Report32:ELIN(エリン)01
電波障害からおよそ1週間後の土曜日。五浦地区の桜まつり当日。現実世界の桜が八分咲きとなり、山河と仲村渠はカメラを持ち、動き回っている。
「山河さんはあちらの撮影をお願いします!私はこの付近を撮りますから!」
「了解しました。」
2人が手にしているカメラは電子世界の立体映像を撮影できる最新モデルのもの。山河は面倒くさいという気持ちを持ちながらも仕事をしている一方で、彼の近くにいる仲村渠は楽しんでいる。それは桜の景色というよりも撮影をするという行動を楽しんでいるようにみえた。彼女たちの様子を遠巻きに見ているのは、小澤と渕上、三上の3人。ふと、渕上が言葉を発する。
「あの事件というより事故があったのに、立体映像の桜を咲かせているのってすごいことだよね?」
「三上さんの言う通りです。今回の桜まつりは例外が良いものばかり積み重なって出来上がっていると思います。」
「しかし、大変だな…。現実世界だけじゃなく、立体映像の桜も一緒に撮影するのかよ。」
「ま、まぁ~、山河さんも仕事ですから。あはは…。」
「アキラ君、あとでソウジ君に差し入れする?」
「や、山河さんは仕事中ですけど。」
「よし!三上ちゃんの言う通り、差し入れに行こう!」
「うん!まずは見て回らないといけないね!」
「えっ?」
「それから2人が一緒にいるタイミングを狙っていかない?」
「イイネ、三上ちゃん!さすがっ!」
「ええーーーっ!!」
普段から公私共にペアを組んでいる渕上と三上。この2人を誘ったのは失敗だと小澤はこの時、思っていた。
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19時30分、仕事終わりの山河が3人と合流。近くのレストランで食事をとることとなったのだが、心休まる食事にはならなかった。山河と仲村渠の関係について渕上と三上から質問攻めにあうことおよそ1時間。しつこい質問に対して山河が苛立ちを隠しきれなくなり、動こうとした。その様子を見て、流石にまずいと思った三上が話題を変える。
「そういえば、さっき彩ちゃんから聞いたんだけど、ソウジ君は処分が軽かったとか。」
『え!?』
重なる声は小澤と渕上。小澤の声は話題が変わったことによる驚きの声。渕上の声は調子に乗りすぎて弄りすぎたと気まずさを感じさせる声。それを敢えて気にせず、山河は喋り始める。
「違反したことの処罰よりも、電波障害による悪影響を軽減させた功績の方が評価に値するということらしい。」
「ソウジが対抗策を見つけたってことか?」
「俺のはその場しのぎの一例。」
「そうですね。あれは異常なまでの高出力を出せた状態だからできたと思います。」
「なるほどな~。三上ちゃん、同じこと俺にできる?」
「無理!まぁ、アキラ君があれをやろうとしたらその時点で止めるけど。本気で。」
「ええと、つまりですね、電波障害を邪魔するほどの電波を生み出せればいいということです。力づくじゃなくても大丈夫です。」
「なぁ、三上ちゃん。電波障害をどうにかすれば立体映像の桜の花びらが人を傷つけることは無くなるのか?」
『・・・』
「な、なぁ。誰か答えろよっ!」
「三上さん、よくアキラのナビゲーターやっていますね。」
「ホント、情報収集さえちゃんとしてくれれば最高なんですけどね…。」
「お、おい…。」
「や、山河さんも三上さんも言い過ぎですよ、正直に言ったら傷つく人もいるんです!」
「お…、うぅ。」
(女性2人の言い方はトドメを差しかねない言い方だな。俺も気をつけよう。)
落ち込んでしまった渕上を慰める三上。三上は渕上を連れて店外へいく。その様子を見て少し困惑している小澤と溜息をつく山河。10分後、頬を赤らめた三上と片頬が異常に赤くなっている渕上が笑顔で戻ってきた。
「アキラ、大丈夫か?」
「ああ!大丈夫だ!」
「で、でも、頬が赤く…」
「問題ないっ!」
(くい気味にしゃべったな)
(問題はあるみたいですね)
時刻は21時00分をわずかに過ぎた頃、デバイスが連絡データを受信する。それは4人の名前が名指しで明記されているもの。顔を見合わせた4人は、データを最後まで読む。そして、渕上が話を切り出す。
「何だこれ?」
