閑話:南極への長い旅
「頼むて、どうしても食べたいラーメンがあるがね」
シャチョーが手を合わせて、タクヤを拝み倒していた。
「なんだよ、急に?」
ルーイン・ゴートの午後。
つい先ほど、みんなで昼食にラーメンを食べたばかりである。
「醤油、味噌、塩に豚骨、コジロー系まで作ったはずだが……あ、名古屋の台湾ラーメン系か?」
「似とるんだがね、ちょっとだけ違うんだわ」
聞いていた周りも、だんだん気になってきた。
「シャチョー、ちょっと待って、当てさせて!」
結がシュビっと手を挙げる。
「ズバリ、屋敷系!」
「いや、大将軒系じゃね?」
だが、シャチョーはことごとく首を振った。
そして、最後に厳かに告げた。
「クセになる激辛、猛虎タンメン、長本だがや」
* * *
「猛虎タンメンか……」
タクヤが、腕を組んで小さく唸った。
「どうかね? 出来るんかね?」
シャチョーが身を乗り出す。
ちなみに先日、身包み剥がされたばかりなので、今の装備は店売りの革装備である。
「わりいが、唐辛子が確保できてねえ……」
タクヤの言葉に、シャチョーはがくりとうなだれた。
「うう、やっぱダメかね? 誰か、唐辛子見たことないかね?」
その場にいた面々が、そろって首を振る。
「そういや、見たことないな……」
「ジョロキアトッピングのピザは注文できたが、ゲーム内には届かねえしな」
シャチョーは、さらにがっくりと肩を落とした。
「諦めるのは早いぜ、探してみよう」
白いローブ姿の子供アバター、ケンタが椅子の上に立ち上がって発言する。
「探すて……どうするがね?」
シャチョーがケンタを見上げる。
ケンタは、人差し指をぴんと立てた。
「久々にGMちゃんに聞いてみようぜ!」
「おお!」
その言葉に、シャチョーは期待を込めた声を上げた。
* * *
シャチョーは、ユーザーサポートAI――通称、GMちゃんへの問い合わせ窓を開いた。
「唐辛子はどこにありますか? ……ポチッとな」
『はーいGMちゃんです♡ お問い合わせありがとう~。唐辛子って、めっちゃ辛い野菜だよねー? そのものはないけど、似たような実装はあるわよ→(リンク)』
「おお? 見つかりそうだがね!」
シャチョーはすぐさまリンクをクリックした。
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404 NOT FOUND
申し訳ございません。
指定されたファイルまたはディレクトリは存在いたしません。
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「リンク切れだがね! ……ポチッとな」
『はーいGMちゃんです♡ お問い合わせありがとう~。リンク切れはデータがないってことよ♪』
「そーゆーことを聞いてるんじゃないがね! ……ポチッとな」
『はーいGMちゃんです♡ お問い合わせありがとう~。私、そーゆーことってわかんな〜い♪』
「ケンター! GMちゃん、使えんがね……」
「いや、ちょっと待て。関連質問を見てみろ」
ケンタが表示欄の下部を指差す。
『関連しそうな質問:唐辛子って辛い?』
「当然、辛いがね……」
「一応開いてみようぜ」
クリックしてみると――。
『とお〜っても辛いです! 辛さの素はカプサイシンという成分で、これで口の中がファイヤーボール状態で〜す。なんと、今ならピザフットさんとコラボ中で、タカ科系統のモンスターからドロップしまーす♪』
「タカ?」
「ダジャレだな……」
「まあ、行き先は決まった」
ケンタは椅子の上で東を指差した。
「クロスロードに行くぞ! グリフォン狩りだ!」
* * *
『トーチ』の一行は、クロスロードにやってきた。
東の自由都市『ヘスペリア』の近く。
東西のオーダー系都市をつなぐ街道と、南北にカオスの拠点をつなぐ街道が交わる地点である。
そこから西、中央山脈へ向かえば、安全そうな街道、安全そうな宿、安全そうな草原が広がっている。
しかし、それは初心者エリアを卒業したばかりの冒険者たちを油断させる罠だった。
その空は、恐怖が支配する領域である。
