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閑話:ロード・オブ・ザ・リアル(3)(後編)

――前編あらすじ。


 ログアウトへの道を求めて旅を続けるハーフリングの四人組は、ドワーフの拠点『ノクタリム』にたどり着く。

 鏡職人の注文履歴を調べるため街を訪れた一行は、鍛冶屋見習いのクルミと再会し、彼女の相棒となった喋る魔剣『ワガハイ』と出会う。一行は黒鉄カレーで腹ごしらえをしたのち、ドワーフのクレリック、ガストンに案内されて、鏡職人ミラーの工房へ向かった。

 だが、肝心の注文ノートは森の奥の『SHOGUN BOARD』で紛失したという。たどり着いた先にあったのは、巨大な将棋盤。駒に乗ることで操作できると判明し、一行はついに盤上のゲームを開始する――。


* * *


「クルミ、最初の一手はどうするんだい?」


 プラムが、当然のようにクルミへ顔を向けた。


「ええと、私っすか?」


「だって、クルミしかルール知らないじゃん!」


「よろしく頼むよ」


 プラムが両手を合わせる。


「勝てなくてもいいんだ。なるべく多く駒を動かしてくれ」


 ベリーが冷静に指示を出した。


「わかったっす、やってみるっす」


 クルミはこくりと頷き、盤へ向き直る。


 だが、いざとなると困ったように首をかしげた。


「これどうやって操作するんすかねえ?」


「乗ればいいんじゃない?」


 ププンが気軽に言って、右端の歩へぴょんと飛び乗った。


 すると駒が、ふわりと浮く。


「うわっ!?」


 歩はそのまま一マス前へ進み、盤上にぴたりと着地した。


 【先手:1六歩】


 盤の上に、半透明の表示がふっと浮かぶ。


「おおっ!」


 みんなの声が上がる。だが、感心している暇もなかった。


 対する後手の駒が、自動的に動く。


 【後手:3四歩】


「おおおっ!」


 今度は別の意味でどよめきが起きた。


 クルミは、なんともいえない顔で苦笑した。


「初手で端歩はないっす……」


 しかし、もう遅い。


「これ、ププンがプレイヤー認定されたようっす」


 クルミが動かしたい駒に乗ってみても、何も起きない。


「うそーん!?」


 ププンが目を丸くする。


「本当は7七の歩を、7六歩としたかったんすけど……」


 クルミが肩を落とした。


 将棋の駒の位置は、横を右からアラビア数字、縦を上から漢数字で表す。


 たとえば、先手の王の初期位置は5九、という具合である。


「じゃあ、ププンはクルミの指示で動いておくれ」


 プラムがすぐに方針を切り替えた。


「りょ〜かい! ププン様におまかせあれ!」


 胸を張るププンに、クルミが慌てて続ける。


「じゃあ、次は7六歩でお願いするっす」


 座標のあとに7六歩のように駒名を続けると、7六の位置に歩を移動するという意味になる。


「えっと、なな?……どこ?」


 数字ふたつだけで、さっそくププンは混乱した。


『ワガハイモ、ドコドコ?』


* * *


「そこっす、そこ! ひとつ右っす!」


「こっち? それともこっち?」


「違うっす違うっす、もっとしゃきっとした感じで指してほしいっす!」


 わちゃわちゃした末に、クルミが『ワガハイ』の切っ先で盤を示し、ププンがその通りに駒へ飛び乗る、という形でようやく落ち着いた。


『ワガハイ、ヤクニタツ』


 鞘の隙間から、ちょっと自慢げな淡い光がもれた。


 そして――。


「2四歩っす! 駒がぶつかって、いよいよ戦いの始まりっす!」


 クルミの声に合わせ、ププンが歩に飛び乗る。


 こちらの飛車先の歩が、相手の角頭の歩の前へ進み、互いに睨み合う形になった。


「えーこれだと次に取られるんじゃ?」


 向かいの歩がふわりと浮き上がるのを見て、ププンがぎょっとして慌てて駒から飛び降りる。


 相手の歩はそのまま滑るように進み、こちらの歩へ重なった。


 歩は、あっさり取られた。


「うわっ、取られた!」


 ププンが叫ぶ。


 だが、それだけでは終わらなかった。


 今しがた動いた相手の歩の上に、ふわりと光の粒が踊る。


 次の瞬間、そこから緑色の小鬼が飛び出した。


「ゴブリン?」


 棍棒をぶんぶん振り回しながら飛びかかってきたそいつを、クルミが一歩前に出て斬り伏せる。


「えいっ!」