「何でしょうね。山河さん、わかります?」
「知らない。」
「それはそうでしょ。デバイスのフレーム製造からプログラムまで組んでいる世界2位の企業と私たちには共通点なんてないしねぇ。」
「三上ちゃん、この会社そんなにスゴイの?」
『はぁ…』
渕上の発言に対して3人が同時にため息をついたタイミングで、通信が入る。
「夜、遅くにすまない。来週、ELINへ行ってもらうことになった。」
「これには日時と場所、持ち物しか書いてませんけど、1日かけて俺たちは研修で何をするんですか?」
「研修の内容は当日に伝える。」
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翌週、朝9時。4人は世界的にも有名な企業であるエリンの大会議室にいた。ただ、その大会議室には彼ら以外に人がいない。
「なあ、三上ちゃん。誰もいないんだけど。どゆこと?」
「私に聞いてもわからないよ。」
雑談をしばらくしていると、扉が開いて4人組が山河たちのもとへやってくる。そして、そのうちの1人が渕上に話かける。
「アーサーは君でいいかい?」
「ああ、そうだけど。」
「じゃあ、彼とナビゲーターの子は移動するからついてきて。」
『は、はい。』
渕上と三上は最初に声をかけた高橋と出口の男女ペアに連れられて移動する。会議室に残ったのは山河、小澤と白衣をまとった男女ペア。そして、女性が話をはじめる。
「私は橋本和美で、彼は佐原翔です。私たちはエリンでデバイスの開発と改良に関わっています。今回、わざわざお越しいただいたのはヴァンのデバイスを検査するためです。検査するにあたって、私たちと模擬戦をする必要があります。」
「そ、そうなんですか?いつもメンテナンスしていますけど、何か悪いところでもあるということなんでしょうか?」
「俺は気が進みません。」
「ちょ、ちょっと、ヴァンさん!ダメですよっ、そんな言い方したらっ。」
「小澤さん、検査するだけなら、わざわざ戦う必要はないでしょう。」
「はい、そうだと思います。」
「俺の動きまでデータにするつもりですか?何で戦うことが必要なのか、その理由が知りたい。」
「それは…。」
「それは、俺から説明する。おい、ヴァン、とにかく俺と戦え。手加減はなしだ。」
「あの、いきなりは戦えないです…。」
「関係ない。戦えないなら、戦わざるをえないようにしてやる。戦わないというのなら、お前たちの秘密を公にする。」
「とにかく説明はしてくれるんですよね?」
「ああ、そうだな。お前たちに合わせてデバイスを改造するためだ。」
「すごい企業に改造していただけるなんて、すごいですよ!!」
「…、確かにそうですね。小澤さんの言う通りです。でも、なぜ俺たちなんですか?まだ、任務に参加できるようになって1年未満のルーキーですよ。別の狙いがあるとしか思えないです。」
山河の発言が終わった直後、彼の右側をオレンジ色の斬撃が通り過ぎていく。それを見た小澤と橋本は会議室の隅へと退避していく。斬撃を振るった佐原は片手で刀を持ち、山河に向けて構えをとる。
「次はあてる。あてられたくないなら、ちゃんと回避して、ちゃんと戦え。」
「もし、面倒だといったら佐原さんはどうしますか?」
「壊す。お前たちのデバイスが保存しているバックアップデータも消す。」
「…、すぅーー。ふぅーー。…、戦えばいいんですね。」
「それでいい。ただし、俺が満足して、止めと指示するまで戦い続けてもらう。」
「それ以外で終わらせる方法はありますか?」
「そうだな…、対戦する俺のデバイスが停止すれば、もしくは計測器の故障が起きれば検査は強制的に終了するしかない。」
「了解しました。」
「ちなみに、お前たちに課せられている全部の制限は、この会議室内だけだが、解除されている。違反行為も問題なく使える。」
『え?』
山河と同時に小澤が驚く。佐原は何も説明をしようとしないので、橋本が補足説明をするために立体映像を投影する。
「この建物内で展開される現実化舞台は、エリンが独自に展開しているものです。だから、アークバスターズへの申請は不要で、違反行為の検知もされない。これは承諾済みだから安心してください。」
「ふぅ。小澤さん、シークレットをやります。」
「ええっ!!」
