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異世界ギルドのレビスパーダ 〜最大積載量測定不能の馬鹿力はいかがですか?〜  作者: 亜菜 三丁
2章 悲しみも痛みも超えて

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16.魔法の力

 春の陽射しが校舎脇に並んだベンチを白く照らしていた。

 昼休みのグラウンドからは、ボールを蹴る音や生徒たちの笑い声が途切れ途切れに届いてくる。

 購買で買ったパンを立ったままかじる者、友人同士で肩を寄せ合って弁当を広げる者。そんな昼の賑わいから少しだけ外れた場所で、ツバキとリーゼは並んで腰を下ろしていた。


「ツバキ。五六限目の授業が魔法の訓練に変わったのは本当なのか?」

「そうそう。昼休みにちょっとだけやるはずだったんだけどね。なんか盛り上がったみたいで、校長先生とか魔法科の先生がみんなでやろうって話になったみたい」


 ツバキは膝の上に広げた弁当の蓋を裏返し、簡易の卓のようにしていた。卵焼きを一つ箸でつまみながら、グラウンドの方へ目を向ける。

 その隣でリーゼは小さく背を丸め、弁当箱の隅に寄った白米を少しずつ口へ運んでいた。

 周囲に人がいないわけではない。しかし、ここだけがひどく静かだった。


「こうなってもまだ信じられないな。リーゼが俺と同世代だっていうのは。完全に歳下気分で話してたよ」

「私だってお前のこと歳上だと思ったぞ。だから、まあ、良かったなって」

「クラスの人と食べるどころか、俺と昼飯してるもんね」

「うおっ?! ゲホッガハッ!」


 その言葉は冗談めいていたが、リーゼには図星だったらしい。

 リーゼはむせて咄嗟にペットボトルのお茶を飲む。

 喉を押さえたまま咳き込み、銀の睫毛の奥の目がじわりと潤んだ。


「はぁ……お前になら分かるだろ。人と話すというのは、色々気になるから、向いてないんだ」

「面倒な能力持っちゃったよねほんと。俺なら大丈夫?」

「それは……」


 リーゼはしばらく黙りこくってから、小さく頷いた。


「だったらよかった」

「……ツバキがもし、この学校に来てくれていたなら、すごく頼もしかっただろうな」

「そういう未来もあったかもしれないね」


 やがて五限目。魔法科の生徒たちが揃って体操服姿になり、グラウンドへ出ていく。


「おいおいおい! 本当に撃ってる!」


 生徒の内の誰かが、あり得ないものを見るような声で指を向けていた。

 その先では、ニコレスが試し撃ちと言わんばかりにツバキへ向かって魔法を連射していた。

 無骨な金属の杖の先端から強烈な音と共に白い光線が発射され、グラウンドの中心に立ったツバキに命中しては爆煙が立ち上った。


「容赦ねぇ……」

「あの威力を無詠唱でかよ」


 集まった生徒たちの視線が立ち上る煙とニコレスへ釘付けになった。やがてツバキが無傷で姿を現してニヤリと笑うと、生徒たちはあんぐりとするばかりだった。


「この通りだ。彼は強いだろう。みんなどんどん魔法をぶつけてやってくれ」

「どんどんやっちゃってー!」


 ニコレスがその場から離れて場所を譲る。

 二十メートルほど離れた位置で、魔法の的になっているツバキも声を張るが、順に並んでいた生徒たちは皆立ち尽くしていた。


「あの、自分、攻撃系は専門外なんです」

「私も応急処置くらいしか……」

「詠唱が終わるまで10分待ってください!」


 そもそも対象に危害を加えるような魔法が生徒の数の割には少なかった。

 ツバキはとにかく魔法の的になり続け、やがて最初に手を挙げた生徒であるレイスの番がやってきた。


「それでは、受けてみてください」


 木の杖を突き出し、燃えるような赤い魔法陣が浮かび上がる。目を閉じて意識を集中。口元で素早く呟くような動作をしながら、魔法陣の中心に赤い火球が生まれる。


「いって! パイロプロージョン!」


 レイスの叫びと共に赤い閃光が放たれた。

 火花のたった一閃程度の光が軌跡を描きながら直進し、棒立ちのツバキに命中した瞬間、巨大な爆発と共に地面が揺れた。


「すっげぇ……あんなパワーで出せたのか」


 他の生徒たちも魔法の威力と吹きつける熱に唖然としつつ、爆炎が収まるのを凝視していた。

 そしてしばらくして煙が晴れると、爆発を受けたはずのツバキは無傷のまま立っていた。

 守ったような動作もなく、レイスを見据える目は笑っていた。


「今のすごいね。あれだけ圧縮してたのにこの威力か。魔物も倒せそうだけど、建物の解体に使えたら便利だろうなぁ」

「茶化してますか」

「いーや、すごく褒めてるつもり」


 ツバキとしては本心で言っているつもりだったが、レイスは気にそぐわない様子。彼女はしばらく何かを迷っていたようだが、一つ思い立ったように、杖を強く地面に突き立てた。


