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閑話:ロード・オブ・ザ・リアル(4)(後編)

――前編あらすじ。


 鏡の手がかりを追い、ノームの地下都市アルギュレアを訪れたプラムたち。


 そこで巨大蜘蛛に襲われ、仲間たちはその巣窟となったログ爺の家へ引きずり込まれてしまう。


 助けを求めた細工師ティンクは、たらい回しの末、家政婦ミルクルを連れて戻ってきた。


* * *


 蜘蛛には、八つの目があった。


 だが、それほど視力がいいわけではない。


 そのかわり、張り巡らせた糸を通して伝わる振動によって、広範囲の様子を、目で見る以上にはっきりと感じ取ることができた。


 先ほど引きずり込んだ二匹の餌は、糸でしっかりと巻き、地下室の天井から吊るしてある。


 食料の保存を終えたあと、縄張りへ侵入してきた三匹は、それぞれ別の部屋へおびき寄せた。


 各部屋に張り巡らせた糸を使えば、造作もなかった。


 三匹はそれぞれ、台所、居間、寝室に吊るしてある。


 今日は大漁だ。


 普段食べているネズミの何倍も大きな獲物が、五匹。


 これで、しばらく栄養には困らないだろう。


 机の上にあった紫色の液体は、もう残っていない。


 あれを摂取できなくなってから、身体が少し縮んだような気がする。


 地下室の棚や物置も探してみたが、同じものは見つからなかった。


 あの液体のことを思い出すと、身体が震える。


 自分が変わっていくことが、恐ろしくもあり、楽しくもあった。


 小さな羽虫を食べていた自分が、今では小動物を食べている。


 そして今度は、さらに大きな獲物を確保した。


 牙を伝って落ちた消化液が、床に穴を穿つ。


 どんな味がするのだろうか。


 実に楽しみである。


 そろそろ、どれか一匹に牙を突き立てようと考え始めた、そのときだった。


 上階に、侵入者の気配がした。


 蜘蛛はいくつかの糸から伝わる振動を確かめると、上階へ向かった。


 今日はさらに、餌を溜め込むことができそうだ。


* * *


 ティンクとミルクルは、居間へとたどり着いた。


 そこでは、身体を糸でグルグル巻きにされたハーフリングが、天井からぶら下がっていた。


「あわわ、爺さんのお友達だ!」


 ミルクルは割烹着のポケットから裁ち鋏を取り出した。


 そして跳躍すると、糸を一閃する。


「イテテッ!」


 床へ落ちてきたハーフリングは、プラムだった。


「ああ、よかった。生きてるみたい」


 ティンクが慌てて駆け寄る。


 ミルクルが身体に巻きついた糸を巻き取ると、プラムはようやく解放された。


「ありがとうございます。助かりました……わ!」


 ペコリと二人に頭を下げたプラムだったが、居間の入口を見て固まった。


「どうしました?」


 ティンクが思わず後ろを振り返る。


 そこには、入口を塞ぐようにして、巨大な蜘蛛が一匹、こちらの様子をうかがっていた。


「ひいいっ!」


 ティンクは飛び上がると、歌うように訴えた。


「まずいよ♪ まずいよ♪ 僕はまずいよ、食べないで〜♪」


* * *


 蜘蛛は身体を半回転させると、尻側からティンクへ向けて白い糸を放った。


「ひいいっ、食べないでってば〜! 誰か、助けて〜!」


 ティンクは糸に巻き取られながら、必死に助けを求める。


「わわわ、どうしよう?」


 慌てるプラムの横を、小さな影が飛び出した。


 ミルクルである。


 その手には、先ほどの裁ち鋏ではなく、棒状のものが握られていた。


 後ろ脚で糸を手繰っている蜘蛛の横まで駆け寄ると、ミルクルはすかさず、その棒状のものを蜘蛛の頭部へ振り下ろした。


 スパーン!