「俺が攻撃を始めてから3分後にディスチャージをお願いします。」
「いくらなんでもき、危険です。実際の肉体ダメージが無いとはいえ、多少なりとも反動は受けます。佐原さんが避け方を間違えたら大惨事になります。」
「これは直感ですけど、多分、最低限のダメージを受けるだけです。回避とか打消しとか方法は予想できないですけど、そんな感じがするんです。むしろ、全力で打ち込まないと逆に打ち込まれると思うんです。」
「わ、わかりました…。気をつけてください。」
「スイレン、タイム現実化起動!!」
橋本の解説を聞いた山河は小澤に通信で話かける。山河の考えを聞いた小澤は不安ながらも同意する。その確認をした山河はスイレンを威力重視のバレットモードで、タイムをデュプリモードで起動。
(銃弾を複製して、一気に攻撃をする。)
「遠距離攻撃か。やってみろ。」
「ちっ、嫌な感覚しかしない。当てられそうにないが、やるしかないか。」
意を決した山河は銃弾を佐原に向けて放ち始める。それは30秒間という時間からすると僅かだが、山河にとっては長い時間の出来事。攻撃されている佐原の周辺は電気がバチバチと発せられていた。だが、佐原には攻撃が届かない。その状況を理解した山河は攻撃を止め、無意識なのか、考えていることを言葉にしていた。
「分解はされていない。ただ、防がれているだけだけど、全体防御か。ピンポイントでのシールドなら攻略はできそうだけど、全体を包むシールドはなのはめんどくせぇ。威力でゴリ押しすれば…、いや、厳しいか。力で押すしかないけど、わかっているけど仕方がないか…。」
「考えているだけじゃ、終わらないぞ。」
「そういえば、防御だけしかしないんですか、随分な態度ですね。」
「どういうことだ?」
「攻撃してこないのは、なめているのと手加減しているっていうことですよね。手加減はいらないとか、ちゃんと戦えと言うなら、そっちも手加減しないでください。」
「俺が攻撃したら戦えなくなるぞ!」
「手加減されるよりマシですよ。」
そう言った後に山河は再び銃による攻撃をしかけていく。ディスチャージまで残りは約2分、大技の準備を進めていく上で、会議室内には大量の電子情報を散布させておく必要がある。大技をより強力にするためには山河だけではなく、佐原が放出した電子情報も必要になるので、山河としては佐原に攻撃をしてもらわないといけない。だが、佐原は攻撃をしてこない。
「一応、無駄だと思うけど。別の案でやってみるか。」
「何をブツブツと言っているかはわからないが、来ないのか?」
「っし!」
山河は走り出し、弾を打ち続ける。佐原は先ほどと変わらずに防御を続けている。彼の周囲を走りまわっている山河は隙がないのか様子をうかがっていた。そして、数十秒後。山河は突然、佐原に向かって真っすぐ走り出していく。
「おおおおおおおおおっ!!」
「ん!?」
「うおらあぁぁぁぁ!!!」
佐原は防御を維持しつつ、突進し叫び散らす山河を避けた。避けられた山河は佐原に向かって走っていくと思いきや、真っすぐ駆け抜けていく。走る彼の先にあるのは会議室から出る扉。
「うらぁあ!」
ドンっ!という音と共に動くのは山河の体。扉に弾かれていた。彼は表情に出さないが僅かながら動揺をしていた。動揺はしているが山河は考えることを止めずに次の行動へ移る。それは装備をスイレンの剣形態であるバスタードモードに変更しながら会議室内を駆けまわる次への布石。そんな山河を見ている佐原はゆっくり歩きながら、彼を追う。
「ヴァンさん、シークレットコード起動します。ディスチャージまであと15秒です。」
「了解。」
「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、ディスチャージスタンバイ!」
「ディスチャージスタート。」
山河が展開している剣から膨大な電子情報が放出していく。それを確認した彼は佐原へと向かっていき、大技を打ち込む。
「ソード・トゥ・ディスセクト!」
佐原が展開しているバリアと山河の剣がぶつかり合い、会議室内が白よりも白い光に包まれる。目視で確認できないが、ぶつかり合う音が鳴り響く。小澤と橋本が状況を確認できたのは、音と光が消えた後だった。




