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第六十七話:氷獄に灯る炎(前編)

 中央大陸の東海岸。


 自由都市ヘスペリアでは、恒例のプレイヤー会議が終わろうとしていた。


「では、本日の会議はここまでとします」


 港に面した酒場『エンシェント・タートル』に、凛とした声が響く。


 南の大陸の拡張は成功し、レベルキャップも60まで解放された。


 数人の叙事詩武器クエストも進行し、装備の更新も順調だ。


 攻略は確実に進みつつある。


 その一方で、大きなイベントがいくつかの都市を襲い、オオオニ組などは全装備をロストした。


 ログアウトへの道を探しているハーフリングたちも、いまだ調査の先が見えない。


「はあっ……」


 議長のエレネは、思わずため息をついた。


「エレネ様、お疲れ様でした」


 赤毛のハイエルフの少女、アンが紅茶のカップを差し出す。


ありがとう(メルシー)、アン」


 温かい飲み物を一口飲むと、少しだけ心も温まった。


「なあ、会議も終わったことだし、次行こうぜ」


 下の方から声がかかる。


 白いローブの子供。


 いや、クエストの副作用で子供アバターに固定されてしまった『トーチ』のクレリック、ケンタだ。


 中の人はエレネより年上の三十代だったはずで、あるアクシデントの成り行きから、システム上はエレネの夫でもある。


「次ってどこに?」


 飲み会の二次会にでも誘うような言い方に、エレネは怪訝な顔をする。


「どこって、パラディン叙事詩クエスト第三章に決まってるだろ!」


 まだざわついていた会場の喧騒が、一瞬だけ遠のいた。


――――――――――――――――――――――――

【氷獄の不死魔導士】【パラディン叙事詩クエストⅢ】

依頼者:シルファン・ド・シルヴァノール

目的地:『吹雪の谷』

依頼内容:

まずは、氷の竜と炎の竜から鱗を入手して『龍紋の書』を作成せよ。

『吹雪の谷』に不死者と成り果てた古代の魔導士が投獄されている。

冷たい牢獄の封印が解ける前に、『龍紋の書』を以て彼を甦らせ、対峙せよ。

聖剣『シルヴァノール』に再び、火を灯すのだ。

クエストアイテム:氷竜の鱗、火炎竜の鱗

難易度:★★★★★★★

報酬:聖剣の火種

――――――――――――――――――――――――


 会場に残っていた吟遊詩人のジークが、リュートを軽くかき鳴らした。


「二次会行こうよ、ドラゴン退治〜♪」


* * *


「無理よ……全員レベル60のレイドグループができたとしても、ミスひとつで誰かが死ぬわ」


 エレネは首を縦に振らなかった。


「私個人の装備のために、そんな賭けはできません」


 それほど大きな声ではなかった。


 だが、その言葉は会場の隅々まで響いた。


 しかし、ケンタの左右の耳では、ただ間を通り過ぎただけのようだった。


「リッチーの方は1パーティで余裕だろ?」


 ケンタはそう言って、エレネに革袋を差し出した。


「鱗さえ手に入れば、ドラゴンと戦う必要はないさ」


 受け取った革袋の中身を改め、エレネは目を見張る。


「あなた、これをどこで?」


 気になったアンも、横から袋の中を覗き込んだ。


 白と赤。


 二枚の大きな板のようなものが入っている。


「これ!? まさか、フォウロンとダイロンの鱗?」


 アンが思わず声を上げる。


「簡単さ。フロストホルンとアシダリアのNPC商人が売ってたんだ」


 ケンタはニカッと笑い、人差し指を立てた。


「それを、ベルウッドとカグラがそれぞれ見つけてくれたってわけさ。きっと、ベータの時の在庫が残ってたんだ」


 EOFでは、プレイヤーが売った戦利品が、買い取ったNPC商人の在庫として販売リストに並ぶ。


 オープンベータでは、エレネたちも何度か二大ドラゴンを攻略している。


 このゲームの運営の甘さを考えれば、ベータの時の在庫が残っていても不思議ではない。


「なるほど、本当なのね? また、変なバグを使ったりしてない?」


「うむ、店で買えたのは本当だ」


 ケンタはひとつうなずくと、エレネの腰に下がった剣を指差した。


「それに、その剣に炎を取り戻したいだろ?」


 エレネは、ここまで育ててきた剣――『シルヴァノール』を見つめる。


 しばし考え込み――


 やがて、顔を上げた。


「わかったわ、行きましょう!」


 エレネは剣に手を添え、静かに立ち上がった。


* * *


 少し時間は遡る――。


 『吹雪の谷』の奥、バーバリアンの拠点『フロストホルン』。


 村を囲む堀の手前で、ケンタがベルウッドに何かを手渡していた。


「これを宿屋の主人に売ればいいだべか?」


「そうだ。水魚の鱗を255個売って、最後にこの竜舌蘭を1個売ってくれ」


「何気に大変なんだべな……」


「売る時、個数を指定できるさ」


 ケンタは親密度の関係で、フロストホルンには入れない。


「全部売ったら、取引窓を開き直してくれ。そうしたら、一番下に白い鱗が生まれてるはずだ。そいつを買ってくれ」


「わがっただ」


 そう言って、ベルウッドは堀を渡るイカダに乗り込んだ。


* * *


 ダークエルフの拠点であるアシダリアは、ラストドラゴン、ダイロンの巣穴『ソルフレイムの溶岩窟B』に程近い。


 そのアシダリアの名酒場、『ノクターナル・チャリス』に珍客が訪れていた。


「なんだよ……」


「いや、白ローブな上、チビなダークエルフってスクショ案件かと思って……」


 両手の人差し指と親指で四角い枠を作っているのは、カグラである。


 その四角い疑似ファインダーに捉えられているのは、『闇妖精のデスマスク』でダークエルフに化けたケンタだった。


 ダークエルフになっても、チビ化バフの影響は変わらなかった。


「で、これを売ればいいわけ?」


「うん、頼むよ。ここまで来られたけど、取引には親密度が足りなかったんだ」


「全部売ったわよ」


「じゃあ、取引窓を開き直してくれ」


「はいはい……」


「それで、一番下に……」


「まあ、ダイロンの鱗じゃない! こんなバグがあったのね……って、これパラディンエピック用よね?」


「う、うむ……」


「バグ産じゃ、エッちゃんは受け取ってくれないわよ」


「まあ、その辺はなんとかごまかすよ」


 ニカッと笑う、チビダークエルフであった。


* * *


 エレネはアンを従えて、セレノスへやって来た。


「南の拡張パック解放の時以来ね」


 中央広場に足を踏み入れたエレネは、賑やかなセレノスの街の雰囲気に微笑んだ。


「せっかくだから、市場通りにも寄りませんか?」


 アンが拝むように手を合わせると、エレネは微笑みを苦笑に変えた。


