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第五十七話:南海の幽霊船(後編)

――前編あらすじ。


 シャチョーが露店で買った小瓶から、南の拡張パック解放クエスト『南海の幽霊船』が発生した。


 攻略組は大所帯で瓶の世界へ突入。

 幽霊船の上で奇妙な船長と出会い、襲いかかる巨大な海魔『クラーゴン』を撃退する。


 だが、船長は笑って告げた。

 それは、ただの大ダコにすぎないのだと。


* * *


 シルヴァノールに戻ったのは、アンだけだった。


 ミドリコもパリスも、戦士やハンターである。

 転移魔法は使えない。


 その点、魔法職ならば、自身のホームポイントへゲートで帰還することができる。


 さすがに地元だけあって、ノームの足取りはすぐにたどれた。


「プリンセスホテルですか……」


 高級ホテルというほどではない。

 だが、シルヴァノールでは上宿の部類に入る宿だった。


「100ppで足りますかねー?」


 アンはそう呟くと、ホテルに足を踏み入れた。


 ロビーの中央には、大きなシャンデリアが浮いている。

 配されたロウソクには、照度を落とした魔法の炎が灯されており、落ち着いた雰囲気を作っていた。


 目的のノームは、奥のテーブル席でお茶を飲んでいた。


「こんにちはー、ちょっといいですか?」


「なんじゃね?」


 ノームの老人は、値踏みするようにアンを上から下まで眺める。


「セレノスで売った商品についてなんですが……」


「悪いが休暇中なんじゃ。商談は出来んよ」


 追い払うように、片手を振る。


 けんもほろろで、何も聞き出せそうになかった。


(うーん、チャームは危険ですかねえ……)


 チャームで魅惑すれば、大抵の依頼は通る。

 だが、商人NPCはガード以上にレベルが高く、レジストされる可能性も高かった。


 そうなれば、敵対的な魔法を使われたと見なされ、攻撃されるかもしれない。


(なら、ケンタ様に教わった、あの手ですかね……)


「レディアント・ヴィサージュ!」


「レディアント・ヴィサージュ!」


「もひとつオマケにレディアント・ヴィサージュ!」


 アンは、カリスマアップのバフを自身にかけた。

 さらに、自身のローブや杖にも同じ魔法を重ねていく。


 カリスマバフは、本来なら重ね掛けできない。

 だが、装備にかけることで、効果を掛け合わせることができた。


(エレネ様にバレたら卒倒しそうですー)


 さらに、ノーム変身も入れて同族補正を活用する。


 すると――。


「いやあ、お嬢ちゃんみたいな高貴なお方と知己を得られるなんて、未来の大商人として光栄のみぎりです」


 ノームは急に手のひらを擦り合わせ、笑顔を浮かべた。


「お嬢ちゃん、なんでも聞いておくれ」


「では、遠慮なく。あのボトルは何処で手に入れましたか?」


「そ、そればっかりはご勘弁を。商売上の秘密でさあ」


「ふーん……まだダメですかー」


 アンは辺りを見渡した。


 ホールには、他に誰もいない。


 ケンタの言葉を、もうひとつ思い出す。


(『親密度MAXなら、チャームはほぼ抵抗されないんだ』でしたっけ……)


