衛団に所属する者の

過去や経歴は不問ですからね。

でも、気になる事があります。

大侯爵は双子の皇太子と皇女が

不貞の子である確証があるとおっしゃっていたが、

その確証の内容をご存知ですか?」


「内容は知りません。

ただ私が知っているのは、

辺境伯の名はジン、真名はアイ。

ジン=アイ、真名によって成す意味は

仁愛なる者。

王妃は、皇太子の名は神帝に付けさせたが、

皇女の名は自らがアイと名付けた事のみです。」


「全ては、そこから始まったのですね。

確かに深い意味を求めてしまうかも知れない。」


「ええ、私もそう思います。」


僕は立ち止まった。

「でも、それだけでは確証にはならない‥」


僕はコウの目をしっかり見ながら言った。

「それからコウ副隊長。

我らが隊は、ここまで団員同士で、

お互い余り話しをせず旅して来ました。

この先、お互いの背を預ける為には、

可能な限り、お互いの事を話し、

お互いの事を知り、

信頼し合う必要があると思います。


私は、任務の真の目的を

団員に事前に知らせるべきだと思います。

夕食の時に皆に話しましょう。」


「それには賛同致しかねます。

万が一裏切りに合い、真の目的が

敵国に漏れると大変な事になります。

何卒お控え下さい。」


「先程、大侯爵とお話した時から、

ずっと考えていました‥


この作戦に私は大義を掲げられません。

ならば必要とするのは、

お互いがそれぞれの欲し求めるものを

獲得する為に協力し合う事です。

私は団員の求めるものを知りたい。」


しばしの沈黙の後、コウは言った。

「そうですね‥

私の命はシセ少将に救われ、

その少将が貴方を指揮官に選んだ。

ならば貴方の命令は天命なのでしょう。

わかりました。

ご安心下さい。

何があっても私は隊長に従います。」

コウは、優しく微笑んだ。


僕は彼に言った。

「従うのではなく、

協力をお願いしたいのです。

暖かい風呂が終わり、

食事の時に、作戦の具体的詳細を皆に

ご説明下さい。

実際、私自身も具体的詳細は

把握できておりませんから。」


大広間に戻ると、

まず大侯爵が用意した仕立て屋が

五人ほど待っていた。

紺色を基調にした

私たち傭兵護衛団専用の制服を仕立てるという。

基本になるものは、ある程度仕上がっており、

採寸しながら明朝まで徹夜で調整するそうだ。

僕は、小さくてもいいので

スカイライオネットの紋章を、

皆の制服に入れられないかと指輪を見せた。

仕立て屋は簡単に了承した。

皆の右胸に親指程の大きさの赤い刺繍で

入れてくれるそうだ。

良かった。

これで万が一の時、

僕以外の団員が救出の旨を説明しても、

皇女は信じてくださるだろう。


試しに袖を通したその制服は

とても上品で着心地がよく、

高価な生地である事がわかった。


皆もそれぞれ自分の要望を仕立て屋に話していた。

そこでロクが、右袖口を広くとるように

依頼しているのが印象的だった。

確かに今ロクが着ている服も右袖口が広かった。

試着の為に彼が上着を脱ぐと、

僕は何故彼が広い袖口にこだわるのかがわかった。


なんと彼の右腕に蛇がぐるぐると巻きついていた。

しかし、彼の前では蛇も従順で、

彼の腰にあった袋の中に、すんなり入っていった。

ロクは口を縛って袋を置いた。

大侯爵の邸宅は客室も数多くあり、

僕らには、それぞれ個室が用意されていた。

蛇の袋はロクの部屋に運ばれて行った。

僕は、心の中で

夜中に蛇が彼の部屋から逃げ出さない事を祈った。


一通り要望を聞いた後、仕立て屋は言った。

完成した制服は明朝に籠に入れ、

それぞれの部屋の扉の前に

畳んで置いておくので、

朝食には、それを着てお越し頂きたいと。

そこで最後の微調整をするそうだ。


大侯爵の邸宅には

来客用の男女別の大浴場があるそうで、

その後、

使用人に案内され僕らは一緒に浴場に向かった。


裸になるとロクもジユも、

そして年配のコウも非常に引き締まった

鍛えられた体をしていた。

正直、僕は安心した。

体つきを見る限り、

皆、強そうに見えた。

ロクの子猿も一緒に風呂に入った。


「この子猿の名前は?」

僕は聞いた。


「キキといいます。」

ロクはそう答え、僕に触らせてくれた。

慣れてくれば、なかなか可愛い。

キキもコウの腕に乗り湯に浸かりながら、

気持ち良さそうに目を閉じていた。


風呂を出たあと、

僕らは用意されていた部屋着に着替え、

それぞれの個室で少しばかり休息した後、

夕食の為に大広間に再び集まった。

暖かい、そして美味しい夕食だった。


食事の途中に僕は何度も、

横の席に座っているルビに目がいってしまった。

ルビは長い黒髪を纏めて、

お団子の様にして上げていた。

横顔が色っぽい。

ゆったりとした部屋着からでも、

美しい妖艶な体つきが、さりげなく分かる。

いけない、いけない。

僕は何を考えているんだ。

これから、僕らは重要な話をするのだ。


「皆に今回の任務の真の目的と、

作戦の詳細を説明します。」

しばらくして僕は、意を決して話し始めた。


お読みいただきありがとうございます。

今後の励みになりますので、

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