「目的のNPCを見つけて、用事を済ませたらね」


「やったー。じゃあ、張り切って探しましょう」


 二人は、二種の竜の鱗から『龍紋の書』を作るために、ここセレノスへやって来ていた。


 探すのは、『門前の守銭奴』と呼ばれる商人NPC。


 いつも苦虫を噛み潰したような顔をしていると聞いている。


 ――数刻後。


 見つからない。


 にこやかな顔で少女にお茶を出している商人はいたが、噂とは違いすぎる。


「困ったわね……やっぱり、『ルーイン・ゴート』に寄りましょうか?」


「はい、それがいいです。結ちゃんに聞いてみましょう」


 そう言って、二人は同じゾーン内にある『トーチ』の根城、『ルーイン・ゴート』を目指した。


* * *


「門前の守銭奴?」


 結は尋ねられた途端、目を丸くした。


「あはは、それってモジャールさんだよ」


「モジャールさん……ですか?」


「苦虫ガリッってヒントじゃ見つからないよね。今や、『門前の好々爺』の方が似合ってるもの」


 結局、結について来てもらって、ようやく元『門前の守銭奴』を特定することができた。


「よし、渡すわよ」


 エレネは二枚の鱗を取引窓に置いて、『譲渡』ボタンを押し込んだ。


 すると――。


「なんじゃ? これは? わしには不要なものだ」


 突き返された。


「ああ、忘れていたわ……」


 今度は取引窓に1000ppも一緒に置く。


「おお、十分な報酬じゃ。製本業者に頼んでやろう」


 そして、モジャールは街の奥へ脱兎のごとく走っていった。


 それを呆然と見送るエレネ。


「1000ppに目が眩んで、戻ってこないとかないわよね?」


「製本の仲介だけで1000ppですものねえ」


 アンが、不安にしかならない感想を告げる。


「それに、元々は守銭奴ですからねえ」


「大丈夫だよ。モジャールさんはナツキの知り合いに後ろ暗いことはしないよ」


「私もナツキちゃんの友達認定されてるかしら?」


「微妙ですねえ。今から友達になりに行きますか?」


「そうしようかしら……」


 エレネが冗談を真に受けている間に、モジャールは戻ってきた。


 その手の中には、臙脂色の革で装丁された分厚い本。


 渡された本はずっしりと重く、エレネに待ち受ける死闘への覚悟を要求しているようだった。


* * *


 『龍紋の書』を開くと、見たこともない記号のようなものが、びっしりと並んでいた。


「全然読めないわ。どうやって使うのかしら?」


「そいつは、古代龍語エンシェントドラグーンだよ。人の頭じゃ理解できないし、発音もできない」


 前を歩いていたケンタが振り返り、そう解説する。


「そいつを、リッチーの目の前に突きつけるだけでいいんだ。物足りなければ、『目覚めよ! ジ・オリジン!』とでも叫んでおけばいいさ」


「何その呪文?」


 カグラが眉をひそめる。


「名前だよ。全ての魔法職の始祖、『ジ・オリジン』。今ある全ての魔法は、彼が作ったって言われてる」


「それがなんで牢屋に入れられてるんですか?」


 アンが不思議そうに尋ねる。


「永遠に生きることを求めて、自分自身を不死者にしちまったってことだから、勇者とかに化け物として封じられたんじゃね?」


「それより、氷獄の場所は本当にそれで分かるの?」


 エレネが、先頭を行くシャチョーの両手にそれぞれ握られた、L字の金属棒を指差す。


「こいつがスーッと開けば、何かあるんだがね!」


「さっきから、ずーっと同じとこグルグル回ってない?」


 結が真っ白な谷を見渡して言う。


 彼らは『吹雪の谷』を彷徨っていた。


 氷の檻の入り口は、いまだ見つからない。


* * *


 「何か、ダンジョンを探すための魔法とかないの?」


 エレネが自分の肩を抱きつつ尋ねた。


「うーん、センス系になんかあったっけ?」


 ケンタが考え込む。


「ネクロには『センス・アンデッド』ならあるわよ」


 カグラが手を上げる。


「その『爺おじん』ってアンデッドなんでしょ?」


「『ジ・オリジン』な。そんな魔法あったな。試してみようか」


「じゃあいくわよ。センス・アンデッド!」


 センス系の魔法は、術者の向きを一番近い検知対象へと向ける。


 カグラの体がくるりと回り、前に伸ばした髑髏杖がみなの後ろを向く。


 果たして、その方向には――カグラの召喚ペット、ホネキチがいた。


「使えねえがね……」


「そんなことないわ! ホネキチ、一旦お戻りなさい」


 カグラはホネキチを引っ込めて、再度詠唱する。


「センス・アンデッド!」


 くるり。


 正面には、雑魚のアイス・スケルトン。


「……やっぱダメだがね」


「結、追跡(トラッキング)スキルはどうだ?」


「うーん、リストに出てこないよ。屋外専用スキルだから、地下だとダメなのかも」