 禁断のカリスマバフ重ね掛けで、親密度はMAXだ。


 試してみる価値はある。


 ダメだったら、土地勘を活用して逃げればいい。


「チャーム!」


 ノームの目が、とろ〜んとゆるむ。


「お嬢様、なんなりとご命令を……」


「では、ボトルシップは何処で拾いましたか?」


「はい、お嬢様。アレは『ルーイン・ゴート』という酒場の暖炉の上で拾いました」


「それは拾ったと言いませーん……」


 アンは思わず苦笑する。


「もう一つ、瓶と一緒に入っていたものはありませんでしたかー?」


「はい、お嬢様。小さなソムリエナイフが入っておりました。宝石があしらってあったので、300ppで売れました」


「誰に売ったのですか?」


「はい、お嬢様。緋色の祭服の女性でしたぞ」


「あらあら、キーアイテムも瓶の中ですか……どうしましょう」


 アンは少しも困った様子を見せずに、困った困ったと繰り返した。


* * *


 海は凪いでいた。


 船は流されているのか、静止しているのか。

 比較物が海面しかないため、まるで分からない。


 空は厚い黒雲に覆われている。

 太陽がどこにあるのかさえ、見当がつかなかった。


『これは一荒れ来るぜよ』


 船長が、空を見上げて言った。


「いまさらだけど、センチョーさんは名前あるんかね?」


 シャチョーが尋ねる。


『ワレの名か? 千年さすらううちに忘れたわ。センチョーでも船長でも、キャプテンでも好きに呼ぶがよい』


「おんなじだがね……って、千年!?」


 シャチョーが目をむく。


「まさか、強大な魔物はもう千年待てとか言わないよな?」


 ケンタが、嫌な予感を振り払うように問う。


『そんな心配は不要ぜよ。奴は海そのものじゃからのお』


「海そのもの?」


 その瞬間だった。


 塊のような雨が、船を叩き始めた。


 稲光が人々の影を甲板に焼き付ける。


 凄まじい雷鳴が後から轟き、船体を震わせた。


「きゃあ! こ、この船に落ちないよね?」


 結が身をすくめる。


『マストによく落ちるぜよ』


「ええーー!」


 結は頭を抱えて、その場にしゃがみ込んでしまった。


『よかったら船室に入るぜよ。狭くて穴は空いとるが、甲板上よりましぜよ』


 船長の言葉に、プレイヤーたちは我先にと船室へ向かった。


 そして、ドワーフの群れはみっしりと船室に収まった。


「はわわ、ドワドワ♡」


* * *


 船体に空いた穴から、外の様子が見えた。


 天から叩きつけられる豪雨。

 それを受け止め、上下左右にうねる海面。


 時折、稲光で浮き上がる波は、刻々と姿を変える山脈のようだった。


「うわあ、この船沈んだりしないよね?」


『千年浮いちゅうき幽霊船ぜよ。沈んだら、ただの沈没船ぜよ』


「……誰かとおんなじこと言ってる」


 だが、それを裏付けるように、打ち付ける波は船内には入ってこなかった。


 船体の穴の部分にも、見えない障壁があるようだった。


「向こう側が見えるのに、不思議だね」


「これは一種のゾーン境界だな」


 ケンタが断言する。


「船室は外とは別ゾーンになってるんだ」


「あ、何かいる」


 激しく上下する波の隙間に、銀色の光を反射する何かが見えた。


「そう? 何も見えないけどな……」


 ケンタが目を凝らす。

 だが、視界を占めるのは黒い水の塊だけだった。


 ――その時。


 船体の穴を塞ぐように、吸盤付きの触手が巻き付いた。


 それは呼吸をするように蠢き、船を締め付け始める。


「さっきのと別個体? 大きいよ!」


「触手の感じがタコとちげーな」


 確かによく見ると、先ほどより太い触手は透明感があり、奥に星のような光が瞬いている。


「今度はクラーケンだな」


「イカの丸焼きにするには大っきすぎるね……」


 船体が、ミシミシと悲鳴をあげる。


「幽霊船はバラバラになっても幽霊船?」


「バラバラになったら、ただの板だな……」


* * *


 甲板に戻り、一行は船体に巻き付いた触手を撃退することにした。


「ゲソ一本、討ち取ったゾー!」


「こっちの脚も懲らしめでやったべ」


「こちらも撃退完了致しましたですドワワ♡」


(ドワワなのに!?)


 ――ようやく、クラーケンが船体から剥がれた。


 真っ暗な海上で、クラーケンの発光が青白く揺れている。

 それでもなお、巨体は幽霊船に追いすがろうとしていた。


「また来やがるぜ」


 タクヤが、すかさずデバフを叩き込む。


「鈍足化!」


「鈍重化!」


 クラーケンの巨体が、わずかに船から離れた。


 ――が。


 次の瞬間、クラーケンは吸い込んだ海水をジェット噴射のように吐き出した。


 巨体が海面を離れ、宙に舞う。


 そのまま触手を大きく拡げ、幽霊船へ飛びつこうとした。


「う、やべえ」


 ところが――。


 空中で船に覆い被さろうとしたクラーケンを、横から銀色の奔流が薙いだ。


「な、なんかに喰われた!?」


 長大な銀のうねりが、波間を縫うように幽霊船の周囲を取り巻く。


『きおったぜよ。あれが「強大な魔物」――』


 船長が、銀の波濤に向かって両腕を拡げて告げた。


『大海の主、リヴァイアサンぜよ』


* * *


「どどど、どうすんの? あんなの、この船一口でパクリじゃない?」


 結が、銀の海竜を見上げて声を震わせる。


「どうも、こうも、アレを倒さないと先へ進めない」


 ケンタは、荒れ狂う海面から目を逸らさずに答えた。


「ならば、行くしかないドワワ!」


(ドワワのまま決めゼリフ!?)