 ピンクゴールドの鎧がきらりと光り、『ワガハイ』の黒い刃が小鬼をまっぷたつにした。ゴブリンは悲鳴を上げる暇もなく、光の粒になって消える。


「駒がぶつかるとモンスターが出るのか?」


 ベリーが腕を組み、低く唸った。


「ゴブリンくらいならどってことないよ」


 ププンが胸を張る。ついさっき駒から飛び降りたことは、もう頭から消えているらしい。


「みんなゴブリンならいいんだけどな……」


 ベリーの視線の先には、敵陣に控える大駒があった。


「確か、『飛車』は成ると『龍王』になるんだよな」


 その言葉は、場の空気をシン……と冷やした。


* * *


「ふむ、世界の半分をくれるやつか?」


 ナムが口の端を上げて、微妙な冗談を言った。


「くれるか知らんが、このゲームの意地の悪い仕様からしてドラゴンの可能性が高いな」


 ベリーは片眉を上げただけでスルーする。冗談に付き合う余裕はなかった。


「どどど、ドラゴン?! ムリ、ムリ、無理〜! おいら帰る!」


 ププンが慌てて走り回る。広場の端へ、端へ。だが、どこまで行っても同じ景色が続くだけだった。


「あれれ? おかしい、広場から出られない……」


 その瞬間、視界に硬い枠が浮かぶ。


――――――――――――――――――――――――

【あなたの手番です】

1.了解

2.はい

3.OK

――――――――――――――――――――――――


「なんだこりゃ? 実質、選択肢ないじゃないか」


 ナムがメッセージボックスを読んで目を細める。


「どうやら終局まで抜けられないようだね」


 プラムがため息をついた。


「続きを指すっすか?」


 クルミが確認する。


「なるべく敵の飛車を成らせないように出来るか?」


「やってみるっす。師匠譲りの鉄壁の穴熊でいこうと思ってましたが、飛車鹵獲を最優先に陣を押し上げるっす」


 クルミはププンを指示して、全体的に駒組を前に進める。

 前線が押し上がると、自陣が広くなり、持ち駒を打ち込まれるリスクが高まるが、相手の大駒を封じ込めやすくなる。


「ねえねえ、角の方に取られると何が出てくる?」


「さあな、あの隙間を縫う暗殺者っぷりは忍者かね?」


「ひいい、クビ飛ばされちゃうじゃん!」


 ププンは首を抑えて嫌そうな顔をする。


 そうこうしているうちに――。


「やりました! 王手、飛車取りっすよ!」


 角交換で手持ちにした角を、王と飛車の両方を狙える位置に打ち込む。

 相手はやむなく王を逃す。


「飛車取ったりー!」


 ププンが調子に乗って叫ぶ。


 が、飛車を取った角も相手の銀に取られる。


 そして、銀将の駒から現れたのは――優美なシルエット。

 白銀の鎧を纏ったハイエルフの女性である。


「うちのギルマスそっくりドワん」


 ガストンが目を見張る。


「ほんとだ、エレネ様そっくりだね」


 ププンも同意するが……。


「笑ってる場合じゃないっすよー、あの人のコピーだったら、ドラゴンの方がましっす」


 剣を構えるクルミだったが、明らかに格上の圧力を感じ、冷や汗が背を伝う。


* * *


『ワガハイ、コノヒト、シッテル。コワイヒト……』


 構えた『ワガハイ』が、びりびりと微妙に振動している。


「武者震いって感じじゃないっすね」


 クルミが苦笑しつつ、剣を持つ手に力を込めた。


「落ち着いて、アレは偽物っす。その証拠に……」


 クルミは剣先を向けたまま、びしっと宣言する。


「メガネを掛けていないっす!!」


 おおっと、全員から納得の声が上がった。


「ほんとドワ! なら怖くないドワん!」


 ガストンまで勢いよく頷く。理屈は雑だが、心は軽くなった――はずだった。


 だが、偽物は機械的な動きではあるものの、剣技は同じであった。


『バーティカル・スラッシュ!』


 縦に振り下ろされるエレネもどきの剣。


 クルミは震える『ワガハイ』で弾き返す。金属音が、広場に乾いて跳ねた。


『ホリゾンタル・スラッシュ!』


 続けて横薙ぎに振るわれる剣閃。


「くっ……!」


 防戦一方のクルミ。盾のない両手剣使いは、剣で攻撃を捌くしかない。


『ダイアゴナリー・スラッシュ!』


 袈裟懸けの重い一撃を、大きいクロスガードがかろうじて受け止める。腕が痺れ、膝が沈む。


「グレーター・ヒール!」


 ガストンの治癒が、背中から熱を注ぎ込む。


 それでも、じりじりと追い詰められていく。


 何合目かの打ち合いの後――クルミはふと、違和感に気づいた。