 ケンタは少し考えて告げた。


「仕方ない。この谷の雑魚アンデッドを掃除しようか」


 範囲からアンデッドを全て消せば、目的の『ジ・オリジン』だけが残るという理屈である。


 だが、雑魚は倒した側から再び湧いてくる。


 雪蜘蛛や白熊、雪ゴブリンに置き換わってくれればいいのだが、なかなかに時間と根気のいる作業であった。


 そして、数時間――。


「よし、今だ! カグラ頼む!」


「センス・アンデッド!」


 くるり。


 カグラの構えた杖が指し示した先は――。


* * *


 杖が向いた先は――。


 フロストホルン。


 バーバリアンの初期拠点で、『吹雪の谷』に唯一存在する村である。


「村の中ってことかね?」


「気付かないわけだ……俺たち親密度が最悪だから避けてたし……」


「私は親密度マックスだけど?」


 結が、ちょっと自慢げに言う。


「村のどこでしょうか?」


「奥の方だと、バーバリアンのガードに襲われそうね」


 カグラが、小さな髑髏の飾りがついた杖を掲げて続ける。


「いっそ、バーバリアンのNPCも掃除しちゃう?」


「「それは却下!」」


 数人の声が揃う。


「じゃあ、どうすんのよ!」


「インビジブルで行こう。アンちゃん頼む」


 透明化の魔法『インビジブル』は、ウィザード、マジシャン、アルケミストの三魔法職が使える。


 ちなみにネクロマンサーは、自分自身にだけ掛けられるインビジしかない。


 パーティプレイ推奨のEOFにあって、ネクロだけソロ用職業と言われる所以である。


 アンは全員に『シーインビジブル』を掛けると、続けて『インビジブル』を掛ける。


 『シーインビジブル』もないと、仲間の姿まで見えなくなってしまうからだ。


 一行は、そっと堀を渡るイカダに乗り込んだ。


 外から見ると無人のイカダが動いているのだが、特に怪しむNPCはいなかった。


* * *


 村の中を探索した結果、一番奥の岩壁に小さな祠が見つかった。


 しかし、祠の中にも裏側にも、何もない。


「カグラ、もう一度センス・アンデッドを頼む」


「はいはい。センス・アンデッド!」


 くるり。


 カグラが向いた先は、祠の後ろにある壁面の下方だった。


「この辺に階段か転送陣がありそうだな……」


「ねえ、この祠の中にデーンとある祭壇っぽいの、気にならない?」


「気になるが、押しても引いても動かなかったぞ」


「この本を置いてみたらどうでしょうか?」


 エレネが『龍紋の書』を掲げる。


 こころなしか、祭壇が光ったような気がする。


「試して損はないな。やってみてくれ」


 エレネは、そっと『龍紋の書』を祭壇に置いた。


 すると――。


 祭壇が奥へとスライドする。


「やったがね! 階段だがね!」


 祭壇の下に現れた階段は、暗い闇をたたえて、ずっと先まで続いていた。


「よし、行こう」


 ケンタたちは、狭い階段へ一人ずつ踏み込んでいった。


* * *


 アンの灯り魔法『ライト』を頼りに階段を降りていくと、四角い石で組まれた通路が、真っ直ぐに伸びていた。


「こりゃ迷わなくていいがね」


 一行は、その通路を真っ直ぐ進む。


 やがて通路は途切れ、大きな空洞へと出た。


 向かい側には、青白いブロックが積み上げられた壁がある。


「あれって氷じゃない?」


「あれが氷獄かしら?」


「それにしては、どえりゃあ豪華だがね」


 氷の壁には精緻な模様が彫り込まれ、その上部には、ずらりと彫像が立ち並んでいた。


 壁の向こうには、洞窟の天井を突き抜けるような優美な尖塔がいくつも建っている。


 そして、彼らの前には大きな氷の門扉。


 それは牢獄というより、氷の巨城であった。


* * *


 門には、閂も鍵もなかった。


 だが、その扉は大きさに相応しい重量だった。


「鍵は掛かってないのに、重すぎて開けられないがね……」


「困ったな。なんか魔法で……」


「ちょっと見せて」


 エレネが門に手を当てる。


「ふんっ!」


「おいおい、無理だって――」


 ゴンッ!


 白銀の騎士は肩を扉に打ち付け、そのままひたすらに押した。


 押す。


 押す。


 ゴゴッ!


 ゆっくりと、だが確実に扉が押し開かれていく。


「うおおおおっ!!」


 雄叫びとともに力を振り絞る。


 ゴゴゴゴッ!


 ゴォン!


 見事に扉は開いた。


「はぁ、はぁ……ほら、開いたわよ」


 ケンタもシャチョーも、開いた口が塞がらなかった。


「でらやばい女だがね……」


 ともあれ、一行は氷の城の前庭に足を踏み入れた。


 前庭には、左右に並んだ生垣に青い薔薇が咲き乱れていた。


「わー! すごいきれい!」

「ほんとですー! 青い薔薇なんて初めて見ましたー」

 結とアンが目を輝かせる。

 