「……もう一段、試していいですか」


 レイスの目が燃えるようだった。

 その覚悟はすぐさま周囲の生徒たちにも伝わってきたようで、途端にざわつき始めた。


「レイスのやつ。あれ以上の本気でやるつもりかよ」

「前はあんなに嫌がってたのに」

「やっぱり、“戦闘民族”の血が騒ぐんだろうな」


 その呼び名が飛び出した瞬間、近くにいたニコレスは目を見開いた。


「戦闘民族? じゃあ、君はもしかして」


 言いかけたところで、レイスが杖を突き立てた。力強く押し付けられた杖を中心に突如旋風が巻き起こり、彼女の額に変化が現れる。

 レイスの赤い髪の隙間から、二本の白い角が少しずつ飛び出してきた。

 やがて風が収まると、周りの生徒たちがより大きくざわつき始める。


「魔力の感じが変わった……?」


 ツバキは明確に感じ取ったその変化と、生徒たちの反応を見るや否や、元いた場所からレイスの方へ跳躍した。


「私は、魔人の血を継いでいます」


 低くなった声色のレイス。その額に伸びた二本の角。

 垂れていた前髪が角によって分け目になっていた。


「驚いたな。二十センチほどか……今の時代、まだこれだけの角が生やせる魔人が残っていたとは」


 ニコレスがその立派な角を見上げては、感嘆の声をあげた。


「魔人……? 聞いたことある。あれでしょ? 確か昔いたっていう、エルフとかドワーフとかの種族だっけ」


 ツバキが確認のような質問をしたところ、レイスの頭に疑問符が浮かんだ。

 質問そのものへの疑問というよりは、当たり前の話を聞いた自分に対するもののような感じだ。


「ん? ええ、そうです。大昔に絶滅した種族たちとは違って、戦闘民族魔人の血はまだ残ってるんですよ」

「すごいな……おでこの角が魔人の証ってわけだ」


 目の前でじっくりと角を見つめるツバキに対して、レイスは目を鋭くした。


「ま、こんなのつっかえて邪魔なだけですけどね。けど、この力を最大限に使わなきゃ敵わないというのなら、やってみせます! 全力でぶつけてって言ってましたし!」

「よしこい!」


 やる気十分の赤い目を見て、ツバキが後ろへジャンプして離れる。そして再び正面に構えた。


「魔人の本領を……受けてみてください!」


 レイスは先ほどよりもさらに力強く杖を構えた。

 彼女を中心に広がった魔法陣から風が吹き荒れ、赤いロングヘアが激しく靡く。

 熱風が周囲の生徒たちへ吹き抜け、この時点で威力の違いは確信するほど。


「ちょっと、学校の結界は大丈夫かよ!」

「生徒にぶち壊されるほどヤワじゃないんだから!」


 生徒の懸念に、ここの教師らしき人の怒号が飛ぶ。しかし、その場の全員が慄くほどにレイスの魔法陣は大きく、杖の先端には光が深紅の輝きを発していた。


「パイロ……プロージョンっ!」


 再び一筋の閃光がツバキに向かって放たれる。

 今度はこの小さな一閃が軌道を描くだけで周囲の空気が揺らぎ、まるで新幹線でも通り過ぎたかのような風が後方に巻き起こっていた。


「それだね」


 ツバキは、このとてつもないエネルギーの光の軌道を見て、視界に捉え、そして、手を伸ばした。


「ふんっ!」


 文字通り手中に収めた。しかし、その指の隙間から赤い光が差し込み、刹那、グラウンド全体が眩く輝き……


 ドカアァアアアン!


 衝撃波がグラウンド全体を揺らし、離れていたはずのニコレスや生徒、教師共々腕で顔を覆った。

 この圧倒的な威力を放ったレイス。彼女には確信的な自信があった。爆発から数秒して、魔法を受けたツバキに心配の念が湧いてくるほどに。

 しかし、その心配は杞憂となる。


「う、嘘……?!」


 爆炎の中からは、先ほど変わらない光景があった。

 無傷のツバキが目の前で立ち、手のひらを見つめていた。


「すっご……今のはちょっと痛かったな」


 その手のひらからは煙が上がり、わずかにかすり傷ができていた。これは、ツバキがメトリアに来てから初めての傷だった。

 動揺はしつつも、ツバキはすぐに生徒たちの方へ戻った。


「やっぱすごいよ。レイスだったよね」


 ツバキも驚いていたが、レイスや他の生徒たちはそれ以上に驚いている様子だった。皆があんぐりと口を開けている。


「あ、あなたは……なんなんですか。私の本気を、全力を受けとめたということですか」

「そういうこと。なにか手がかりは掴めそうだった?」

「あ、はい……。ここまで全力で魔法を使ったのは初めてでしたから。……うぅ」


 杖をついたまま膝をついたレイス。気がつけば頭の角も引っ込み、息を荒くしている様子だった。


「大丈夫?!」

「大丈夫です……魔力を少し使いすぎたから、少し休みます」


 なにか手応えがあったのか、手に持った杖を凝視しながらその場を離れていった。


「あっさり受け切られてんじゃねーか。学校一の火力ってのはあんなもんだったのか?」


 と、元いた位置に戻るレイスの赤いロングヘアに向かって呼びかける男子の声があった。


「はは……うるさいわねザイル……けっこう、悔しいのよ」

「あぁ、そう。わり」


 煽るように呼びかけた金髪の男子だったが、思いの外ショックを受けているのを見てか、すぐに弱腰になった。


「じゃあ俺も!」

「君はザイル? どんどんきちゃって!」

「ああ! ザイル・バイアです! んじゃ早速……スパーキング……」


 ザイルと名乗った金髪の拳にスパークが走る。

 震える右手はバチバチと弾けて、パワーが混ざりあった。そして、


「アバババババ!?」


 手のひらに集まっていたはずの電撃は、突然ザイルの全身に移り、ギャグ漫画と見紛う自爆を披露した。


「気合い入れすぎて自爆してんじゃないわよ……」


 そんなザイルを、レイスは腰を落としてうんざりしたような呆れ顔で見ていた。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

戦闘民族魔人の登場です。この作品でやりたいことに、つま先だけ足をつけたような、そんな感じです。


もし良ければ、評価やブクマ、感想などをいただけると励みになります。

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