 鈍器にしては、ずいぶんと軽い音が響いた。


 だが、効果は覿面だった。


 蜘蛛はびっくりしたように飛び上がると、脚を縮こませた。


 さらに、ミルクルが棒を振り下ろす。


「しっ! しっ!」


 二回、三回――。


 音は軽く、それほどのダメージではなさそうに見えたが、蜘蛛は不思議なほど大袈裟にジタバタし、やがて逃げ出した。


 糸で縛り上げられたままのティンクが、床の上で歌う。


「神様、仏様、家政婦さまあ〜♪」


* * *


 蜘蛛は、アレで叩かれ、追い回された記憶を残していた。


 身体が大きく、強くなった今でも、その恐怖の記憶は呪縛となって蜘蛛を縛っている。


 なぜか、体液の圧力がうまく調整できない。


 脚をうまく伸ばすことができず、蜘蛛は必死に廊下を進み、階段を下りていった。


 やがて、床に穴の開いた地下工房へと逃げ込む。


 漂う薬品の匂いを感じると、少しだけ気分が落ち着いた。


 穴から逃げ出したいという衝動に駆られる。


 だが、まだ身体が大きすぎて、穴を通ることはできない。


 代わりに部屋の入口を糸で塞ぐと、隅の天井から糸でぶら下がった。


 そうしているうちに、徐々に落ち着きが戻ってきた。


 ふと、同じように天井からぶら下がる、二匹の保存食が目に入る。


 腹が減った――。


* * *


 ティンクたちは台所や寝室も探索し、ナムとベリーも解放した。


「ふー、助かったぜ」


「こんな方法があるとはな……」


 ベリーは、ミルクルの糸巻き機を眺めながら感心していた。


「それより、さっき大蜘蛛をひっぱたいた武器はなんですか? すごい効果だったけど」


 ようやく落ち着きを取り戻したプラムが尋ねる。


「武器? これのことかい?」


 ミルクルは、再び先ほどの棒状のものを取り出した。


「これはただの『丸めた新聞紙』だよ。害虫にはこれが一番さ」


 そう言って、腹を揺らして笑う。


「それって、分類は鈍器で合ってる……のか?」


「少なくとも斬撃系じゃねえな」


「それより、ププンとログ爺はどこだろう? 家の中はあらかた探したんだけどなあ」


 プラムが首をひねる。


「この街の建物には、大抵地下室があります」


 ティンクが説明した。


「ノームは地下暮らしが落ち着くのです」


「なるほど。階段を探そうか」


 プラムは廊下へ出ると、左右を見渡した。


「あっちだ!」


 家の奥へ行くほど、蜘蛛の糸が厚くなっていた。


* * *


「ううっ……あれ? 動けない……」


 意識を取り戻したププンは、自分が糸で縛られていたことを思い出した。


「あっ! 爺さん、起きてよ!」


 ぶら下がった身体を揺らし、隣に吊られているログ爺を起こそうとする。


「うほほい、なんじゃ? もう朝飯かの?」


 ログ爺は寝ぼけ気味に反応したが、身動きが取れないことに気づき、ようやく状況を思い出した。


「そうじゃった。蜘蛛に捕まったんじゃった」


「爺さん、この糸、なんとかできないの?」


「うーん、デバフ扱いではなさそうじゃ」


 ログ爺は、ププンのHPゲージの下にあるバフアイコン欄を確認して唸った。


「魔法でキャンセルは無理そうじゃの」


「うう、縄抜けスキルとか、ないしなあ……わ!」


 ププンが部屋の隅を見て固まった。


「どうしたんじゃ? ……ぬ!」


 ログ爺も固まった。


 ……もとより、二人とも動けないのではあるが。


 部屋の隅には、こちらをじっと見つめる大きな蜘蛛がいた。


「爺さん! なんとかしてよ、魔法は使えるんでしょ!」


「そうじゃ。縛られておっても、口は動くのお」


 ログ爺は何か使える魔法はないかと考えたが、ひとつの問題に気づいた。


「座れないと、詠唱スロットの入れ替えができんぞい」


 魔法は、十個ある詠唱スロットにセットしなければ使えない。