上半身が鷲、下半身は獅子の怪物。
グリフォン――ゾーンの適正レベルを遥かに超える、致死級の徘徊モンスターである。
「というのは、ひとけたレベルの時の話だ!」
ケンタが、ぐっと拳を握った。
「みんな! 狩って、狩って、狩ってやろうぜ!」
「ケンタ、昔、追い回された恨みが爆発しとるがね」
結は早速、追跡スキルを使用する。
「いた! 西に一羽……一頭?」
西の宿屋の上空に、黒い影が見えた。
「正射必中!」
青い光の尾を引いた矢が、グリフォンの片翼を射抜く。
地上に落ちる巨体。
「スマイト!」
「スマイト!」
「スマイト!」
「ヒーラーがそんなに攻撃魔法にSP使うてはあかんでよ」
シャチョーはケンタの剣幕に驚きつつ、グリフォンの背後からダガーを突き立てる。
「バックスタブ!」
「すげえ、やる気だな、おい……」
タクヤは呆れ気味に支援する。
「鈍重化!」
「ワシも兜に穴を空けられた恨み晴らすドワ!」
ガン鉄も分厚い鉄の盾で、グリフォンの頭を叩く。
「ピィイイ〜!」
甲高い鳴き声を残して、グリフォンは倒された。
「ドロップは!?」
結がグリフォンの消え去った地面をうかがうと、小さな宝箱が出現していた。
「よっしゃ! 豪運の男が開けるがね!」
シャチョーが手をワキワキさせながら、宝箱に取りつく。
* * *
「ある意味、当たりだな……」
注目の中、シャチョーが引いたのは――。
レア宝石の『マーシャン・ローズ・ルビー』だった。
「100ppで売れるぞ。よかったな」
「えー! こんなちんまりした石がそんな高いの?」
結が目を丸くする。
「いくら高くても、今はハズレだがね……」
シャチョーはがっくり膝をついた。
「まあ、どうせ一個や二個じゃ足らないぜ」
「そうだ、どんどん行くぞー!」
結が追跡スキルの一覧を開く。
「でも、もうグリフォン見当たらないよ」
表示された一覧には、別のモンスター名が並んでいた。
「このジャイアント・バットと、キラー・ホーネットを掃除しよう」
ケンタがリストから飛行モンスターを選んで指す。
EOFでは、ゾーンごとにモンスターの出現枠がある。
たとえば、A枠とB枠があり、A枠にゴブリンとオーク、B枠にジャイアント・バットとグリフォンが割り当てられているとする。
その場合、B枠としてジャイアント・バットが出現している間、同じ枠のグリフォンは出現しない。
このときのジャイアント・バットのように、目的のモンスターと同じ出現枠にいるモンスターを、プレイヤーたちはプレースホルダーと呼んでいた。
プレースホルダーを倒して、目的のモンスターの出現枠を空ける行為を、プレイヤーたちは『掃除』と呼んでいる。
確証があるわけではない。
だが、同じ出現枠には似たようなモンスターが設定されている、という経験則があった。
つまり、飛行型モンスターを狩れば、グリフォンが出やすくなる――という理屈である。
その目論見は功を奏し、一行はすぐに次のグリフォンを見つけ出して仕留めた。
そして、宝箱――。
* * *
――『グリフォンの爪』。
「おお、これ来たがね?」
「よし、鑑定しようぜ」
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【グリフォンの爪】
Class:Food / Spice Material
Rarity:Rare
Weight:0.1
説明:
グリフォンの爪に似た、真紅の辛味素材。
ピザフット激辛キャンペーン期間限定品。
効果:
料理に強い辛味を追加する。
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「でらヤバいがね! ほんとに落ちたがね!」
シャチョーのテンションが爆上がりである。
「レアってあるけど……どれだけ必要なの?」
「五、六個は欲しいとこだな」
タクヤの返答に、結は顔をしかめる。
「うへえ、結構大変かも……」
「まあ、どんどんいこうぜ!」
なぜかケンタはノリノリである。
「街道歩いてたら瞬殺された恨み、スマイト!」
「ゾーンしたら瞬殺された恨み、スマイト!」