「白銀の鎧が……なんか違うっす?」


 前面は完全にカバーされている。だが、側面と背中に、繋ぎ目の隙間がある。


「師匠の作った特製フルプレートじゃないっす」


 クルミはすぐに叫んだ。


「シーフさんたち出番っす! 銀将は横と後ろが弱点っす!」


「後ろからの攻撃なら任せてよ!」


 ププンが腰を落とし、すうっと背後へ回って影に溶け込む。


「ハイド!」


 ナムとプラムも、それぞれ左右へ散った。木の駒が並ぶ広場の端で、気配が薄くなる。


 正面のクルミだけが、囮のように残る。


『スラッシュ・オブ・ザ・ディヴァイン・ライト!』


 エレネもどきの剣が、光をまとって振り下ろされる。


 クルミは歯を食いしばり、両手剣でそれを受け止めた。


 ――その瞬間。


 エレネもどきが、一瞬だけ硬直する。


「「「バック・スタブ!!!」」」


 三方向から、低い叫びが重なった。


 三つの影が同時に滑り込み、繋ぎ目の隙間へ刃を叩き込む。大ダメージ技の三重奏が、見事に決まった。


 エレネもどきは、声も上げずに崩れ――光の粒子となって消える。


 同時に、クルミは『ワガハイ』を構えたまま、その場にへたり込んだ。


* * *


 偽エレネを撃破して、ようやくひと息つけるかと思った――その直後だった。


 盤の上に、冷たい表示が浮かび上がる。


【後手:4六角 王手】


「あれ? 何もないとこに駒が出てきたよ」


 ププンが不思議そうな顔で、打ち込まれた駒を眺める。


「将棋は取った相手の駒を使えるんすよ」


 クルミが息を整えながら答えた。


「えー、裏切り者じゃん!」


「そういうルールなんで……あっ!?」


 苦笑しかけたクルミだったが、次の瞬間、盤上を見て固まった。


「王手飛車し返されたっす……」


 飛車鹵獲を優先した結果、前へ押し上げたぶん自陣は薄くなっていた。そこへ、取られていた角が打ち込まれたのだ。


「ドラゴン怖いから飛車を逃せばいいんじゃない?」


 ププンが軽く言う。


「王手かかってるからダメっすよ」


「なんでー?」


「王将を取られたら負けなんですって……」


「えー! し、知らなかった!」


 ププンが本気で驚いた。


「そこからかよ……」


 ベリーが頭を振ってぼやく。


「でも負けたらダメなのかな?」


 プラムが声を上げる。


「負けたらろくでもない展開になりそうだが……」


 ナムが盤と周囲を見比べながら低く言った。


 クルミが盤上を睨む。


「でも、わざと負ける手は指せないようっすよ」


 王手がかかっている以上、指せるのは王を守る手だけだ。


 飛車を動かせる場所も、一箇所しかなかった。


 王将と敵の角の間――そこに割って入る位置だけである。


「……結局、飛車は角と交換になるっす」


 クルミが苦い顔で言う。


「タダで取られるよりましっす」


 ププンが言われた通り、飛車へ飛び乗る。


 飛車はふわりと浮き、王の盾となる位置へ滑り込んだ。


【先手:6八飛】


 次の瞬間。


 間を置かず、敵の角が襲いかかる。


 飛車は、あえなく取られた。


【後手:6八同角成】


 飛車を取った相手の角が、くるりと裏返る。


 その裏面には、朱で書かれた筆文字が記されていた。


 ――龍馬と。


* * *


 裏返った角行の上に、光の粒子が渦巻いた。


 淡く、だが不穏に明滅する光が盤上で絡み合い、やがてひとつの輪郭を結ぶ。


 そこに現れたのは、不思議な毛並みの一角獣だった。


 ユニコーンのような純白ではない。かといって、赤でも青でも金でもない。見る角度によって揺らぎ、そもそも色という概念そのものが曖昧になるような、幻めいた毛並みである。


 逞しく伸びた脚の先には、雲をまとった馬の蹄。


 その蹄は地を踏まず、雲を踏みしめるように宙に浮いていた。


 角のある頭部は龍頭。


 細い髭がぴくりと震え、全身を青白い電荷が走る。


 頭上のタグを見るまでもなかった。


 瑞獣――『麒麟』である。


「やばい、強そう……」


 ププンがじりっと後ずさる。


「普通は吉兆なんだけどな……」


 ベリーが冷や汗を浮かべて告げた。


「拡張パックの看板クラスのモンスターだ……」


「そ、それって、やばい?」


「相当やばい」


 その瞬間だった。


 ププンの目の前に、青白い雷撃が落ちた。


 ズドン!


