Report31:桜の開花02/助けるんでしょ
動き始めた山河はゴーグルを装着して、辺りを見回す。ゴーグル越しに見える世界は桜の花びらが舞い散る景色。その中にはサングラスを外す大勢の人がいるが、興味本位でサングラスを着ける人もいた。
「警察の注意喚起でサングラスを着けている人数は減ったが、ゼロじゃない。」
彼は無表情ではあるが、内心は面倒だという気持ちばかりで、思考が少し止まっていた。このタイミングで小澤が山河のもとへ合流する。それと同時にアークバスターズのシステムが起動した。
「やっと、システムが起動して現実化舞台が展開できた。まずはこれでいい。」
「ヴァ、ヴァンさん!」
「小澤さん?」
「不思議そうに思わないでください。これでも急いで来たんです。それよりも、【違反】していますよね。どうしてですか?」
「ああ、その理由の1つは通信障害の影響を受けずに日本支部へこの場所を通知するためです。もう1つはターゲットもしくは犯人を見つけ出すためです。」
「でも、デバイスは思う通りに使えるかどうかわからない状態です。どうやってターゲットを倒すつもりですか?」
「それには、小澤さんの協力が必要なんです。力を貸してくれませんか?」
「も、もちろんです。ですけど、私にできることは…。」
「切り札を使います。」
「それって、禁止されていますよね、許可はとれたんですか?」
「いや、とれていない。それよりも、まずはターゲットを特定したいです。」
「わ…、わかりました。でも、フィールド内しかサーチできないですけど…。」
「それで構いません。状況把握が出来ればいいですから。」
彼女にそう告げた山河は静かに現実化している一丁の銃を構える。武装が1種類しかないのはデバイスの仕様。スイレンの現実化初期状態はバレットモード。タイムの現実化初期状態はアシストモード。モード切替は通常ならば彼の意思で自由にできるが、違反行為をとった今の状況ではそれができない。
「小澤さん、俺のデバイス2つ同時にコントロールできますよね?」
「ふ、2つですか?」
「お願いします。」
「(まっすぐ見つめられると、断りづらいですよ。)…、はい…。」
小澤がサポートの準備をしている間、山河は目を閉じ、考えをまとめる。
「剣を使う一閃は被害者の数を増やすだけ。正確に花びらだけを撃ち落としていくのは、コントロールがまともにできない状況だとリスクがある。とにかく、手数は少なくしないといけない。このフィールド内にいる全員がゴーグルを外すのは無理だろう。じゃあ、どうする…。電波障害、ランダムな花びら、警察、サングラスか…。」
「こら、君もサングラスを外しなさい。今は危険だから外すんだ。」
「ん?って、ちょっと待ってくだ。」
「それから、バーチャルとはいえ、おもちゃの銃を持ち歩くのはヤメナサイ。成人なんだから。」
考えをまとめ終えた山河に突然、サングラスをしている警察官が声をかけて、銃の注意をしてきた。警察官の注意に彼は不機嫌になったが、無表情のまま、現実化している銃を持ち、その場を去る。そして、人がいない空き地へ移動しながら小澤に自らの考えを説明した。彼女は困惑したが、山河の作戦に同意し、彼の指示通りに準備をする。準備をしつつ彼女は話を始めた。
「ヴァ、ヴァンさん。私にはこの作戦がどんな結果になるのかわからないです。結果が予測できないものよりも、私が桜のシステムにハッキングして止めた方がいいと思います。」
「それは難しいと思います。運営側からしたら、正常に稼働しているんです。それにシステム介入は他の地域にまで、影響が及んでしまいます。…、確かに小澤さんの言う事は一理あります。色々と考えることはありますけど、今回は被害を狭い範囲にとどめたいんです。」
「…、はい。わかりました。切り札の準備は出来ています。いつでも使えます。」
「スイレン、吸収起動」
現実化舞台内の電子情報が山河の右手にある銃へと集まる。桜の花びらのいくつかも、彼の銃に集まり、吸い込まれていく。情報をかき集め続けること約40秒。小澤の判断で吸収完了となり、準備が整う。
「ありがとうございます。」
「あ、あとはお願いします。暴発しないギリギリまで溜めました。気をつけてください。」
「小澤さん。」
「な、何でしょうか?」
「倒れたら、あとお願いします。」
「え。えええーーーーっ!?」
「凌駕攻撃」
小さな声で呟く山河。銃口は地面に向いている。その状態で砲撃を放ったため、衝撃は地面の中を逃げることが出来ず、山河自身や周囲へと衝撃が伝わっていく。
「くうううううーーーーー。」
「わっ!?すっ、すごい電磁波です。私のデバイスがフリーズしています!!ほかの電子機器は?」
山河は砲撃を放った後の衝撃と電磁波、閃光の影響で顔をしかめながら、苦痛の声を発する。砲撃を放ち続けた時間は約10秒。その後、彼の武装は解除され、銃は手元から一瞬で消えていった。閃光を直視しなかった小澤は彼の手元に銃が無いことを確認すると、すぐに駆け付ける。
「ヴァンさん、大丈夫ですか?」
「よ、寄るな。」
「あ、あの…。喋り方がおかしいです…。」
「か、かん。でん。」