「買い物中に屋根の上から瞬殺された恨み、スマイト!」
一行は、次々とグリフォンを狩っていった。
たまに出現が途切れると、飛行系モンスターを掃除しながら、順調に狩りを進めていく。
しかし――。
* * *
――出ない。
あれから、十頭は狩ったのに、二つ目の『グリフォンの爪』は出なかった。
「これは、1%を切るドロップ率かもな……」
「デルフィーネさんに、加護をもらってくればよかったね……」
「それが、どこかに観光に行ったとかで留守だったんだよな……もう少し頑張ってみよう」
ところが――。
「うーん、またグリフォン出なくなったよ」
「どれ……飛行型モンスターも一匹もいないな」
「どうしたらええんかね……」
「仕方ない、全部掃除するしかないか……」
プレースホルダーが飛行型モンスターであるというのは、あくまでプレイヤーの経験則である。
同じ枠に、ゴブリンやオークが混じっていても不思議ではないのだ。
「アイツのプレースホルダーは、初心者レベルで狩れる弱小モンスターだと思う」
ケンタが腕を組んで考え込む。
「いないと思って安心してると、すぐに湧いてきて瞬殺された思い出が……」
「……ケンタ、やられすぎじゃない?」
結は苦笑しつつ、追跡スキルの一覧を眺める。
「弱いのだと、ネズミとか? ……あ」
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キンタロー・キャンディ・スネーク
【黒い稲妻】
ジャイアント・ケロック・ゾンビ
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固まった結の横から、ケンタが一覧を覗き込む。
「これは、飛ぶかもしれん……」
「いやいやいや……」
「まさか、あの黒い悪夢の昆虫が実装されてたというんかね?」
騒然となる一同。
「アイツだったら小さいし、油ギッシュでどこでも潜り込むし速いし、大変だぞ……」
「まあ、追跡スキルがあるんだ。追ってみよう」
だが、結が動かない。
「……無理……むりむりむりむりーー!」
そう叫んで、一覧を閉じる。
「アイツら、一匹見たら百八匹はいるのよ!」
結は頭をブンブン振って走り出した。
「ごめん! 私、急用できた! みんな頑張ってね!」
* * *
「追跡スキルなしでは無理だろ……諦めっか」
タクヤが諦めの声を漏らす。
「一個でも、ピリ辛味噌タンメンくらいは出来んだろ」
「えええー、そりゃないがね! ピリ辛じゃなくて、南極超辛がええんだて!」
シャチョーが懇願する。
「諦めなくてもいいかもしれん――」
ケンタが、ストーンヘンジが立ち並ぶ丘の向こうを指差した。
カサカサと――蠢く巨大な影がいた。
ぬらぬらと光を滑らすように反射する表皮。
地面すれすれを、腹で擦るように移動している。
見知ったその姿……ただし……。
「どえりゃあ、でっけえがね!」
「探しやすくて、いいな……」
「レベルはグリフォンと同じくらいか……」
「よーし、駆除するがね!」
「ドワドワ! 武器や盾に油が付きそうで無理ドワん」
ガン鉄も嫌そうな顔をする。
「ほんなら、魔法で頼むでよー」
「油に火ついて走り回ったりしないかのお?」
ログ爺も顔をしかめて拒否した。
「ウィザードがいれば、瞬間凍結できるんだが……」
「ケンタのスマイトでええがね! 頼むがね」
「ええ〜っ……向かってこられたらイヤだし、そもそもシャチョーがその必殺のダガーで駆除すればいいだろ」
誰もが触れたくない相手だった。
* * *
みなが押し付け合いをしているところへ、ゾーンの壁際をぴょんぴょん散歩するように、大きな影が迫っていた。
「うっ、なんだこの匂い……」
一帯を腐臭が覆い尽くす。
「ゾンビ臭だな……誰か聖職者エピッククエストを始めたか?」
「ゲコッ……ゲコゲコッ……」
現れたのは、巨大なカエル族のゾンビだった。
「うへえ、ジャイアント・ケロック・ゾンビだがね」
「う、ちょっと引こう。臭すぎる……」
一行はゾーン際に退避した。
すると――。