 そして、魔法書から詠唱スロットへセットするには、座って瞑想(メディテーション)状態に移行しなければならないのだ。


 縛られ、吊られた状態では、入れ替えは不可能だった。


「今セットしてある魔法で、なんとかするしかないのお」


「何が使えるの? 蜘蛛が睨んでるから、早くして!」


「うーんと、エンチャント・ブロンズ、エンチャント・シルバー、エンチャント・ゴールド、エンチャント・パール、エンチャント・ルビー……」


「全部生産用じゃない? なんで戦闘系のひとつもセットしてないのさ!」


「街中なんじゃから、仕方ないじゃろ」


 ログ爺は、ぷいと横を向いた。


「キャンセル・マジックとゲートは、魔法職の嗜みとして常備しとるぞ」


「足止め魔法も嗜みに入れてよ!」


 ふと、ログ爺が何かに気づいた。


「そうじゃ。ゲートすれば、ホームポイントに戻れるかもしれん……」


「じゃあ、助けを呼びに行ける? ホームポイントどこ?」


「今のホームポイントはセレノスじゃの」


「遠すぎ! 助けが来たときには、おいら食われてるよ!」


「そいじゃ、どうするかのお……」


 蜘蛛がゆっくりと、こちらへ向かって動き出したような気がする。


「うう、仕方ない。爺さんだけゲートで逃げてよ。みんなに、よろしく言っといてね……」


 ププンはぎゅっと目を瞑り、覚悟を決めた。


* * *


「ププン、爺さん! 無事か!」


 地下工房へ飛び込んできたのは、ナムだった。


 部屋の中央に吊られたププンとログ爺を見つけ、安堵する。


 だが同時に、二人へ近づく蜘蛛の姿も目に入った。


「やべえ! こいつを食らえ!」


 ナムは慌てて、手にしていた短剣を投げつけた。


「あっ! しまった! 俺の『アサシンズ・ダガー』があ!」


 レア武器を投擲してしまったことに気づき、ナムは頭を抱える。


 だが、その甲斐はあった。


 見事に命中した『アサシンズ・ダガー』が、蜘蛛を怯ませる。


 その隙に部屋へ飛び込んできたミルクルが、ププンとログ爺を床へ落とし、身体に巻きついた糸を解いていった。


「いてて、もう少し優しく降ろしてよお。お尻が二つに割れちゃうよ。あと、心の準備があるから、カウントダウンしてよ」


 ププンは、さっそく苦情を並べ立てる。


「うほほい、助かったのじゃから良いじゃろ」


「無事でよかったよ」


 プラムとベリー、ティンクも二人のそばへ駆け寄った。


「もう半分くらい食われてるかと思ったぜ」


「ドカンと命中♪ ドカンと落下♪ どかない蜘蛛さん〜♪」


* * *


「ところで、あの大蜘蛛って何者かな?」


 天井の隅でこちらを警戒する蜘蛛を見上げながら、プラムが疑問を口にした。


「言われてみると、こんな街中に強力なモンスターが出るなんて、おかしいな」


 ベリーも怪訝そうな顔をする。


「きっと、イベント用のネームドモンスターだよ」


「そういや、名前を見る余裕もなかったのお」


「きっと、アルギュレア・グレート・タランチュラとか、クイーン・タランチュラとかだよ。お宝も期待できそう!」


 ププンが顔を輝かせる。


「ププン、お前はさっきまで食われかけてたんだぞ……」


 その調子のよさに呆れながら、ナムは大蜘蛛の頭上にあるはずのネームタグを探した。


「おかしいな。ネームタグがない……天井に重なって見えてねえのかな?」


 そうこうしているうちに、大蜘蛛は天井から下り、部屋の隅の床へ移動した。


 だが、やはり頭上にネームタグは見えない。


「おかしいな。やっぱ名前が見えねえぞ……」


「いや、俺には見えてる。ナムは設定のタグ表示がデフォルトのままだろ?」


 ベリーが大蜘蛛の頭上を見つめながら尋ねる。


「ん? ああ。デフォルトだとネームドしか表示されないんだっけ? いちいち雑魚の名前は必要ねえからな……もしかして、デフォだとイベントモンスターも表示されないのか?」