「っ!!!」
山河がおかれている状況を把握した小澤は予想外すぎて声を発せなかった。アークバスターズの管理下にあるデバイスを持っていれば、感電することは無いと伝えられていたからである。
「え、えっ、えっ?私、どうしたら?って、着信!?」
「もしもし、彩ちゃん!平気?」
「寿せんぱい。わ、わたしっ、どうしたらいいんですか…?」
「落ち着いて、慌てないで、状況を説明してくれる?」
小澤は寿の声を聴き、安心したのか、泣きだした。泣きながらも、状況を少しずつ寿へ伝えていく。そして、話を聞き終えた寿は小澤に話しかけながら状況を整理する。
「つまり、山河君はデバイスを操作出来ない。ゴーグルからの映像は確認出来ない。自己分析としては感電しているということね。」
「はい。」
「元気だしなよー。暗くなっても状況は変わらないって。」
「は、はい。」
「じゃー、解決法を教えるね!」
「はい…、って、先輩!?」
「その前に、山河君はデバイスをどこに装着しているかはわかる?」
「腰ですけれど。」
「なるほどね~。なら、あとは絶縁体のものをぶつけてデバイスを撃ち落とすか、手足に絶縁体のものを装備して、つやちゃんが蹴り落としたり、引きはがしたりするしかないかな。くれぐれも、山河君に触っちゃだめだからね。」
「きゅ、急に言われましても…。」
「だいじょうぶだって~。」
「でも、私にはでき」
「…、もうっ。」
「えっ?」
「できない、できるじゃないの。行動を起こさなきゃダメなの!何回も言っているけど、引きずりすぎだよ昔のこと。」
「ひっ!」
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小澤が高校1年、寿が高校3年の初夏。女子バドミントン部の2人は練習をしている。部員は3年生が4人、2年生が9人、1年生が5人。寿は夏休み中に開催される最後の公式試合に向けて練習をしていた。寿や小澤はプレイヤーとして他の部員より劣っていたが、熱中する時間を楽しんでいたが、公式試合の3日前、突然に1年生と2年生でもめ事が起きた。
「ちょっと、その動きじゃ勝てないですよ。」
「はぁ?何?なんなの?」
部内の中では良い成績を残している1年生川勝と2年生青木がシングルスの練習試合をしていた。1年生がポイントを連取している状況で、発した彼女の言葉は先輩の機嫌を損ねることにつながった。
「あーあー、ついにやっちゃったね~。」
「ちょっと、調子乗りすぎでしょ、1年。」
そんな状況の中、職員室へ顧問から呼び出されていた3年生4人が戻り、その直後に図書委員で遅れてきた小澤が体育館へ行くと騒ぎが大きくなっていた。他の部活動に参加している学生はそれを遠巻きに見つつ、部活を続けている。体育館内に教師やコーチの姿はなく、騒ぎを制止する人は誰もいない。3年生と合流した小澤は慌てながらも、先輩達へ助けを求める。
「先輩達、止めてください。み、みんなが!」
「つやちゃん…。巽部長、どうしますか?」
「真紀。部長って今更呼んでどうしたの?」
「美沙、どうするっていう話だよ。もうすぐ引退だけど、まだ部長でしょ。」
「…、3年は関与しない。」
『えっ?』
部長の巽美沙は言い切った。他の3年生は声を揃えて驚いたが、納得をして、その場を去る巽のあとを追っていった。1人残された小澤は先輩達に助けを求める。
「せ、先輩!わ、わたしだけじゃっ!」
「つやちゃん…。」
「真紀!…、行こう。」
「うん…。」
3年生が去った後、小澤は慌てていたが、やがて怯えに変わり悲鳴をあげた。
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「あれから何年経ったの?色々なことを経験して、成長して、乗り越えてきたよね?今、この場にいるのは、つやちゃんだけなんだよ。」
「な、なら助けを呼びに行きます。」
小澤は駆け出す。だが、寿の呼びかけで立ち止まる。
「逃げない!!」
「うっ。」
「山河君が最短時間で助かるためだよ。」
「うーーーー。」
「泣かないっ!前に言ってたよね、力になるんじゃないの!?」
「うーーーーーーーっ。」
「助けるんでしょ!!」
寿が大声で言った一言に反応した小澤は駆け出していく。
「あああああああああああ!!」
叫びながら彼女は一直線に走り、飛ぶ!そして、山河のデバイスを1つ、飛び蹴りで蹴り落とす。その後、彼の横を駆け抜けた彼女は再び、走る。
「やあああああっ!」
もう1つのデバイスも蹴り落とした小澤は勢い余って転がっていった。感電状態から解放された山河はうつ伏せに倒れ込む。転がり、起き上がった小澤は彼のもとへ駆け付ける。
「だ、大丈夫ですか?」
「ありがとう。」
彼女の呼びかけに小さな声で返答した山河は気を失う。小澤は急いで救急車を呼び、到着までの間、山河の様子を観察する。一方で寿はすでに通信を切っていて、受信する音声だけで状況を確認する。
「よかった。やっと、やっとだね。」
後輩が成長したことを実感した寿は、泣いていた。高校の卒業式で泣くことができなかった分、周りの目を気にせず泣いていた。