「ひゃああ!」


 思わず尻餅をつく。


 さらに追撃。


 慌てて四つん這いで逃げ出したププンの背後へ、雷が連続して突き刺さる。


 ズドン! ドン! ドン! ドドドッ!


「おいら、なんで狙い撃ちされてるのー!?」


 泣きそうな声で逃げ回るププンを追う麒麟の隙を突き、後ろからナムが鋭く踏み込んだ。


「バックスタブ!」


 だが、麒麟はその一撃を許さなかった。


 後ろ脚がしなやかに跳ね上がり、ナムをまともに蹴り飛ばす。


「がはっ!?」


 横から同時に突き込んだプラムも、いななきとともに振るわれた角から走る電荷を浴び、弾かれるように吹き飛ばされた。


「うわっ!」


「どどど、ドワーしたらいいドワ?」


 ガストンまで慌てて走り回る。


「まだ詰んでないっす」


 クルミが『ワガハイ』を振りかぶった。


『バーティカル・スラッシュ!』


 縦一閃。


 黒い刃が真上から叩き込まれ、ププンを追っていた麒麟がぴたりと足を止める。


「私、まだ何もスキルないっすけど?!」


 決まったスキルに、クルミの方がびっくりした。


『ワガハイ、ガクシュウガタ!』


「おー! なんかわからんけど、すごいドワ」


「スキルを学習出来るってことか?」


 ベリーが感心したように『ワガハイ』を眺めた。


「すごいっす! いけるっす!」


 クルミが目を輝かせ、麒麟へ向かって突進する。


『ホリゾンタル・スラッシュ!』


 だが、麒麟は器用にバックステップしてかわす。


『ダイアゴナリー・スラッシュ!』


 今度は角でいなされた。


「うー、決め手に欠けるっす」


 麒麟は頭を振って、低くいなないた。


 次の瞬間、再びその全身へ雷光が集まりつつあった。


* * *


「くっ……『ワガハイ』! 何か大技はないのか?」


 ベリーが麒麟から目を離さずに問う。


『ワガハイ、アト、クロイノ、ワザダケ』


「黒いの? どういう意味だ?」


「あれっす、マスクでダークエルフに変身したエレネ様が使った技じゃないっすかね」


 クルミがはっとしたように言った。


「なるほど、それ、いけないか?」


 ベリーが『ワガハイ』へ問い返す。だが、返ってきた声はつれない。


『クルミ、クロイナイ、ムリ』


「私じゃ使えないってことっすか……」


 クルミが目に見えて肩を落とした。


 そのときだった。


「いや、いける!」


 ベリーが突然、声を張り上げた。


「ププン! マスクを出せ!」


「えっ? えっ?」


 訳がわからないまま、ププンは言われた通り鞄をがさごそと漁り、『闇妖精のデスマスク』を取り出して放り投げる。


 受け取ったクルミは、ぽかんとその黒いマスクを見つめた。


「クルミ! それを被るんだ!」


「え? あ、はいっす」


 素直に頷き、クルミはそのままマスクを顔に当てた。


 ――白い肌が黒曜の輝きをまとい、短い髪が白銀に染まって揺れる。


 銀の瞳が麒麟を正面から見据えた。


 クルミは『ワガハイ』を低く構え、切っ先を地面すれすれに走らせる。


 先程まで重々しかった両手剣が、まるで別物のように軽々と空気を裂いた。


『スラッシュ・オブ・ザ・ダークネスフレイム!』


 黒炎をまとった『ワガハイ』が、麒麟の纏う雷光をはらい、その美しい毛並みを焼く。


 麒麟は驚いたように高くいななき、たたらを踏んで後退した。


「な、なんか……快感っす」


 クルミは『ワガハイ』を天へ向けて掲げた。


「雷鳴の神の名を以って命ずるっす……」


 切っ先の指す天上で、黒雲がぐるりと巻き起こる。


 ――ズグワァラゴワガシャァァン!!