 『マジセラ』の面々が、内心で総ツッコミを入れる。


「結! 開戦だ!」


 ケンタも叫んだ。


 結はその声にうなずくと、鏑矢を番える。


 ゆっくりと打起こし、震える弓弦を押し開く。


 会。


 ――やがて、開戦の矢が放たれた。


 甲高い笛のような鳴音に、銀の海竜が首をもたげる。


「ひっ!?」


 その真っ赤に染まった眼光に、少なくないプレイヤーが硬直する。


「恐れるな! 自分を信じるんドワワ!」


「「お……おおっ!」」


(もうなんか、これもかっこよくなってきた……)


 皆が剣を構え、杖を上げ、矢を番える。


「アイシクル・コメット!」


 ナナが杖を掲げた。


 ウィザード最大級の攻撃魔法。

 氷の彗星が黒雲を破り、海面へ落ちる。


 轟音とともに水柱が砕け、着弾した周辺の海が広範囲に凍結した。

 白く閉ざされた海面の中で、リヴァイアサンの動きが止まったかに見える。


 だが――。


 リヴァイアサンは身を捩っただけだった。


 氷の海面が、ばきばきと砕け散る。

 銀の巨体はそのまま宙へ飛び出し、幽霊船の上を越え、反対側の海へ激しく着水した。


「あーん、私の最大魔法がああぁ……またなの? またレジスト祭りなの?」


 ナナが甲板の端で膝をつく。


「ナナさん! 海の生物には雷属性だよ!」


 ケンタの声に、ナナはじとっとした視線を送った。


「それ、結局別ゲーのネタだったとか言わない?」


 それでも、素直に試す。


「ライトニング!」


 稲光が走った。


 辺りを閃光が染め上げ、轟音とともに――。


 ズグワァラゴワガシャァァン!!


 ――幽霊船のマストに落ちた。


「きゃあ!」


『優秀な避雷針ぜよ』


 船長が、マストを頼もしげにぽんぽんと叩いた。


「わかってたわよ……どうせこんなことになるって……しくしく」


 ナナが肩を落とす。


「ケンタ! 矢も通らないよ!」


 結が叫んだ。


 見ると、結の矢は海面すれすれを飛翔して的中している。

 だが、硬質な銀の鱗に、すべて弾き返されていた。


「デバフも通らねえぞ……マジか」


 タクヤが顔をしかめる。


「近接の武器も届かないドワワ……」


 エレネが銀の海竜を睨み据えた。


「銀のお魚さんに、困ってしまってワンワンワワン♪」


 ジークの歌声が、嵐の中で妙に明るく響く。


 ケンタが顔を上げると、幽霊船の上にゲージが浮かんでいた。


 船の耐久度のようだ。


 もう、半分近くまで減っている。


「まずいな……」


* * *


「船長、ヒントをくれ……」


 ケンタが、絞り出すように船長へ問う。


『ほう……なぜ?』


「あんたが喋らないと話が進まないんだろ?」


 船長は、包帯に覆われた口元を愉快そうに緩めた。


『そうか、そうか、賢い子じゃのう。ほいたら教えちゃろう……千年こん船ん中で考え抜いた、八つの策を!』


「いや、ひとつでいいんだが……」


『そうかえ? 遠慮せんでもえいがぞ』


 まあよかろうと咳払いをして、船長は告げた。


『アイツは海そのものじゃ。海がある限り、無敵ぜよ』


「どういうことだ?」


「海の水を抜けばいいんじゃない? この前の青い杖とかで……」


「おお、そうか」


 ケンタはインベントリを探り、青い杖を取り出した。


―――――――――――――――――

【ブルー・アクア・ロッド】

使用効果:大量の水を入排出する。

―――――――――――――――――


 さっそく海面に向けて振るう。


【WARNING:対象は許容量を超えています】

【WARNING:処理を中断しました】


「ダメだ……さすがに海は無理っぽい」


(沈黙)


『ほいたら、二策目もいっちょくか?』


「……お願いします」


『押してダメなら引いてみよ。内がいかんがなら、外からいう手もあるがじゃ』


「外? 外で何をすればいいんだ?」


『三策目もいっちょくか?』


「……お願いします」


 ――結局、八策目まで聞いたところ。


「小瓶とセットのアイテムが必要ってことか?」


「そんなん、売ってなかったがね」


「ここでクエストをキャンセルするとどうなる?」


『幽霊船は、またさすらうのみぜよ』


(沈黙)