 その生垣の間を、石畳の通路が奥に伸びている。


 途中には大きな池があり、アーチ状の橋が架かっている。


 橋の中央に差し掛かった時だった。


 異様な気配を感じ、ケンタは池の水面を覗き込んだ。


 そこでは、細長い巨影が悠々と泳いでいる。


 ネームタグは緑。


 その名前を読んで、ケンタの背中を冷たい汗が流れる。


『リヴァイアサン・ベビー』


「お、襲ってはこなさそうだな……」


 一行は、そーっと橋を渡って向こう岸に着いた。


 そこには、主城の大きな扉が待っていた。


* * *


「また扉、開ける?」


「開けなきゃ始まらないからな……頼む」


 再び、STR頼みで扉が押し開かれた。


 扉を抜けた先は、玄関ホールだった。


 人の気配はない。


 正面には大階段。


 踊り場の正面の壁には、大きな肖像画が掛かっている。


 母子像だ。


 抱いた赤子を優しく見つめる母。


 だが、その赤子は、こちらをじっと見下ろしていた。


「なんか不気味だがね……」


「人の肖像画を見て不気味とは、失礼だね」


 突然、ホールに声が響いた。


 一行が声の方向を追う。


 踊り場から左右に分かれて伸びる階段。その右側を、小さな影が降りてきていた。


 不思議な黒いローブ。


 光をすべて吸い込むかのような漆黒。


 それでいて、奥の方では星のような輝きが瞬いている。


 フードに隠れて、顔は見えない。


「おまえ……ジ・オリジンか?」


 ケンタは思わず問いかけた。


 ――答えは明らかだったのに。


* * *


「んー、かつてはそう呼ばれていたかな? でも今は、ただの生きる屍だよ」


 黒ローブ――ジ・オリジンは、いつの間にかケンタの目の前に立っていた。


 無詠唱での短距離テレポートだ。


 背丈はケンタと同じくらい。


 黒と白のローブが、鏡写しのように向き合う。


 だが、これだけ近づくと、フードの中身が僅かに見て取れた。


 干からびて、ひび割れた皮膚が張り付いた顎の骨。


 あまりに流暢に喋るため、忘れそうになるが、コレはリッチーなのだ。


「僕に用事があるのは、そちらのお姉さんかな?」


 ケンタの後ろで呆然と立っていたエレネが、慌てて手にした『龍紋の書』を前に突きつける。


「あはは、それの使い方も知らないんだね」


 ジ・オリジンが手をかざすと、『龍紋の書』がエレネの手を離れ、宙に浮かんだ。


「……ꙮχʘ≠∴ʒŋ∵θ……」


 内容を読んでいるのか、不思議な言葉が流れ出る。


 呆気に取られる一同を尻目に、ジ・オリジンは左手の人差し指をエレネに突きつけた。


「その腰の剣……燃え尽きたんだね……」


 ふと、遠くを見るように顔を上げる。


 フードの中の肌は、いつの間にか少年の肌を取り戻していた。


「永遠の炎を付与したのに、一体どんな戦いにその身を置いたのか……」


 ジ・オリジンは、少年の声で告げた。


「お姉さんたちは、その剣を蘇らせたいのだろうけど、簡単ではないよ?」


「もとより、覚悟の上です」


 エレネがきっぱりと答えて、剣を抜く。


「戦わねばならぬというなら、戦いましょう……」


 ハイエルフの聖騎士は、白銀の聖剣の切っ先を真っ直ぐ前に向けた。


* * *


「おー、怖い怖い。子供に剣なんて向けるものじゃないよ」


 ジ・オリジンは、おどけるように数歩下がると、フードを外した。


 その下の顔には、不死者の面影はない。


 幼い少年としか見えなかった。


「お姉さんたちには、試練を受けてもらわないといけない。そういう決まりなんだ」


「決まり? クエストの設定ってことか……」


 ケンタがつぶやくと、ジ・オリジンは少し悲しそうな顔をした。


「設定……そうだね。君たちの言葉で言えば、設定だ」


「『お姉さんたちには』って言ったわね? 私だけじゃないの?」


 エレネは剣を構えたまま問いかける。


「うん、そうなんだ。同行者の資質も大事なんだよ」


 そう言うと、少年は左手を上げて指を鳴らした。


 パチン。


 さらにもう一度。


 パチン。


「何を……?」


 ケンタが振り返ると、エレネとアンが消えていた。


 パチン。パチン。パチン。


 さらに結が、カグラが、シャチョーも消える。


「君もだよ」


 パチン。


 ケンタも、その場から消え去った。


(つづく)


――第六十七話 あとがき


 最後まで読んでくれてありがとうございます。


 ネクロマンサーのカグラよ。


 後編は来週火曜日のお昼頃に投稿予定です。

 つづきも読んでもらえたら、うれしいわ。


 もし少しでも楽しんでもらえたなら、ブクマや★で応援をしていただけると励みになります。


 それにしても、あの坊やったら。

 私がネクロマンサーだからって、あんなところに飛ばすなんて、ずいぶんベタなことしてくれるわよね。


 あら、これじゃ来週の予告になっちゃったかしら。


 でも、きっとあの子の中身も、ケンタとおんなじオッサンよ。


 だったら――。


 『爺おじん』で、ぴったりじゃない?


 ね?


――カグラ


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