「そうじゃない……『□すべてのNPCのネームタグを表示』をチェックしてみろ」


「あ、ああ」


 ナムは言われたとおりに設定を変更した。


「え!? なんじゃこりゃ?」


 いかにもネームドモンスターに見えた大蜘蛛の頭上に、敵対を示す真っ赤なネームタグが浮かび上がった。


【a spider】


 雑魚中の雑魚。


 初心者エリアや街中にもいる、ただの蜘蛛であった。


* * *


「ただの雑魚が、なんであんなにでかくて強いんだよ」


「なにか原因があるはずだ……」


「ねえ、名前の下になんか表示されてるよ」


「それはただのバフアイコンだろ……いや、待て?」


 ププンの発見を聞き流しかけたベリーだったが、思い直して蜘蛛のバフアイコンを見つめた。


 三角フラスコから、紫色の液体が垂れる図案である。


「おかしい。ただの蜘蛛にバフが付いてる。魔法もスキルも使えないはずなのに……」


「誰かにかけてもらったんじゃない?」


「この家には、ほかに何もいなかっただろ」


「バフの名前と効果は?」


「えっと……」


――――――――――――――――――――――――


【秘薬 アルギュレアンZ】


飲めばたちまち、元気モリモリ!

疲れたときほど効果激盛り!

ファイト! 一発!