「また、小瓶探しからやり直しかね?」


「せっかく見つけたのに……くやしいね」


 ふと、ナナが手をあげた。


「私だけならゲート抜けても大丈夫?」


『それぐらいなら、かまんぜよ』


「ちょっと、アンちゃんから電波受信しちゃったから行ってくるわ」


「電波?」


「どうせ、ここにいてもゾンビより役に立たないもんね」


 そう言いながらゲートを詠唱すると、青い柱状の光が直立し、ナナの姿は掻き消えた。


* * *


 ウッドエルフのドルイドに送ってもらい、アンはセレノスの『ルーイン・ゴート』に舞い戻った。


 小瓶の前で待つことしばし。


 やがて入口に現れたのは、緋色の祭服をまとった魔女だった。


「ソウルリンクしすぎの後遺症が、まだ繋がっててよかったですー」


 アンがニッコリ微笑んで、ナナを迎える。


「頭の中に声が響いた時は、昨日のお酒が残ってるのかと思ったわよ」


 ナナの方は、苦笑まじりだった。


「で、これが必要なんだって? ワインでも開けるの?」


 ナナが取り出したのは、紅の宝石があしらわれたソムリエナイフ。


「いーえ、この小瓶を開けるんですよー」


「あ、なるほど! 水を抜けば海水がなくなる?」


「そういうことですー」


 ふたりは、ニヤリと笑い合った。


 アンは受け取ったソムリエナイフで蝋封を切り取り、スクリューをコルクに捩じ込む。


 テコの原理で、コルクを一気に引っ張り出した。


 そして、小瓶を傾ける。


 ――テーブルの上に、小さな海が広がった。


「あらら……」


* * *


 突然、船が大きく傾いた。


 いや――。


 海面が、傾いていた。


 当然、その上に浮かぶ幽霊船も、甲板も、まとめて傾く。


「うわー!」


 ケンタは、とっさに船べりへしがみついた。


「うおお!」


「すべるゾー!」


「でらツルツルだがね!」


「あかん、止まらんわ!」


「ツルツル〜、まるで滑り台♪」

 

 甲板を滑ってきた仲間たちが、そのままケンタの上へ重なる。


「ドワワ〜♡」


 最後に、ドワーフ姿の聖騎士まで重なった。


「つ、つぶれるって――」


 そんな感じで耐えること、しばし。


 やがて、大きな衝撃とともに、船の傾きがぐらりと揺り戻された。


『座礁したぜよ』


「いや、海の底についたんだ……」


 ケンタが、ビシャモンの下から告げる。


「何故か、海水がなくなってる」


「ということは、リヴァイアサンが弱ってるかも?」


 結が、マストに抱きついたまま声を上げた。


「おお! それはチャンスだがね!」


 ヒロミの尻の下で、シャチョーが叫ぶ。


「でも、見当たらないわよ」


 マストの上に腰掛けたカグラが、周囲を見渡して言った。


「水平線が地平線に変わっちゃったけど、魚一匹も見えないわ」


『海の底っちゅうことは、沈没船ちゅうことになるがかね?』


 一同は、妙なショックを受けている船長を見つめた。


「これ、クエストはどうなるんだ?」


『リヴァイアサンを倒さんことには、終わらんぜよ』


「居ないものを倒せと?」


 ケンタは、ビシャモンの腹の下で考え込んだ。


* * *


 瓶の外。


 『ルーイン・ゴート』の大きなテーブルの上では、小さな海があふれ続けていた。


 こぼれた水はテーブルの縁から滝のように流れ落ち、床の上へと広がっていく。


「布巾はどこかしら?」


 アンが、店内を見回す。


「私に任せて!」


 ナナが腕まくりをして言い放った。


「火加減なら自信あるんだから!」


 胸を張り、濡れたテーブルへ向かって杖を掲げる。


「ファイヤー・ストーム(弱火)」


 吹き抜けたのは、熱を帯びた乾いた風だった。


 テーブルの上を覆っていた小さな海は、瞬く間に干上がる。

 水気を吸った木目だけが、そこにうっすら残った。


「でも、まだ床が……」


 ぴちょん。


 どこかで雫が落ちる。


 部屋の隅に立てかけられたモップを見つけ、アンがそちらへ踏み出した、その時だった。


 ――プチっ!