かち合う、『ジャイアント・ケロック・ゾンビ』と『黒い稲妻』。
しばらく見つめ合うと、『黒い稲妻』が方向転換を始める。
が、『ジャイアント・ケロック・ゾンビ』が舌を飛ばす方が早かった。
ごっくん、と丸呑みする音が聞こえたような気がした。
「ゲコゲコッ……」
『ジャイアント・ケロック・ゾンビ』は満足そうに喉を鳴らすと、壁沿いの徘徊を再開した。
一行はただ、それを見送るしかなかった。
「おいおい、喰いやがったぜ……」
「でも、これでグリフォンのポップが再開するかも」
「おー、それは超ラッキーマシマシだがね!」
まもなく、宿屋の上空に見慣れたグリフォンの姿が確認された。
「うおーい、愛しのグリちゃん、待っててちょーよ!」
シャチョーは突進していった。
* * *
「驚きのプアハンドだな……」
あれから、『グリフォンの爪』は、ひとつもドロップしなかった。
「うう、おかしいがね、なんでだて……」
シャチョーは膝をつき、地面を叩いて悔しがる。
「もう日が暮れる。今日のところは帰ろう」
ケンタが赤く染まった西の空を見て告げた。
「明日もお願いできるかね!」
シャチョーが急に顔を上げて懇願する。
「あ、俺ちょっと明日は用事が……」
「俺も明日は、アシダリアでラーメン作る日だ」
「ワシもたまった仕事があるドワん」
「わしも……なんか用事があったはずじゃわい」
そんなわけで、解散の空気が高まったとき――。
「まあ、『グリ爪』以外の収穫は売って分配な」
「おっし、そこの宿屋でいいか?」
タクヤが宿屋の主人の取引窓を開く。
「まじか!」
タクヤは思わず大声を上げた。
――取引窓の販売品欄には、誰かが売り払ったらしい赤い爪状のアイテムがズラリと並んでいた。
値段も一個5spとお安い。
即座に買い占めたタクヤであった。
「やれやれだぜ……」
「えっ? えっ? どゆことだがね?」
シャチョーは、タクヤの腕の中に現れた赤いアイテムの山を、キョトンと見つめるばかりだった。
* * *
セレノスの酒場、『ルーイン・ゴート』――。
「辛っ! 旨っ!」
シャチョーは真っ赤なスープを飲み、真っ赤に染まった太麺をすすった。
クタクタになるまで煮込まれた野菜は、辛さによって甘味を極限まで引き出されている。
山と盛られた唐辛子の粉は、徐々にスープへ溶けていき、辛さを天井知らずに伸ばしていく。
猛虎タンメン長本の★★★★★隠しメニュー、『南極超辛』である。
「うへえ、辛そうだな……」
ケンタは普通に看板メニューの『猛虎タンメン』を頼んでいた。
ピリ辛味噌タンメンに、激辛麻婆豆腐を乗せた一品である。
「うひい、この麻婆食べたら、ピリ辛も激辛も変わらんじゃん……」
「でも、これ、めっちゃ美味しいよ!」
結はちゃっかり、ピリ辛味噌タンメン定食をかき込んでいる。
ピリ辛味噌タンメンに、ライスと激辛麻婆豆腐が別添えでついてくる体育会系メニューだ。
ライスには、紅生姜が添えられていた。
「通はピリ辛味噌定が基本って言うからな」
タクヤが満足そうに笑う。
「旨い〜っ! 辛い〜っ! たまらんがね!」
シャチョーは汗と涙にまみれながら、真っ赤なスープを飲み干した。
そして、鼻をチーンとかむと、晴れやかな顔で告げた。
「次は、喫茶チョモランマの甘口イチゴみるくスパ頼むがね!」
「……やれやれだぜ」
(おわり)
――閑話:南極への長い旅 あとがき
最後まで読んでくれて、ありがとさんだがね。
『トーチ』の第一胃袋、シャチョーだがね。
次回の『マジチー』は、本編を来週火曜日のお昼頃に投稿予定だがね。
結ちゃんが大変なことになるがね。
そっちも読んでいただけると嬉しいがね。
もし少しでも楽しんでいただけたのなら、ブクマや★で応援だけでもしてくれると、でら励みになるがね。
それにしても、『南極超辛』までの道のりは長かったがね。
でも、その甲斐あって再現は完璧だったがね。
さすがタクヤくんだがね。
次は、甘さの最高峰までオレを連れてってちょーよ!
なに?
「登らねぇよ!」だて?
またまた〜、ツンデレなんだから。
山があったら登るのが、人の道というものだがね!
――シャチョー