効果時間:60分


製作者:ログ爺


――――――――――――――――――――――――


 全員の視線が、ログ爺へ集まった。


「わ、わしは何も知らんぞ……」


* * *


「そもそも、効果時間は六十分のはずじゃ」


 ログ爺は首を振った。


「ここに入ってからでも、もう効果時間が終わってるはずじゃ……ありゃ? カウントダウンされてないのお」


 蜘蛛のバフアイコンの下には、本来表示されるはずの残り効果時間が表示されていなかった。


「効果時間が伸びるバグがあるんじゃね?」


「あ……カームと同じじゃ。二度舐めでおかしくなったのかもしれん。スッキリ解決じゃの」


 ログ爺は、ようやく納得したかのようにうなずいた。


「スッキリしてる場合じゃないよ! アレは消せないの?」


「キュア・ポイズンで消せるはずじゃ」


「あれって毒なの!?」


「毒も薬も、根っこは一緒じゃ」


「でも、おいらたち全員シーフだし、ログ爺はアルケミストだし、回復魔法を使える人いないじゃん」


「なんだい、キュア・ポイズンでいいのかい?」


「えっ! もしかして、おばちゃん使えるの?」


「そりゃ、家政婦の嗜みだからね」


 そう言うと、ミルクルはすぐさま詠唱した。


「キュア・ポイズン!」


* * *


 蜘蛛は、わずかに後ずさった。


 さっき、灰色の棒を振りかざして迫ってきたヤツが、こちらを見て何かを叫んだ。


 昔の記憶が蘇る。


 どこかの家へ入り込んだときのことだ。


 物置の隅に、ささやかではあるが、自分としては立派な巣を張った。


 体力の限りを尽くして糸を生成し、丁寧に配置した。


 これからここで獲物を捕まえて、生きていくのだ。


 そう思った矢先だった。


 白い衣服を身につけ、灰色の棒を振り回す人間が物置へ入ってきた。


 そいつは耳障りな音を立てながら、棒を振り回した。


「もう、すぐ巣を張っちまうんだから! しっ! しっ!」


 今、目の前にいる人物と、ほとんど同じ格好だった。


 武器も、同じ灰色の棒だ。


 そして、目の前のソイツは不気味な言葉を紡ぎ、白い光をこちらへ向けた。


 逃げなければならない。


 ささやかに生きていくことが、彼女の唯一の望みなのだから。


 だが、部屋の出口へ向かう方向には、アイツらがいる。


 ふと、一年前、この部屋へ侵入してきたときに通った穴が目に入った。


 しかし、今の自分の体格では、穴を通ることはできない。


 そのはずだった。


 だが、なぜか穴が大きくなっている。


 これなら――。


 蜘蛛は糸を後方になびかせ、大穴へ飛び込んだ。


* * *


 ターゲットしていた蜘蛛のHPバーの下から、バフアイコンがすっと消え去った。


「アイコン剥がれたよ!」


 ププンが声を上げる。


「あれ、アイツどこ行った?」


「小さくなって、そこの穴に飛び込んでいったぞ」


「逃げられたか……」


「まあ、いいじゃない。助かったよ……」


「爺さん、さっさと穴を塞いじまえよ」


「そうじゃった、そうじゃった」


 ログ爺は、壁に立てかけてあった床板を穴の上へ被せた。


 そして、後ろ手に机の上の空瓶を回収し、そっと隠す。


「これで一件落着じゃ。飯でも行こうかの?」


「お、もちろん爺さんのおごりだよね?」


「もちろんじゃとも。でも、あとで蜘蛛の巣の掃除も手伝っておくれよ」


「おう、いいぜ。この糸はお宝らしいしな」


「そうなの? おいら、先に掃除しちゃおうかなー」


「ププンは、相変わらず調子が良いのお」


 蜘蛛の巣だらけの室内に、ひととき笑い声が満ちた。


「小さな蜘蛛さん、スタコラサッサ♪ みんなはグゥグゥグゥ大合唱♪ 僕はクルクル♪ ヘートヘト♪」


* * *


 セレノスの酒場『ルーイン・ゴート』。


 ギルド『トーチ』の根城である。


 ホールでは、ケンタと結が夕食後のお茶を飲んでいた。


「あれ、あんなところに蜘蛛の巣ができてるよ」


 結が指さした先。


 天井の片隅に、小さな蜘蛛の巣があった。


「掃除、ちゃんとしてるのかなあ……」


 結が立ち上がろうとすると、ケンタが手を上げて止めた。


「ほっときなよ。俺の故郷じゃ、蜘蛛は益虫なんだ」


 手元の黒い飲み物を飲み干すと、ケンタは続けた。


「それに、あんな綺麗な巣を作ったのに、壊すのは可哀想だろ」


 言われてみれば、その巣は綺麗に等間隔で編み込まれていた。


 店内を照らす魔法の蝋燭の光を反射して、細い糸がきらめいている。


「そうだね……」


 ケンタと結は、しばらくその巣を見上げていた。


(おわり)


――閑話:ロード・オブ・ザ・リアル(4)(後編) あとがき


 最後まで読んでくれて、ありがとうねえ。


 アルギュレア家政婦紹介所のミルクルだよ。


 次回の『マジチー』は、来週火曜日のお昼頃に本編を公開予定みたいだね。

 そっちも読んでもらえたら、おばさん嬉しいよ。


 もし少しでも楽しんでもらえたなら、ブクマや★で応援だけでもポチッとしてくれると、励みになるそうだからね。

 よかったら、よろしく頼むよ。


 さてさて。

 掃除は家政婦の仕事だから、蜘蛛の巣を払うくらいはいつものことなんだけどねえ。


 生き物そのものを追い払うとなると、やっぱりちょっぴり気が咎めるもんだよ。

 虫だって、わたし達と同じように生きてるんだからね。


 だから家政婦は、虫を潰さないように新聞紙を絶妙な具合に丸めて使うんだよ。

 硬すぎてもいけないし、柔らかすぎてもいけない。

 あれはあれで、ちょっとした加減があるんだよ。


 まあ、中には「潰しちまうと、あとで掃除が大変だからね」なんて言う人もいるけどさ。


 そういう人だって、きっと内心じゃ殺生は御免なんだと、おばさんは思ってるよ。


 それじゃあ、またね。


 家事のご用命があったら、いつでもアルギュレア家政婦紹介所まで声をかけとくれ。


――ミルクル


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