「あらあら、なんか踏んじゃいましたー」


 その瞬間――。


 全世界に、鈴を鳴らしたように涼やかな声が響いた。


【おめでとうございます! 南の拡張パック、『ウェルカム・トゥ・ザ・ロストワールド』が解禁されました♪ ただいまから、セレノス港から南の大陸への定期便が就航致します】


 そして、本物の鈴の音が高く鳴る。


 シャーン。


【遺跡と密林の大陸を、是非、お楽しみください!】


 ――同時に。


 『ルーイン・ゴート』の濡れた床。

 アンの足元で、小さな光の粒子が淡くほどけ、消えていった。


「お、もうリヴァイアサンを倒したんだ。みんな、やるわね」


「リヴァイアサン? すごいですー」


 ナナとアンは、ぱん、と手を打ち合わせて喜んだ。


* * *


 瓶の中にも、解禁アナウンスは届いた。


【おめでとうございます! 南の拡張パック、『ウェルカム・トゥ・ザ・ロストワールド』が解禁されました♪ ただいまから、セレノス港から南の大陸への定期便が就航致します】


 そして、本物の鈴の音が高く鳴る。


 シャーン。


【遺跡と密林の大陸を、是非、お楽しみください!】


「……終わったのか?」


 ケンタたちは、腑に落ちない顔で周囲を見回した。


 船長だけが、満足そうに手を叩く。


『お見事ぜよ』


* * *


 一行は、首を傾げたまま『ルーイン・ゴート』へ帰還した。


「まあ、拡張パック解放には成功したんだ。港に行こう」


 ケンタの一声で、オオオニ組は再びドワーフ姿になる。


 その横で、エレネも当然のようにドワーフ姿のまま歩き出した。


 マジセラの面々は、もう何も言わなかった。


* * *


 セレノス港の船着場には、真新しい帆船が停泊していた。


 乗船口に立つ海兵服の男が、恭しく手を差し出す。


『海図を頂けますか?』


 同時に、ウィンドウが開いた。


――――――――――――――――――――――――

【南の大陸航路】【南の扉Ⅱ】

依頼者:定期船船長

依頼内容:

南の大陸への海図を渡してほしいぜよ。

そうすれば、南への航路が開けるぜよ。

難易度:★

報酬:定期便開通

――――――――――――――――――――――――


「え? 海図なんてないぞ――拾い忘れたか?」


「あのー、これですかね?」


 アンが、一枚の羊皮紙を差し出した。


「なぜか私のインベントリに入ってましたー」


 船員はそれを受け取ると、渡し板を指し示す。


『お嬢様方、どうぞ、ご乗船ください』


* * *


 乗船した一行を待っていたのは、首元までびしっとした真っ黒な詰襟の制服に身を包んだ壮年の男性だった。


「うわ、暑そう……」

 思わずもらした結のひとことに、男は帽子のつばに指を添え、穏やかに笑った。


『ワレは海の漢ゆえ、暑くなどないぜよ』


 そして沖を指して告げた。

 

『おまんら、よう来たのう。南の夜明けは近いぜよ』


* * *


──火星の衛星・フォボス、観測室。


監視者A「南の大陸、解放……」

監視者B「早いですね。一年はかかると想定していましたが……」

監視者D「東が和風なのはこの前聞きましたけど、南はどんな雰囲気なんですか?」

監視者C「ひとことで言えば、蒸し暑い密林やわ」

監視者D「へえ〜、新大陸の担当は誰がするんですか?」


(沈黙)


監視者C「あ、わてダイモスに用事が……」

監視者A「緊急の昼寝の時間だ……」

監視者B「私もやりかけのナンプレが……」

監視者D「ちょ、みなさん?」


――観測室にはひとつの光球だけが残された。


監視者D「タグ付与、#そして誰もいなくなった……」


そして、最後の光球もふっと消え去った――。


(おわり)


――第五十七話 あとがき


 最後まで読んでくださって、ありがとうございますー。

 『マジセラ』のアルケミスト、アンです。


 次回の『マジチー』は、今週金曜日のお昼頃に閑話を投稿予定ですー。

 銀行が大変なことになっちゃうらしいです。怖いですねー。

 そちらも読んでもらえるとうれしいです。


 少しでも楽しんでいただけたなら、ブクマや★で応援をしていただけると励みになりますー。


 私、今回はサポートに徹しましたー。

 瓶から水を抜くだけの、簡単なお仕事ですー。


 でも、ちょっと慌てて、床まで水浸しにしちゃいました(しょんぼり)


 そうそう、聞きました!

 エレネ様がドワ姿でも大活躍だったんですって?

 リヴァイアサンも、きっと一撃だったんでしょうね。


 愛の力は偉大ですー!


――アン

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