 落雷が盤上を白く染めた。


 『ワガハイ』の刀身が電荷を帯び、青白く輝く。


「真の雷撃を味わいなさいっす!」


『スラッシュ・オブ・ザ・トゥールース!』


 振り下ろされた電光の軌跡は、真っ直ぐ麒麟へ奔った。


 まず、雷角が断たれる。


 続いて返す刀がたっぷりと溜めを作り、肩口から斜めに麒麟の身体を深く切り裂いた。


「あは、なんか楽しくなってきたっす!」


 ダークエルフサイズとなったクルミは、両手剣である『ワガハイ』を軽々と振り回し、そのまま麒麟へ連撃を叩き込んでいく。


『ワガハイ、メガマワルッス』


「あは、あは、きゃははーっす♡」


 黒炎、雷光、銀の残像が入り乱れる。


 やがて――。


 麒麟はどこか納得のいかない顔のまま、ふっと光の粒子となって消え去った。


 後に残ったのは、笑いながら素振りを繰り返すクルミと、腰を抜かした仲間たちだけだった。


* * *


「すまないっす……調子に乗ってしまったっす」


 クルミがしゅんと頭を下げる。手の中の『ワガハイ』も、そっと撫でた。


「『ワガハイ』にもゴメンなさいっす」


「まあ、気にしないでよ。おかげで助かったよ」


 プラムが苦笑を浮かべつつ礼を言う。


『ワガハイモ、タスカッタヨ……』


 ようやく落ち着きを取り戻した一行は、再び将棋攻略へ戻った。


 盤上では、残る敵玉がじりじりと追い詰められていく。


「もう少しで詰むっす。でも、その前に……」


 クルミは盤の隅へ視線をやった。


 そこには、対局開始からずっと動かずにいた香車があった。


 クルミはププンに指示を出し、その香車を一マスだけ前に進めさせる。


 すると――。


「おっ、あった!」


 元のマスに、ぺたりと薄いノートが残っていた。


「ここだと思ったんすよ」


「どうしてわかったんだよ?」


 ププンが不思議そうな顔で聞く。


「香車は働いたら負けな駒っすから、ここまで見つからないなら、ここしかないっす」


「でもおかしいな、滅多に動かない駒の下になんでノートが入ったんだ?」


 ベリーが鋭く突っ込む。


 クルミは少しだけ困ったように笑った。


「師匠の得意戦法の鉄壁穴熊なら、囲いを作るのに香車を上げる必要があるっす」


「なんだよ、最初からその戦法なら、すぐ見つかったってことか?」


 ナムが嘆息まじりに言う。


「そういうことっすね……ミラーさんに得意戦法を聞いとけばよかったっす」


『ソウイウ、コトデアル』


「『ワガハイ』本当にわかってんのかよー」


 ププンがすかさず突っ込むと、刀身がうっすら赤みを帯びて光った。


『ワガハイ、ショウギモ、ガクシュウスル』


「おいらも学習するよ! 今度、勝負だ!」


 ププンが腕まくりをする。


「ププンじゃ、すぐ追い抜かれるな」


「おいらもそう思う……」


「自分で言うなよ」


 森の小鳥たちが首をかしげて見守る中、どっと賑やかな笑い声がいつまでも響いていた。


(おわり)


――閑話:ロード・オブ・ザ・リアル(3)(後編)あとがき


 最後まで読んでくださって、ありがとーっす。

 鍛冶見習いのクルミっすよ。


 次回の『マジチー』は、本編を来週火曜日のお昼頃に投稿予定らしいっす。

 結さんたちがペガサスを探すらしいっすよ。

 そっちも読んでもらえると嬉しいっす!


 もし少しでも楽しかったなーって思ってもらえたなら、ブクマとか★とか、ぽちっとしてもらえると励みになるっす。


 いやあ、面目ないっす。

 前回のエレネ様の様子を見てたのに、私まで闇堕ちしそうになっちゃったっす。

 してないっすよ? しそうになっただけっす!


 ――『ワガハイ』が背中で不規則に明滅する。


 ん? 『ワガハイ』、何か言いたいことあるっすか?


 ――シンっと明滅が止んで、音もしない。


 え? 「師匠は将棋が強いのか?」っすか?

 ……初心者の私とどっこいどっこいっすから、察してやってくださいっす。

 鉄壁の穴熊囲いは、鉄鍋の蒸し焼きになることが多いっす……たはは。


 それじゃ、またっす!


――クルミ

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